ＹＡＮＧＧＡＷ
（感染）
　
08年：シネマ・ワン・オリジナルズ／リアリティー・エンターテインメント／ラージャー・ザン・ライフ／ストロードッグ・スタジオス・プロダクション
監督：リチャード・Ｖ・ソメス
主演：ロニー・ラサロ
　　　 テッチー・アグバヤニ
　　　 ジョエル・トーレ
　　　 アレエラ・モンターリラ
　　　 ジオ・レスパル
　　　 モネット・ガストン
　　　 キート・ブライアン・カバニェス
　　　 レオン・ガストン
　　　 エリック・マッティ
　いっぷう変わったホラーで、ディジタル小品ならではの味わいがある。
　フィリピン映画に定番のアスワンを題材に使い、最初はまたもアスワンものかと失望を感じたし、途中まで退屈さをともなったが、同化の対象をアスワンに感染の娘をもつ父親に焦点をおいてドラマ性をつくる。
　田舎の山の町に暮らす一家が主人公。父のジュニア（ロニー・ラサロ）、母のインダイ（テッチー・アグバヤニ）、上の息子のトト（ジオ・レスパル）、トトの妻のエルマ（モネット・ガストン）、下の息子のアブネル（キート・ブライアン・カバニェス）、トトとエルマの息子のレオン（レオン・ガストン）が一緒に住む。そこへ出稼ぎでマニラにでていた娘のアモール（アレエラ・モンターリラ）が奇病を患って帰り、悲劇がはじまる。
　バランガイの役員で友人のドルポ（ジョエル・トーレ）とヴァレー・ボールで対決や、泥棒の疑いがかかる男（マイケル・エスパニョル）を証拠もなく撲殺で、まずジュニアの好戦的でファミリー偏愛の性格を示す。アモールが夜に村人を襲う事件が発生に、ほかの家族が逃げようと考えるも、絶対にジュニアが娘を見捨てないといい、いったん去った家族が戻るあたりにフィリピンのファミリー優先の気質がにじむ。
　また、ジュニアたちが懸命にキリストに祈るばかりでなく、医者（リレット・レイエス）が放棄で西洋医学が無力と判明のあと、呪い師のラサルス（エリック・マッティ）を頼り、ラサルスが原始的な悪魔祓いをおこなうあたりは、キリスト教の深い浸透ぶりがわかる。まあ、アスワンの実在を前提がバカっぽいも、人肉をむさぼるアスワン自体がキリスト教的なモンスターかもしれない。
　ついに昼間は人間で夜間のみアスワンに変身のアモールがレオンを食べ、あわれに思うなら殺してほしいと懇願にジュニアが娘の殺害を迫られる。
　全体的にアモールがバランガイ役員の助手や泥棒容疑者の親戚と襲ったうえ、父娘の親子や中年女性、娘と妻を守る夫を襲撃を一気にみせるシーンの迫力不足がホラーに足りず、満足度をさげる。おびえる少年二人を保護のバランガイ・パトロールがアモールをアスワンと気づき、その退治でもめてジュニアがドルポを刺殺の事後談がない点もおさまりが悪い。リチャード・ソメスの演出、リチャード・ソメスとドワイト・ガストンの脚本ともに決定打を欠く。
　でも、色あいを抑えたヘルマン・クララヴァリュとライル・サクリスの撮影が雰囲気をかもし、作品の規模に比例すれば、まずまずのレヴェルといえる。
　とにかくロニー・ラサロのワザとらしいまでの熱気に満ちる演技が中心を占める。おおもとの企画に納得のいく芝居をロニーの役に与えようとの意図があったと推測できるほど。
　アレエラ・モンターリラは少しかわいいお姉ちゃんみたいな印象で、やはり正常と異常の演じわけに実力をみせた。