ＴＨＲＥＥ ＳＩＢＬＩＮＧＳ， ＴＷＯ ＷＯＲＬＤＳ， ＯＮＥ ＥＭＰＩＲＥ
07年：シオン・フィルムズ／ヴィジュアル・キャンプ／エーシャ・パシフィック・カレッジ・スクール・オブ・マルティメディア・アーツ
監督：ショーン・リム
主演：イザベル・グラナダ
パオロ・バリエステロス
ラファエル・ナンキル
ジェリー・ジェナスキー
クレメンティン・ポブレテ
ロニー・マルティネス
ダニー・マギサ
ヒヤスミン・ネリ
レスリー・レヴェリサ
アラン・マラシガン
リリー・チュー
ニン・コルテサ
ＰＪ・ラノット
ディジタルのＳＦ作品で、エンターテインメントに徹するのではなく、作者のインテリっぽさが鼻につくのがマイナスといえる。
状況設定の解説が冒頭に入って「十億光年前」と記されているが、地球に舞台を移せば二十年前になっている。だと八十七年くらいと推測するも、たまたま倒れていた女性を救う市長（ダニー・マギサ）の乗る車は五十年代後半のモデルのように思える。この時代錯誤は意図的ではなく、適当といった感じなのがインテリでもフィリピンっぽいかもしれない。
映画ディレクターのゼウス（パオロ・バリエステロス）、修道院で孤児の世話をするエリ（イザベラ・グラナダ）、バーテンダーのドリックス（ラファエル・ナンキル）は別々の環境で暮らすながら、怒りを念じると相手に頭痛や鼻血などのショックを与え、近くにあるものが壊れる能力をもつことで共通している。ひとりが念じれば、離れた場所にいるふたりにも怒りの苦悩が伝わるのに血縁をにおわせる。尼僧のステラ（ニン・コルテサ）がエリに実は三人兄弟妹であり、二十年前に市長が妊娠中のリリア（クレム・ボブレテ）を助けてきて、三つ子を出産のうえに亡くなった。男の子のふたりはもらわれ、女の子のエリだけがここで育った過去を教える。ボーイフレンドのデニス（ジェリー・ジェナスキー・アグアス）と一緒に孤児院をでて市長を訪ねたエリは、そこで母の幻影に会って話を聞き、母がセノア星の女王のライアンで、自分たちがセノア星人だと知る。天国だったセノアが侵略者によって荒らされ、セノアに平和を呼び戻すのがライアンの子どもたちだと信じる人々のために必要な存在なのだと。一方でドリックスは父親（アポロ・アブラハム）の虐待による愛情のうすい家庭で大きくなったので屈折していて、そんな病んだ心にセノアからの悪の使いのノラク（ロニー・フェリペ・マルティネス）がつけいる。三兄弟妹はお互いに引かれ合うようにゼウスのバースディー・パーティーの会場へ集まったり、車を奪い合ったりのあと、ゼウス＆エリ対ドリックスの超能力対決のすえにドリックスが正気に戻り、三人でノラクをやっつける。
冒頭のクレジットの書体やデザインが中世の騎士物語ふうで『スター・ウォーズ』の精神を連想させ、地球に近づく宇宙船に荒唐無稽な内容を期待したが、思わせぶりな表層のドラマにすぎない。制作費の関係だろうがセットが安っぽく、寒々としたイメージがただようのもイマイチになる。ライアンやノラクがセノア語（？）をしゃべり、字幕が入るあたりや、いきなり室内から野原へ舞台が飛躍の超能力対決で炎が燃えあがり、地面にゴシック調の文様が浮かぶ映像センスにショーン・リムなど作者が知恵をしぼったとうかがうも、エリがライアンから代々うけつぐべきとのペンダントをわたされるのを含め、ありきたりなアイディアにとどまる。エリの予知能力も平凡な表現の範囲内におさまる。ゼウスの恋人のジェーン（ヒヤスミン・ネリ）やドリックスと恋に落ちるアマンダ（レスリー・レヴェリサ）が突然に消えたり、目が光ったりで意識をあやつられて事件に巻きこまれ、その反応をしっかり描かないので後半に疑問が残る。エリがデニスに宇宙へのあこがれを語って乙女ティックな伏線をひくも、デニスまでが超能力を駆使はどんなものか。またアマンダのボーイフレンドのマイク（ＰＪ・ラノット）が銃をもちだすのはドリックスを銃弾くらい平気と提示との狙いを読むが、あまりにも安易な銃の使用がフィリピンの映画においては当たり前でも、フィリピン人の一般性からははずれるわけで、しょせんは低レヴェルとの嘆きがもたげる。エリがペンダントで宇宙船を呼び、ドリックスがアマンダに「帰ってくる」と約束のうえ、三人が宇宙船へ吸いあがるラストに、まったくオリジナリティーの欠如を感じるのみ。ゼウスが裕福なのは父親（カツジ・キクチ）が中国系とのあつかいに、なるほどと納得するくらい。
女優陣はイザベラ・グラナダ以外は無名で、尼僧を演じるデデス・ゴンザレス、グレン・アミニャオ、ジョイ・キゾン、メアリー・マサマヨル、孤児を演じるシャーウィン・ボロメオ、セシリア・トゥママク、エープリル・ロペス、ゼウスの秘書役のリリー・チュー、女子アナウンサー役のカレン・アグスティン、バーの客役のソフィア・カスタニェーダ、ドリックスのアパートの管理人役のモネット・ロセーリオ、市長のメイド役のアイリーン・ベサ、ゼウスの友人役のアン・ファレルなど、さほどかわいくない。ゲスト出演でスターがほしかったところ。レスリー・レヴェリサとヒヤスミン・ネリもちょっと色っぽい程度ながら、一応、レスリーにはシーツをボディーに巻いたベッド・シーンがある。さすがにイザベラは美人度が光り、白い衣装で寝ているショットが妙にそそる。ジーンズ姿でもムズムズっと迫る艶をもっている。
