’ＷＡＧ　ＫＡＮＧ　ＬＩＬＩＮＧＯＮ
（ちらりと見るな）
　
06年：ＡＢＳ−ＣＢＮフィルム・プロダクションズ／ＶＩＶＡフィルムズ
監督：クァーク・ヘナレス（ＵＹＡＹＩ）
　　　 ジェリー・ロペス・シネネン（ＳＡＬＡＭＩＮ）
主演：クリスティン・ヘルモサ
　　　 アン・カーティス
　　　 マーヴィン・アグスティン
　　　 チェリー・パイ・ピカチェ
　　　 レーモンド・バガチング
　　　 セリーヌ・リム
　　　 ディンプレス・ロマナ
　　　 バロン・ガイズラー
　リッキー・リーの脚本のうまさでみせるホラー。『ＵＹＡＹＩ』（子守唄）と『ＳＡＬＡＭＩＮ』（鏡）の二話構成になり、それぞれアン・カーティスとクリスティン・ヘルモサが主演。
　クァーク・ヘナレスの『ＵＹＡＹＩ』は病院を舞台にとっている。焼けただれたような黒い男に患者が殺され、カール医師（レーモンド・バガチング）に容疑がかかる。看護婦のメリサ（アン）が真相究明に興味をいだき、恋人のジェームズ（マーヴィン・アグスティン）が仮病で入院して協力態勢をとる。第二の犠牲者がでる中、メリサも幽霊をみてＴＶでキャスター（ジェニー・ジャモラ）が病院の怪と報道する。カール医師が車の前方に幽霊のでる事故で亡くなり、メリサがジェームズのカルテをチェックすれば精神異常と書かれていたので驚く。しかも別に女性がいるらしい疑惑がもたげる。どうも殺人は深夜三時におきるようす。ついにはエレベーターの異変のあとにジェームズの幽霊が現われ、あわてて生きているジェームズに連絡をとるも、病院内のあちこちに幽霊が出現で逃げまどう。ジェームズが助けにきたとき、ちょうど深夜三時になり、メリサが豹変する。
　看護婦の日常をエッセーふうにはさむ描写が秀逸だが、何度か幽霊のでたあとなので、かえって落ち着いているのがヘンと思わせ、時間的な流れがよくない。またメリサが血みどろの腕につかまれる幻覚がチンプであり、換気扇から血がしたたる衝撃もありきたりの範囲内。ジェームズが異常者をよそおうユーモア・センスがまあまあでも、あとへの伏線として効果が薄い。結婚指輪をわたすための悪ふざけが同様なうえ、病棟の電灯が点滅で病室のＴＶに流れはじめる幽霊の映像が明らかに『リング』の影響をうけている、といった気になる部分が目立つ。誰もいない病院の廊下をメリサが走りまわるのを手持ちカメラで追う移動撮影に感情同化をはばむのがとくにまずく、音楽もこけおどしに聞こえる。本当にいろいろとマイナス要素を含むのだが、オチのドンデン返しで「してやられた」との納得が評価できる。
　ジェリー・ロペス・シネネンの『ＳＡＬＡＭＩＮ』は家つき幽霊もの。幼いニーナ（セリーヌ・リム）が母のルシン（チェリー・パイ・ピカチェ）、姉のエンジェル（クリスティン）と一軒屋へ引っ越してくる。ひとつ開かないドアがあり、電灯のともらない夜、自然とそのドアが開いたら地下室への階段につうじていたので、ロウソクを持って降りてみれば、大きな鏡が置かれている。家に人影が近づき、窓の外をエンジェルが調べると、猫が襲ってくる。翌朝、玄関に複数の猫の死体が転がっている。ニーナが古い写真をみつけるや、背後に子どもの幽霊がでる。ベッドの下にペンを落としたニーナが拾おうとしたとき、モンスターに腕をつかまれ、ベッドに血が飛ぶ現象がおきる。屋敷を紹介したネストル（ソリマン・クルース）に抗議を入れて、電気は申し訳ないが、幽霊は知らないといわれる。霊感の強いエンジェルの友人のトリキシー（ディンプレス・ロマナ）にチェックを頼み、家じゅうに霊が充満するとわかり、原因である地下室の鏡を川へ捨てる。しかも神父（ネンディン・ヨセフ）に悪魔祓いしてもらうが、まだ部屋の鏡には霊が映る。前にこの家で殺人がおきたと聞き、エンジェルが犠牲者のマイラ（ビアンカ・コルテス）の墓へいくと、異様な雰囲気が漂う。ニーナのベッドが動きだし、部屋に血でマークが浮かび、はっきりと少年のような幽霊の出現で、ついにトリキシーの家へ逃げこむ。屋敷を退散の際、カーテンの奥の窓越しに鏡があり、のぞいちゃいけないと思いつつも、つい誘惑でエンジェルがながめれば、自分たちが斬殺される予言的な映像が流れる。トリキシー宅でも異様な声が響き、電灯が点滅し、ガラスが割れて破片が近づいたのでホテルへ移る。鏡にあった未来を変えるべくエンジェルがひとりで屋敷に戻ると、誰かが電気をとめる。ロウソクを持って地下室へ降りれば、再び自分たちが斬殺される映像をみる。
　事前にエンジェルがニーナに未来を教える鏡のおとぎ話をしていて、これが全体の核をなす。エンジェルに恋人のランダー（アーチー・アレマニア）がいるも、同僚のドンナ（サラー・ロペス）と浮気で別れ、ネストルの助手のレッド（バロン・ガイズラー）もエンジェルを好きなようす。またレッドの腕には麻薬の注射のごとき穴がいくつかあいているし、屋敷をながめながら過去の殺人事件を回想している、なんて意味深な謎をいくつか投げかけ、ルシンが咳きこんでいるのも伏線なのかとにおわせつつ、短い時間に配置された人物が無駄な部分を含め、さほどじゃまに思えない点がまずまず。マイラをあやめた犯人がやってきて、今度はエンジェルに襲いかかり、さらには駆けつけたルシンやトリキシーにも魔の手がおよび、幽霊たちがみまもる中での惨劇となる。犯人当てのミステリーもさることながら、サスペンスとしてなかなか楽しめる。幽霊過多な内容なのにホラーというよりスリラーと呼ぶべきかもしれず、このあたりのジャンルわけはむずかしい。
　それにしても脚本のアイディアに拍手を惜しまないのは二つのエピソードをつなぐエピローグであり、第二話で生き残ったものの誰が第一話の主人公になり、第二話のどこが第一話の病院に変わったか。各挿話の逆転に加え、もうワン逆転のプラスは鮮やかと作劇の基本をレクチャーされたようで、たくみなシナリオを演出（とくにクァーク）が十分に生かしきれなかったのが、やや残念だった。
　女優陣はクリスティン・ヘルモサ、アン・カーティスともにイマイチ好みじゃないが、セクシーさを期待したのとは違うので、まあいいかなとの感じ。個人的にはディンプレス・ロマナもクリスティンに負けない美人と感じるし、看護婦の同僚を演じるカトリーン・ヘルモサもアンと同じくらいキュートだと思う。ただしクリスティンなど、もっとメイク・アップをナチュラルにしてほしかった。