ＵＢＯＳ　ＮＡ　ＡＮＧ　ＬＵＨＡ　ＫＯ
（もう私は涙を流しつくした）
　
91年：セイコ・フィルムズ
監督：メル・チョングロ
主演：スーザン・ローセス
　　　 グレッチェン・バレート
　　　 シェリル・クルース
　　　 ロムニック・サルメンタ
　　　 ガルド・ヴェルソザ
　　　 リナ・レイエス
　　　 ヘルマン・モレノ
　スーザン・ローセス演じる看護婦が勤める病院に、リナ・レイエス演じるスター（本人）が入院する。娘をリナのような歌手にしたいとスーザンが考え、グレッチェン・バレート演じる長女にその気がないのに無理やりカラオケで練習させ、ガルド・ヴェルソザ演じる恋人を近づかせない。でもオーディション番組に出演のとき、グレッチェンがガルドとのセックスですっぽかし、怒って家から追いだす。シェリル・クルース演じる次女は歌手志願なのに、気がついてもらえなかったのだが、今度はシェリルの鼻歌を聴いてプロの歌手にすべく躍起になる。実はガルドが浪費癖の暴力男だったため、グレッチェンはバーのダンサーとして働かされるはめに。グレッチェンがストリップをやっているとのウワサにスーザンとシェリルが店にきてみてショックをうける。ガルドの浮気が直らないと知った絶望のグレッチェンがひとり路頭に迷うと、たまたま通りかかったフレッド・モンティリア演じる老人に助けられる。スーザンの強引な売りこみにもかかわらず、シェリルのデビューは認められなかったものの、カネもちのフレッドと結婚したグレッチェンが動き、陰でシェリルとレコード会社との契約を決める。一躍人気をえたシェリルに対し、ロムニック・サルメンタ演じるボーイ・フレンドとの交際をスーザンがジャマする。シェリルはグレッチェンが現われるや、ビール・ハウスのダンサーが姉だとイメージを壊すとしめだしにかかるが、事実を聞いて謝る。コンサートの会場でグレッチェンをみかけたスーザンがスキャンダルになると排除にでると、ステージに立ったシェリルの姉への感謝のスピーチを耳にし、改心で和解をはたす。
　とにかくスーザンが自分勝手なキャラで、グレッチェンやシェリルへの一方的な態度、ガルドやロムニックへの不理解のみならず、グレッチェンが登場しなかった会場でジョーイ・ガルヴェス演じる司会にクレームをつけたり、シェリルを不合格にしたドン・ペポト演じるプロモーションの社長にくってかかったり、大阪のおばちゃん以上の勘違いぶりが不愉快を招き、まったく主人公としての同化を抱かせないのが最大のマイナス点。フィリピン人は本当にこんな人物にドラマを感じるのか疑問が起きる。スーザンに夫が不在な家庭環境、ロムニックが手押し車で水を配達する貧民街の商売内容、スーザンとシェリルが教会で成功を祈る行為、契約と同時にシェリルへ大きな家が与えられることなどはフィリピンっぽいが、平気でグレッチェンを殴るガルドの描きかたは、いささかフィクションが強いとのイメージが先立つ。ひねくれた性格に変わったシェリルがグレッチェンへヒステリックに接し、スポンサーとわかってその場で抱擁が安易なら、スーザンが何度もロムニックへ冷たいあしらいを示していたのに、ラストのコンサート会場へ花をもって現われたロムニックへ交際を許すうえ、全員が打ち解けるしめが安っぽさの上ぬり。めかけならまだしも、バーのダンサーを過去にもつ女が上流のおじんと結婚できるわけがないご都合主義も考慮に入れ、あまりのくだらなさにあきれるばかり。
　パブロ・Ｓ・ゴメスのタガログ・クラシクスによるストーリーが低レヴェルとはいえ、脚本のリッキー・リー、監督のメル・チョングロといった一流のスタッフのもとから駄作も駄作、大駄作が生まれたことに愕然とする。
　まあ、どことなく『嵐を呼ぶ男』に似た物語。井上梅次の『嵐を呼ぶ男』自体、アナトール・リトヴァクの『栄光の都』の翻案だそうだし、そのあたりを参考にとったのかもしれない。
　せっかくグレッチェンがバーのダンサーに扮したのに、イマイチ大胆な露出がないのも不満な要素になっている。一回目のステージはパレオを巻いたワンピース、二回目はサイドの三名が普通のワンピースにもかかわらず、黒いワンピースのボトムが開いたスカート型と衣装の挑発を欠き、スーザンとシェリルがみる三回目は「ハダカになれ」の怒声がとぶ中、シャツを脱いでビキニと期待を高めながらも、ブラをはずさないまま終わりでアレレ。でもガルドが恐喝に屋敷へやってくるシーンで、プール・サイドにいて赤いワンピース水着にプロポーションを浮かばせ、キュートなヒップラインが視線を奪う。
　一応はグレッチェンに悩殺パンチをあびる。
　シェリルは発声訓練でスーザンに海へつけられる際に服の上からオッパイがスケないのが残念だし、プロ・デビューにあたっての写真撮影でセクシーなショットがゼロなのが惜しいも、ダンスの練習がうまくいかず、ほかのダンサーにからむときのスパッツがお尻に食いこんだかっこうがまずまずそそる。
　あとガルドの浮気相手がベッドで黒いビキニ下着を披露する。
　グレッチェンとシェリルの魅力のみがみどころだったようだ。