ＴＵＬＩ
（割礼）
　
05年：ディジタルＶＩＶＡ
監督：アウラエウス・ソリト
主演：デシリー・デル・ヴァリエ
　　　 カルロ・アキノ
　　　 ヴァンナ・ガルシア
　　　 ベンボル・ロコ
　　　 ユージン・ドミンゴ
　　　 ルイス・アランディー
　　　 アマ・キアンバオ
　実に幻想的で荘厳な作品といえる。同時にユーモラスでシニカルな視線に満ちる。土着の風習をシンボリックに描くがゆえに宗教的な要素を帯びる。また性的なモティーフを加える。
　山の中にある田舎の村を舞台にとり、川原で割礼のもようから始まる。初老のマルティン（ベンボル・ロコ）は村で少年に割礼をほどこす担当で、木を削ってナイフをつくる。ベニン、アボン、パイン、ボドイの四名の少年がくるや、全裸に脱いで川の水につかると、カメラが包茎のチンポを映しだす。女の子が現われて少年たちが恥ずかしがるが、マルティンは女の子に皮を切る助手を命じる。葉っぱを噛ませて痛さを我慢で割礼の描写が興味深く、少年たちは帰宅で家族にむけたチンポをみせる。
　助手の女の子はマルティンの娘のデイシーで、酔っぱらいの暴力男のマルティンは妻のプリータ（ユージン・ドミンゴ）にからみ、デイシーを殴る。行商用の笊型の籠に塩を敷き、デイシーにひざまずきを強要の愛情の乏しい教育を実践。この思春期に少年のチンポの皮を切る役をしいられ、父の横暴に耐えて適齢期に成長のデイシー（デシリー・デル・ヴァリエ）が主人公。先に家でチンポをチェックの少年のひとりに姉ふうのボトチェクがいるが、あとで妹だとわかるし、デイシーのほうが四人の少年よりも年上っぽいも、同い年くらいの設定のようだ。成長のボトチェク（ヴァンナ・ガルシア）がデイシーの友人で、サブの主人公。さらに巫女の祈祷師のトゥア（アマ・キアンバオ）がアニミズムを信じるのか、息子のナンディンを同年齢の子どもたちと遊ばせなかったため、冒頭の割礼で四名と一緒に皮を切らず、包茎のまま成長のナンディン（カルロ・アキノ）が一方の主役をになう。小枝の束を両手にもち、焚き火に祈るトゥアの儀式がまた興味をそそる。山道に背中を鞭で打ちながら歩く苦行者の列がでてくるや、たびたびフィリピンの映画に登場の光景だが、いつもマヌケな宗教行事だと感じる。村人は掘ったて小屋につくったキリスト像に祈り、何教であっても神に頼る連中はバカだ、とは個人的な意見。
　ナンディンは苦行者をながめて卒倒の弱虫で、デイシーの介抱をうける。トゥアがナンディンに祖父のナンディンが日本兵から祖母を守った勇敢さを話すとき、セピアに輝く映像で芝居っぽく二人の日本兵を切る祖父に救われる祖母をデシリー・デル・ヴァリエが演じ、カルロ・アキノ扮する祖父が成長のベニンを演じるルイス・アランディーに変わり、ナンディンとベニンの性格の差をにじます。夜中にバナナの花がたらす液のしずくをナンディンが飲み、感覚的に勇気をつけるも、盗賊に化けたベニンたち四人組にからかわれて逃げる。
　好きな女性の家の玄関で夕どきにラヴ・ソングを歌うフィリピンの求愛方法がストレートにでてきて、四人組がデイシーの家の前で歌い、ちゃんと酒を持参でマルティンの機嫌をとる。チンポをみせてマルティンに割礼をうけたとも示す。でもデイシーは四人に対して無関心のようす。
　つまり男の子のいないマルティンはデイシーに婿を与えて村で割礼をおこなう担当の後継者をつくらねばならず、デイシーの結婚相手を選ぼうと考えるも、マルティンを憎むデイシーは父の強制に従う意思がないとの話。
　フィリピンのライフ・スタイルがいくつか盛りこまれ、屋外で村人たちが受難劇を上演する。十人ちょいの観客がそのまま参加の図式において、マグダラのマリア役のボトチェクが途中でつわりになる場違いがおかしいうえ、いよいよゴルゴダの丘のクライマックスではりつけの罪人役のベニンが悪戯をしかけ、キリスト役のナンディンの腰巻きをはいだためにチンポが丸だし。とっさに聖母マリア役のデイシーが布で隠すも、観客のおばさん（マデリン・ニコラス）がキリストのチンポをからかって全員が笑う。突然のスコールではりつけのナンディンに布をあてるデイシーの前にトゥアだけが残ってまじないみたいに踊るコミカルさの直後、トゥアが倒れるや、雨なのに布をあてるデイシーにまぶしい光が差しこみ、キリスト役としてかぶるいばらの冠がナンディンの頭から落ちる。ここは実に絵画的で不可思議なイメージが広がる。
　苦行中のマルティンがデイシーに鞭をわたすも、デイシーが打てないシーンの盛りあがりが親子の複雑な心理をにじませ、ともしたロウソクを手に村人たちが行列で歩き、黒いキリスト像に礼拝も宗教儀式のひとつ。
　後半は奇妙なロジックを含んで進み、全編のずいしょに山の植物の映像を挿入だが、ふたたびバナナの花のエキスのしずくを飲んでナンディンが勇気をつけ、木の枝をヌンチャクのようにあつかう棒術の練習を始める。家の軒先でデイシーにからむ際にマルティンが倒れ、デイシーがイヤイヤ看病で、医者がマルティンに酒を禁じる。父親不特定の妊娠を嘆くボトチェクをデイシーが元気づけると、ベニンがボトチェクの家の窓に向かってラヴ・ソングを歌う。怒りの父がボトチェクの髪の毛を無理やりに切り、流産に泣くボトチェクに鼻水のたれるのがリアル。ザンバラの頭をデイシーが直してあげて、蚊帳の中で口紅をつけ合ってキスでレズに進み、動けなくなったマルティンが寝床で娘の快感のうめき声を聞く。デイシーのレズを知ったプリータが嘆き、自らにデイシーが苦行の鞭を打つ。火にくべて鞭を焼いて自戒の終了を示し、ボトチェクに抱かれても背中が痛むデイシーだが、ボトチェクとふざけるうちに妊娠の嫉妬を察し、ナンディンに処女を捧げる。鳥の巣から卵を二個とって体になでまわしたり、デイシーとボトチェクがなめ合うエロティックさのあと、ベニンが今度はデイシーの家の窓に向かってラヴ・ソングを歌えば、デイシーがつわりで吐く。ボトチェクがプリータにデイシーの子の父親はナンディンだと教えたとき、いつかの受難劇でナンディンのチンポを笑ったおばさんの子どもが病気で呪い師にみせれば、二人の女性のたたりといわれる。バランガイ長を引きつれ、村のリーダー的な老女（ルイ・マナンサラ）やボトチェクの父などとともにおばさんがレズのデイシーとボトチェクのところへ制裁に現われ、抵抗のデイシーをベニンがねじ伏せるや、駆けつけたナンディンが棒術でけちらす。デイシーに女の子が生まれ、神父を川へ呼んで洗礼をほどこす。
　ナンディンに葉っぱを噛ませて吐かせ、手伝うボトチェクにも葉っぱを噛ませて吐かせ、デイシーがナイフを磨ぎ、川原でナンディンのチンポの皮を切る割礼のラスト。
　マルティンがパンを焼き、四人の若者が酒を飲んで夜に雑談でバーベキューを手でむしって食べる日常の挿入や、トゥアとナンディンが壷の並んだ器に石を入れて占いようなことをおこない、トゥアがナンディンの胸に葉っぱを貼るといった非日常の慣習が好奇心をそそる。
　ペペ・スミットの奏でる電子ピアノの音楽が適度な情感で、ときに牧歌的に、ときに軽快に、ときに伸びやかにムードをたかめ、みごとなアクセントをなす。
　とにかく旧約聖書を読めばユダヤ教の神は男の髪の毛とチンポの皮がいかに嫌いかがわかるが、現在ではキリスト教国の多くが割礼しないものの、これを伝統的に残すフィリピンで、チンポの皮をめぐる作劇なのがユニークなポイント。ちなみに半数以上の日本男児と同様に自分も若いころは仮性包茎だったが、あの当時の皮かぶりのチンポをもしフィリピーナにみせたら怪訝な顔をされたのだろうか。または神の恩恵がなかったのか、なんて脱線はさておき、監督のアウラエウス・ソリトと脚本のジム・フロレスは割礼を通して前近代的なフィリピン社会を皮肉にみつめる。アウラエウスは前作の『ＡＮＧ　ＰＡＧＤＡＤＡＬＡＧＡ　ＮＩ　ＭＡＸＩＭＯ　ＯＬＩＶＥＲＯＳ』（マキシモは花ざかり）に続いて実存主義的な世界観をうかがわせるも、宗教性が増したぶんだけ共感が薄れる。かわりに山の自然の美しさによる撮影の助けを借りて、視覚面に訴える手法が目だったかもしれない。
　個人的にはエキゾティックなデシリー・デル・ヴァリエと清楚なヴァンナ・ガルシアの魅力に関心が集まる。池で戯れてデイシーとボトチェクが泳ぐシーンでデシリーとヴァンナがボディーに布を巻いて濡れると、花びらが流れる。この池に花を浮かべる岩場でパインにボトチェクが抱かれる処女喪失をデイシーがのぞくとき、ヴァンナの背中のヌードがみえるも、オッパイに布をあてて乳首をおおう。窓際でベニンのラヴ・ソングを聴くボトチェクのお尻をデイシーが触るや、スカートに手を入れ、パンティーがのぞきそうでもでない。ボトチェクがレズでデイシーのマンコをクンニはスカートへもぐってで肌をさらさず、プリータのながめる二人の寝姿はデイシーの横乳があらわでデシリーの乳首がおがめる寸前の挑発ながら、ともに背中の露出にとどまる。苦行のデイシーの上半身ハダカは手前にある十字架なめのため、デシリーの乳首が陰に隠れる。デイシーとナンディンの騎乗位のセックスはワンピースを着たままで、ついにデシリーとヴァンナの乳首をモロのヌードを欠く。確か、グラビアにおいても両名は大胆な乳首全開がなく、ビキニまでだと思う。
　少女時代のデイシーとボトチェクを演じるのは女優名が不明。
　それにしても暴力と痛みと性が信仰と結びつくごった煮がフィリピンの特徴のようでいて、本来はキリスト教が秘める矛盾じゃないかとも感じる。たとえば受難劇で観客が石を投げるあたりに野蛮さがムンムンと漂う。