ＴＵＨＯＧ
（ビーズをつなぐ糸）
　
00/01年：リーガル・フィルムズ
監督：ジェフリー・ヘトゥリアン
主演：イナ・レームンド
　　　 クラウジャ・コロネル
　　　 ダンテ・リヴェロ
　　 　ジャクリン・ホセ
　　 　イルマ・アドラワン
　　　 ナンテ・モントレアル
　　 　レーモンド・ニエヴァ
　　　 エリック・パリーリア
　イナ・レームンドとクラウジャ・コロネルが同じ役を演じるという、劇中映画との二重構成になった人間ドラマである。また映画製作者の良心を問うたような内容であり、それなりに成功していると思う。
　物語は実の祖父にレイプされた女性のニュースを『ＴＯＮＩＴＥ』で読んだ映画関係者が、これを題材に長編劇場映画をつくろうとするところから始まる。監督と脚本家がニュース・ソースである人物が住む村へやってくると、ほとんど無条件で信用してしまうあたり、まずフィリピンのショー・ビジネスへのあこがれをうかがわせるよう。イナ演じる主人公も、ジュディー・アン・サントスにあこがれている設定になっているし…　日本も地方へ行けば、同じようなものかなあ？　デシー・リヴェラ演じる主人公の学校の教師が、道案内役になって自分のほうがハシャいでいるあたり、妙に納得させられる。
　映画はイナの家庭環境をリアリズム・タッチで描いていき、暴力的で嫉妬深いナンテ・モントレアル演じる祖父や、その虐待に絶えているイルマ・アドラワン演じる母など、いかにもいそうな感じがする。イナがいまさら女学生というのはちょっと、という気もするが…
　そのあとイナと母は、友人たち、学校の教師たちと一緒にレーモンド・ニエヴァ演じるイナの恋人にジプニーを運転してもらって、マニラまで公開された映画をみにくることになる。クラウジャ・コロネル主演『ＨＡＹＯＫ　ＳＡ　ＬＡＭＡＮ』（肉体を求めてやまない弱さ）という題名となった劇中の作品と同時進行で、イナや母、関係者たちが監督と脚本家に語った内容がどのように置きかえられたかを表現していくことになる。
　最初に“真実の物語”とクレジットが入るが、フィリピン映画にはこの手の実話ものが多いだけに、どことなく皮肉ととれないこともない。劇中ではダンテ・リヴェロ演じる父に犯されて、ジャクリン・ホセ演じる娘が女の子を出産。その子が成長してクラウジャ・コロネル演じるイナにあたる女性になる。クラウジャもいまさら女学生とは無理があるかもしれないが、とにかくセクシー・スターの本領を発揮する役どころになっている。最初の登場シーンからして乳首もお尻もスケスケで池の中を泳ぐもの。みているイナたちはセクシーだと苦笑いしながらも、女教師たちは顔をしかめている。まだこのあたりは、歪められても許せる範囲内である。
　イナとレーモンドは本当に素朴な関係だったが、劇中ではまたもスケスケで泳ぐクラウジャにヘビが噛みつき、たまたまレーモンドにあたるエリック・パリーリア演じる白馬を連れた男が助ける、という出会いになる。クラウジャの太ももにある傷口から毒を吸いだす描写が卑猥さをあおる。さらにエリックが池で全裸となって水浴びしているところをクラウディアがのぞき、服を持って逃げると、エリックが手でチンポを隠しながら追いかけるシーンが続く。これじゃ、ほとんどエロティック・コメディーである。母が祖父に犯されているとき、自分の部屋でクラウジャがオナニーするあたりから雲行きがあやしくなってきて、夜中に納屋でエリックとセックスするあたりで、相当な事実の改ざんにイナたちは傷つき始める。このセックス・シーンではエリックのアナルがみえそうで、ゲーッ、そんなのみたくないぞ、とへき易。クラウジャのアナルなら大歓迎だが、というか是非ともみたいが…
　イナが祖父にオマンコをいたずらされた思い出も、劇中ではクライジャが少し誘惑したようになっていて、もはやおもしろくするならなんでもよい的な悪意がにじみでてくる。クラウジャの乳房がみえるのには鼻血がでそうだが…
　ついに祖父にレイプされるシーンとなると、顔に枕を押しつけて気絶させられ、ガバッと服を脱がされて乳房が露わに。しかも乳首のアップまであって、ウワー、どうしよう、どうしよう、どうしよう、と興奮の頂点。仰向けになっても形の崩れないクラウジャの乳房にチュッ、チュッ、チュッと画面に唇をつきだしていると、カットが変わって、オーッ、乳房の形が違っているではないか。今度はやや小ぶりになったものの、やはり仰向けでも美乳で、乳首が大写しとなって迫ってくる。ああ、こっちも素敵、なめたい、吸いたい、と思えば、顔を隠していた枕が横に落ちて、イナに変わっている。スクリーンの中に自分を投影して悪夢が蘇り、イナは気分が悪くなる。この時点で妊娠している設定なのだが、母につきそわれて途中で抜けだし、ジプニーの中で休むことにする。現実に深く傷つけられた主人公が、さらにフィクションにまで追い討ちをかけるように傷つけられるわけで、モデルとなった人物に対して作者の思いやりが欠けているとどうなるかを納得させられるシーンである。これは媒体が違うとはいえ、インタヴュー取材が多い自分にも反省をつきつけられたようで、個人的にも身につまされる。
　イナは水浴びをしたり、トイレでオシッコするところを真上からとったカットなどあったが、リアリズム・タッチの描写でセクシーさを感じさせなかったし、みたい部分もみえないままだったが、ここでの乳房の大写しに、さすがだと魅力を再確認。
　劇中映画はイナが観客としていなくなったものの、まだまだ続き、よりムチャムチャな展開をみせることになる。クラウジャを暴行する祖父を母がナイフで刺し、ちょうどそこへ祖父の友人が訪ねてきたために、死体を隠すサスペンス描写に発展。このあたりけっこうハラハラするから、ぐいぐいドラマへ引きこまれる。映画はフィクションを混ぜないとおもしろくないんだ、と問いかけてくるかのようでもある。さすがに井戸に沈めた祖父が生き返ってきて、クラウジャが危機一髪のときエリックが駆けつけて助けるあたりは、あまりにも現実的にありえない設定で、実話に虚構を加えることへの正当化を自ら否定しているとも解釈できて、ジェフリー・ヘトゥリアン監督の姿勢を評価したい。
　ラストのエピソードは全裸のクラウジャとエリックが大木の幹の分かれ目で愛し合う情景となり、クラウジャが「ホーホー」とお尻を振りながらさらに木の上へと登っていく。それをエリックが追うのだが、顔はクラウジャのほぼ真下にあり、おそらく見あげたときにクラウジャのオマンコが丸みえだったろうなあ、と想像すると爆発寸前状態へ追いこまれる。いくら撮影とはいえ、勃起しただろうと推測の反面、全裸のエリックの股間からはチンポがみえそうでみえないから、やっぱり前貼りをしてたのかなあ？　シーンが変わるとオッパイをプラプラ揺らせながら、ハダカで馬に乗る二人にエンド・クレジットがかぶる。
　こりゃ、まさに興奮もの。
　現実の設定のほうでは、みんなが見終わって複雑な感想をもらしながらも、イナが休むジプニーへと戻ってくる。劇中映画が牧歌的音楽とともにハッピー・エンドとなったのとは対照的に、すごくヘヴィーなムードが漂う。
　まあ余談だが、日本のテレヴィのニュースをみていても、フィリピンなど自分の知っている国のことに関しては、あまりにもウソや勘違いが多いのにあきれてしまう。ドキュメンタリーでさえ、半国営チャンネルのアジアなんとかなんて番組も同様。これだから自分の知らない国については、おそらく間違いがあるはずで、内容を鵜呑みにしちゃいけないぞ、といつもいい聞かせている。取材した者が勉強不足であったり、予算などの関係でそうしなければならなかった場合ならまだしも、中には確信犯的なものや、悪意のある改ざんを感じさせるものがあるから、完全に要注意。日本からみたフィリピンはこういうイメージでなければならず、いざ取材してみたら現実は違っていたけれど、都合よく編集して最初の企画どおりのイメージにしてしまおう。たとえウソをつくことで傷つく人たちがいたとしても、自分たちが伝えようとしていることは正義なのだから許される。そういったマスコミ人が多いのは、どうしてなのだろうか。
　フィリピン映画界を自己批判しようとした作品ながら、日本のマスコミに対する怒りがあらためてこみあげてくる作品だった。
　いや、それ以上に、見終わって自分への反省を迫られる思いが大きかった。