ＴＩＮＩＫ　ＳＡ　ＤＩＢＤＩＢ
（胸に刺さった棘）
　
85年：ＶＩＶＡフィルムズ
監督：レロイ・サルヴァドル
主演：ノラ・オーノール
　　　 フィリップ・サルヴァドル
　　　 ピラル・ピラピル
　　　 ディーナ・ボネヴィー
　　　 ベット・バウティスタ
　　　 エディー・ガルシア
　　　 ジャイピー・デ・グスマン
　　　 ルシタ・ソリアノ
　　　 ベリア・フロレス
　　　 デンショ・パディーリア
　　　 マニー・カスタニェーダ
　　　 リト・パストラナ
　フィリピン映画のお得意といえる、波乱万丈のつくり話。あまりに登場人物のキャラクターづけが極端すぎて、あきれ笑いが起きるほど。
　まったくノラ・オーノール演じるヒロインと、となりに住むベット・バウティスタ演じるその伯母以外にまともな人間がいないと思え、どうなってるの。エディー・ガルシア演じるノラの父はカネ食い虫で、ルシタ・ソリアノ演じる妻やノラにたかり、ルシタとケンカになると瓶をぶつける。ルシタがいさかいから娘のノラを追いだすや、あとのノラからの援助をヒステリックに拒絶。フィリップ・サルヴァドル演じる男とノラが結婚し、フィリップの家に住んでみれば、ノラに意地悪なピラル・ピラピル演じるフィリップの叔母らしき女性、何を考えているのかわからないディーナ・ボネヴィー演じる妹、いきなりねずみの死骸を持ってくるジャイピー・デ・グスマン演じるわがまま少年の弟などがいて、異様な雰囲気が漂う。ディーナは壁の穴からノラとフィリップのセックスをのぞき、ピラルは二人のベッドへ二階の床の裂け目からジャイピーのオシッコをたらす。ノラの唯一のみかたは夫のフィリップだが、実は義理の母だったピラルと過去を持ち、ジャイピーがフィリップの子で、エディー・デルマル演じる父をフィリップが事故で殺した事実が明らかになる。いきなり咳こみはじめ、安易な作劇だとバカにする間もなくルシタが病死。エディーがベッキー・ミサ演じる下品な愛人をつくると、ノラが赤ん坊を産んで、その子をジャイピーがつついて泣かす。ディーナがジャイピーを殴り、ピラルがディーナを殴り返す。エディーの家とフィリップの家をノラが何度も住みかえながら、ホント、アブノーマルに近い不自然さに唖然とする。
　またノラが美容院につとめる設定の中、マニー・カスタニェーダ演じる最初の店の経営者をはじめ、ルディー・メーヤー演じる客、レン・サントス演じる二つ目の店の助手など、やたらオカマが多いのも、ちょっとうんざり。
　リザ・ロレナ演じる二つ目の店のオーナーや、ナティー・サンチャゴ演じるカネ持ち女にルシタの葬式費用をノラが借金し、大ケガをおったエディーの治療代をまた頼むとき、そんなの断わるのが当たり前。こういう点で同情を誘われても困ってしまう。フィリップといったん別居のノラが、やっと復縁を決めると、ディーナがノラにフィリップとピラルのセックス現場をのぞかせる。部屋に鍵をかけてフィリップとピラルを閉じこめ、ディーナが放火のラストでもっとも追いつめられていたのは誰かが浮きあがるも、驚くほどアホらしいフィクション。ネリッサ・カブラルのストーリーはエスペリアル・コミクスというが、いかにも安手じゃないか。ローランド・ナドレスの脚本は適当にまとめた感じだし、レロイ・サルヴァドルの一本調子な演出に退屈ばかり。
　まあ、エディーがノラを訪ねてくると不在で、たまたまいたピラルに迫り、近所の建設労働者たちにリンチで脚を切られるのはムチャクチャながら、下半身不随になったエディーがプライドを失わず、自らホームレスを選んで乞食を楽しむようなところにおもしろさがでたかな。
　俳優陣では、内容が内容だけにいずれも空芝居っぽく、大スター・ノラの見せ場はつくれずじまい。というか、この手の低能作品が好きな観客には、これで十分なのかもしれない。フィリップが何度もバス・タオルを巻いただけのハダカになるのは、どちらかというと女性ファンに主眼があるのではとうかがわせる。ファンのディーナにセクシーなシチュエーションを欠くのは、個人的に残念なポイント。ピラルの妖艶さが冴えないのは演出の責任だろう。さすがに名優のエディーが、ダメ男ぶりにうまさをみせた。
　なお、少女時代のディーナの役として、グラディス・レイエスが顔をだしている。