ＴＩＬＬ　ＭＹ　ＨＥＡＲＴＡＣＨＥＳ　ＥＮＤ
　
10年：ＡＢＳ−ＣＢＮフィルム・プロダクションズ／スター・シネマ・プロダクション
監督：ホセ・ハヴィエール・レイエス
主演：キム・チウ
　 　　ジェラルド・アンダーソン
　　 　ブーツ・アンソン・ロア
　　 　マーク・ヒル
　　 　マテット・デ・レオン
　　 　デシリー・デル・ヴァリエ
　キム・チウとジェラルド・アンダーソンの顔あわせのスター企画によるロマンスで、ホセ・ハヴィエール・レイエスが恋愛における男女の心理を描く。
　まずフィリピンらしい状況を設定し、キム・チウ演じるアグネスがヴィサヤから上京で叔母のベービー（ブーツ・アンソン・ロア）宅に暮らす。ときどき叔母とヴィサヤ語で会話に字幕が入る。父がリヤド、母がシカゴに海外就労でずっと不在のため、いつか家族の再結束を夢み、本来は教師を志望だったが、海外で仕事がえられるナースの学校に進む。ジェラルド・アンダーソン演じるポーウィーは父（マーク・ヒル）が再婚で継母のミア（エンジェル・ヤコブ）と暮らす。祖母（ルイ・マナンサラ）が父の結婚に反対で一緒になれず、母はメルボルンへ就労にでてオーストラリア人と結婚。今も祖母が母を嫌っている。ミアの連れ子で自分と同じ年くらいの弟のジョコ（エンリケ・ヒル）が同居し、妹（ジェンマ・クストディオ）を含め、みんな親切なものの、優秀なジョコと違ってカレッジを卒業も就職先がなく、こっそりコンプレックスを隠す。
　ポーウィーがアルヴァイト先のコーヒー店でアグネスと出会い、偶然に再会で「運命だ」と交際をはじめる。最初はポーウィーが積極的で、アグネスもポーウィーの人柄に引かれていく。ポーウィーが不動産販売の仕事につき、顧客の夫婦（アルヴィン・フォルトゥナ、パット・ポルテス）の値切りにとまどうも、コンドミニアムの販売に成功で配当をえる。アグネスとの結婚を考えて部屋を借りるや、大きなプロジェクトのメンバーに抜擢で多忙になり、たびたびアグネスに会えないシチュエーションに陥る。だんだんとふたりの心にすきま風が吹き、ひんぱんにケンカで穴埋めのできない大きな壁が生じる。
　若い時期にありがちな恋のときめきと進展と別離を、それこそ正面からていねいにとらえる。
　さすがにホセ・ハヴィエール・レイエスで、細部の小道具や場所、サブの人物などの活用がたくみ。父のバースデー・パーティーで父の友人のロデル（ローランド・イノセンショ）が仕事のことをたずね、父が話題をそらせてポーウィーを守る。アグネスの電話番号をポーウィーが聞いて「携帯を貸してね」にわたせば、ボロボロの修理だらけに経済状態を示す。ポーウィーがアグネスに屋台のオレンジ色の玉子揚げと魚ボールを食べさせ、ふたりの思い出の食べものになる。ポーウィーがコンドミニアムを売った報酬でアグネスを高級レストランに招待し、アグネスが嬉し涙を流す。ポーウィーが「なぜ泣くの」というが、後半で住む世界が違ったと感じ、気持ちがはなれることに対してアグネスが何度も泣く。ポーウィーのかかわる新しいプロジェクトにアメリカ合衆国帰りのやり手の女性がくわわり、このレア（デシリー・デル・ヴァリエ）とポーウィーが仲よく外食をアグネスがみかけ、制止のきかぬ終わりをイメージする。また、実際にレアがアメリカ合衆国のボーイフレンドともめて落胆のとき、なりゆきでポーウィーと肉体交渉をもつ。
　レアの割りこみで三角関係に発展じゃなく、あくまでレアがポーウィーをみまもる立場におくあたりが納得の作劇。ポーウィーの同僚のジョン（グジ・ロレンサナ）のほか、アグネスがカレッジで知りあうブスのスーザン（カカイ・バウティスタ）とかわいいジューン（エダ・ノラン）の明るい女性と、スｰザンの恋人のミギー（マヌエル・チュア）の男性。ポーウィーの陽気なふたりの同級生の男性（マルティン・デル・ロサリオ、ジャコ・ベニン）と、フェースブックで「友人が１６００人もいる」とからかわれる女性（ニーニャ・ドリーノ）など、周囲が相談役やはげまし役をつとめる構成に好感が盛りあがる。とくにアグネスの従姉妹のジェンマ（マテット・デ・レオン）がボーイフレンドのエドウィン（ティボ・ジュマロン）にアグネスの近況の流れを話す解説担当をかね、アグネスに「生まれてから誰もまだ恋人がいないのか」とあきれるも、控え目にアグネスを支援だし、ポーウィーの父が息子のぜい沢を望む生活態度の変化に困惑しつつ、しっかり親の視線でアドヴァイスを送る。ベービーが「あなたの問題は、彼を愛しすぎたことよ」とアグネスを抱きしめる包容力に、ついほろりの共感がおきる。
　ポーウィーに絶交を告げる前の恋人（ダイアン・メディナ）にさほどうらみがなく、口うるさいも、実はポーウィーに片思いのブスなコーヒー・ショップの店員（アントネット・ガルシア）や、企業のオーナーっぽく中国系の不動産会社の社長（ジョージ・リム）を含め、基本的に悪人を配さない図式が心地よい。
　ただし、やや表面的で深みを欠く。
　まあ、進行にしたがって復縁にも破たんにも、どちらにも幕引きかたが可能な内容だなと感じ、はたしてハッピー・エンドを選ぶのか、または人生の厳しさをかみしめる勇気があるのかと結末が楽しみになるや、ついに別れの選択をむかえる。だと何年後かの再会のエピローグで結ばれるありがちなパターンをとるなよと思うところに三年後のクレジットが入る。なんだ、定番かよといったんはバカにするも、お互いに慕情が残るのを確認しつつ、よりが戻ったかをあいまいにすませる点が買える。
　やっぱりホセ・ハヴィエール・レイエスは格が上だの評価に落ちつく。
　役者の演技はブーツ・アンソン・ロアの圧倒的なうまさが光り、マーク・ヒルの熟練ぶりも際だつ。若手が一歩およばずはしょうがないが、デシリー・デル・ヴァリエの存在感に目をみはる。脇はカカイ・バウティスタとアントネット・ガルシアのユーモラスさが色どりをそえる。
　残念ながらキム・チムは好みをはずれ、白パンの腰まわりのゆるさにうかがう下半身の魅力も乏しいかな。でもマテット・デ・レオンと比べるに、顔の小ささに驚く。デシリー・デル・ヴァリエの太腿にフィットの白パンがそそるが、ちょっと太めかも。容貌ならエダ・ノラン、ニーニャ・ドリーノ、ダイアン・メディナが一応のタイプで、いちばんの美貌はバーでポーウィーと踊る名前が不明の女性だった。