ＴＡＴＡＲＩＮ
(細切れにする)
　
01年：ＶＩＶＡフィルムズ
監督：ティコイ・アギルス
主演：ディーナ・ボネヴィー
　　 　エドゥ・マンザノ
　　　 リカ・ペラレホ
　　　 パトリシア・ハヴィエール
　　　 レーモンド・バガチング
　　　 カルロス・モラレス
　　　 マウイ・テーラー
　　　 クリスティン・ジャカ
　　　 チンチン・グチェレス
　　　 ダニエル・フェルナンド
　フィリピン映画を惰性でみていて、ときたまハッとするような作品に出会ったときほど興奮するものはない。ちょっと注目していたティコイ・アギルスだが、ついにやってくれたなあという嬉しさが閃光のように走る。
　とはいっても、実に異様な内容。タタリンと呼ばれるキリスト教の神聖な儀式を題材にしていて、ニック・ホアキンの有名な戯曲の映画化というが、アヤシイ新興宗教のドラマのような感は否めない。
　いきなりピニクピカンのインドをイメージさせる民族音楽に乗って、恍惚となった表情でダンスする一団が登場。その中に大、大、大、大、大好きなリカ・ペラレホがいて、精神的にイッている女性を血気迫る熱っぽさで演じ、アッと驚かせてくれる。このあと教団のメンバーのような女性の一人が、妙な流動体の物質をオマンコなど全身にぬって悶える描写がきて、日本にも真言宗に精液をぬりたくる異端（？）の宗派があったなあと思いつつ、リカのオッパイ丸だしのセックスがダブって、さらに圧倒を招く。
　もう一つエドゥ・マンザノ演じる領主がディーナ・ボネヴィー演じる妻とのセックス・シーンもダブり、ディーナの充たされない日常をうかがわせる。
　ストーリーの骨格は、夫に忠実な妻だったディーナが自我を主張し始める過程だが、ここに複雑な人間関係と、戦前のフィリピンの地方の風俗と、タタリンという祭りがからんでくるのだから、ストレートではない。時代設定はクラシック・カーや街に貼ってあるグレタ・ガルボの『恋多き女』のポスターなどからわかるが、当時のファッションやインテリアなどの再現はなかなか凝っている。セス・ケサダ演じるディーナの従姉妹とマウイ・テーラー演じるその娘のモダン・ガールと評したいファッションは三十年代のアメリカ風だが、これに中国の団扇を持っていたり、トニー・アマドール演じるディーナの父の家にバティカン宮殿のミニ版ぽい天井画があるかと思えば、中華っぽい調度品といい、フィリピン文化のハロハロさを十分に伝えてくれる。またエドゥの屋敷での小麦を石臼でひいてからの麺づくりや、鶏の湯剥きから肉をミンチにする調理場など、ねちっこいくらい丁寧な描写で、当時の地方領主の生活ぶりを十分にイメージさせるもの。オペラ曲の披露や、蓄音機でダンスするなど、トニー宅でのパーティーの様子も面白い。
　この背景があって、ディーナとエドゥの葛藤が展開するわけだが、主人公の二人のみならず、何かにつかれたように精神異常をきたすリカと、レーモンド・バガチング演じるエドゥの運転手のサディスティックな関係、Ｊ・Ｒ・トリニダッド演じる思春期にさしかかったディーナとエドゥの息子と、クリスティン・ジャカ演じるメイドとの関係、カルロス・モラレス演じるタタリンを信じる金持ち青年と従兄弟のディーナとの関係など、いく組ものカップルが同時進行で描かれて、レーモンドはパトリシア・ハヴィエール演じるメイドとできてしまうし、カルロスとマウイのすれ違いの心理描写もあり、ちょっとしたロマンスのオン・パレードといった感がある。しかもすべてロマンティックでないあたりが、ディーナの追いつめられた立場を強調する素材になっている。とくにレーモンドがエドゥに命じられて、もだえるリカをベルトで打つと、次第にリカが笑い始めるアブ・ノーマルさは、何かの象徴のようでもある。
　タタリンの一環として現地の半裸の衣装で水かけのために練り歩いてきたカルロスが、ディーナの足にキスをするのも象徴だが、では一体何を表そうとしているのかというと、理性ではわかりにくい性的な解放というか、自由になることがもたらせる尊厳とでもいえるかもしれない。エドゥが制止するのを振りきってタタリンに参加したディーナが、我を忘れて陶酔し、初めて他者に従属しない己を認識するという設定で、フィリピン映画にはめずらしい、非常に観念的な内容を推し進める。
　とにかくタタリンという儀式が持つ女性の心理の深遠さにふれる特殊性は、トニーがＪ・Ｒに語る回想の中でチンチン・グチェレス演じるトニーの妻が豹変していった光景に強調されているが、リカやチンチンの狂気と紙一重にある悶絶を踏まえてのディーナがタタリンに加わっていくクライマックスは、アングラ演劇を思わせるすざましい雰囲気を帯びてくる。フェスティヴァル気分のある行列から、リカたちの一団が登場してアヤシイ要素が主張を始め、エドゥが暴行されるところで集団心理の怖さとなり、ディーナにカルロスがからんでエロティックな興奮が高まり、トランス状態の乱舞が繰り広げられるや、もはや通常の宗教的色彩を逸脱している。川原で女たちが全身に水をかけてもだえる姿に行きつくや、一切の意味など通り越し、ただぼう然とながめるのみ。後半四分の一ほど続くテンションをとぎらせないこれらタタリンの映像は、初期のベルトルッチを連想させ、本来なら商業性の薄い実験映画を一般的な作品で実現した試みとして、大げさかもしれないが『２００１年宇宙の旅』に比べたいとも思えてくる。
　そしてラストでディーナの足にエドゥがキスをし、絶叫をあげるディーナからは一つの象徴の締めくくりのような要素があるかもしれないが、もはや意味がわかった、わからないではなく、映像が感性に訴える力として圧倒されるようだ。
　実にゴシック的な作品といえるかもしれない。
　まあ本来はかわいいリカを期待してみただけなのだが、ちゃんとキュートなオッパイを二度もみせて悶えるシーンがあるから満足なものの、リカの演技的な成長のほうに嬉しさを感じる。
　同じくセクシー・スターのパトリシアもレーモンドにうしろから抱かれるシーンで、乳首をポロンとだして視線を奪ってくれる。
　主役のディーナは熟女の範疇に入るだろうが、メイド二人に服を着せられるシーンなど色気たっぷりなだけに、エドゥとのセックスにしても、肝心の部分の露出がなくて残念。とくにカルロスから足にキスされたあと、部屋に戻って一人で悶えるシーンや、風呂に入るところなど、乳首がのぞく寸前まで脱いでいるだけに鼻息が荒くなる。
　他に女優では、チンチンのギリギリ・ショットに蛇の生殺し状態。雑誌『ＦＨＭ』でヌードを披露しているクリスティナや、最近ほぼ全裸の写真（個人的にも大のお気に入り）でオナペットになりながらも『ａｂａｎｔｅ』で「私はまだ処女よ」と告白したマウイなど、ホント新鮮な魅力で大注目なだけに、せめてセミ・ヌードになってほしかった。