ＴＡＴＡＫ　ＮＧ　ＹＡＫＵＺＡ
（ヤクザのブランド）
　
86年：フォー・Ｎ・フィルムズ
監督：ニロ・サエス
主演：ルディー・フェルナンデス
　　 　ジャネット・ボードン
　　　 ヴィク・シラヤン
　　　 ジョージ・エストレガン
　　　 デンショ・パディーリア
　　　 グレンダ・トゥアソン
　　　 フィリップ・ガンボア
　　　 エルニー・フォルテ
　　　 レス・コルテス
　　　 ロイ・オヤマ
　　 　プロタショ・ディー
　日本ロケで描くヤクザ映画。フィリピン人のヤクザ観がうかがえて興味をそそる。
　バーのウェイターのジェリー（ルディー・フェルナンデス）は店でホステスのスーザンに男（レス・コルテス）がからみ、客の日本人のオカダ（ヴィク・シラヤン）を巻きこんだのを助ける。友人のシモン（デンショ・パディーリア）やおばさんのイサベラ、妹のエマ（グレンダ・トゥアソン）と平和に暮らすジェリーはバーを解雇され、困ってオカダを頼り、日本の仕事の斡旋をうける。オカダの紹介状があったため、日本のフィリピン・パブでウェイターの仕事をえるが、そこのダンサーのリンダ（ジャネット・ボードン）と恋に落ちる。ジャネットは店のオーナーの愛人で、オーナーのオノ（ロイ・オヤマ）の執念深い嫉妬と行動の縛りつけに悩んでいる。こっそりジェリーとデートをみつかり、ジェリーはクビになるが、とりあげられていたパスポートを事務所へしのびこんでみつけたとき、外出から帰ったオノとバッタリで殴り合いをくり広げる。オノが死んだのに気がつかないまま、チーフ・ウェイターのウィリアム（エルニー・フォルテ）の協力でリンダと成田空港へ逃げ、緊急出国でフィリピンへ帰る。エマとリンダのウマが合い、シモンともども幸せな暮らしが戻ったのもつかの間、フィリピンにいるヤクザのカワサキ（プロタショ・ディー）が殺し屋のエリック（ジョージ・エストレガン）を雇い、エリックの一味が襲ってくる。ジェリーの友人のロニーが警官なのを通じて警察の隊長のアマサン（フィリップ・ガンボア）が対策に乗りだすが、エリックの襲撃でエマが亡くなり、復讐したいジェリーはオカダに相談でヤクザ組織の怖さを解説される。一方、アマサンのところにはジェリーとリンダを探す日本の捜査官がやってくる。
　タイトル・バックに松葉会と書かれた旗の前で剣道の映像が入り、スーザンにからむ男にオカダが「トモダチ」というなど、また日本をいい加減にあつかう作品かと思いきや、そういう面も目だつながら、比較的ちゃんとしていた。ジェリーが成田空港に到着で東京行きのバス乗り場をたずね、東京タワーの近くや赤坂見附の交差点を歩くときに『義兄弟』のインストゥルメンタルが流れるあたりはニヤニヤだが、フィリピン・パブにつとめるのは地方都市のようで、商店街の看板にイセザキ・ロードと読めて、たぶん伊勢崎市なのだろう。寺の境内や公園でジェリーとリンダのデートをみたパブの客がオノにたれこみの電話や、オノが負け続ける花札賭博のシーンの日本語にタガログ語の字幕が入らず、フィリピンの観客はチンプンカンプンのはずが、言葉の意味を知らなくても状況は理解できる。賭場のメンバーの刺青がどこかヘンに感じるも、賭けの流れに違和感がなく、ここはニロ・サエスの演出でなく、誰か日本ロケの協力者が撮ったように察する。日本語の台詞は流ちょうで、こちらも日本の大部屋俳優と推測ながら、肝心のロイ・オヤマはショーの楽屋でリンダがジェリーと言葉をかわしたのを責めたり、密告で嫉妬の芝居などヘタくそ。ジェリーとのアクションはそこそこに決まる。トニー・ヨシカワ、サト・カズ・イシカワ、シゲル・ハヤシ、マイク・ヨスィといった日系っぽい役者のクレジットは、フィリピンでジェリーをおどすヤクザの役だろう。ウィリアムがジェリーに「オノはヤクザだ」と教え、水をこぼしたウェイターをオノがボコボコに殴ってクビは、いささか極端な行動で、実際にこんなオーナーはいないんじゃないかとあきれる反面、ほとんどの日本のヤクザ映画には美化がひそみ、現実のヤクザは理不尽に暴力的で、独占欲の強さともども、さほど誇張のイメージでもないと思える。ジェリーと対決でカワサキが日本刀を振りまわすのは、いかにもかな。
　屋内は日本の設定もフィリピンのスタジオで撮影らしく、ウィリアムとジェリーが住む寮の部屋に座卓がおかれて座布団がしかれ、お茶を飲む。店でリンダのショーをながめる客に白人が何組かいて、テーブルにジョニ黒のほか、角瓶がみえる。
　フィリピンのオカダの部屋は和風のインテリアふうで、ややトンチンカンだが、家まで送ってくれたオカダがジェリーにお礼のカネを「どうぞ」とわたそうとすると、ジェリーの遠慮がそれっぽく、ジェリーの就職の相談に「ウタン・ナ・ロオブがある」はフィリピンに住む日本人をあらわす。
　フィリピン人にとって日本の名前は発音しづらいようで、ジェリーのオカダは「オハダ」みたいだし、エリックのカワサキは「カワシ」に聞こえる。ジェリーが「シモン」と呼ぶのをシモンが何度も「サイモン」とあらため、フィリピン人の英語コンプレックスもうかがえる。
　まあ、ジェリーとリンダが日本の警察に逮捕されたのかわからず、フミルデ・‘ミーク’・ロハスのストーリーによるホセ・フロレス・シバルとフミルデ・‘ミーク’・ロハスとジェリー・ティラソナの脚本が中途半端だし、ニロ・サエスの演出にサスペンスが足らず、低レヴェルな内容ながら、全部でないとはいえ、しょせんフィリピン・パブの経営に暴力団がかかわる事実をフィリピンに伝え、ヤクザを美化で描く日本の映画よりも社会性が上かもしれない。
　女優陣はジャネット・ボードンとグレンダ・トゥアソンがみせる。ジャネットは一回目のステージに銀のビキニで踊り、二回目は黒いレオタードにタイツの衣装だが、とくに銀のビキニはお尻を突きだしたうえ、楽屋でガウンをはおったりも、厚い生地でともにセクシーさを欠く。練習では白いスケスケのタイツにレオタードが挑発的なのに、体を動かすところを欠いて残念。ほかに二人のダンサーが練習でレオタードの上にローブを着ていて、容貌がイマイチでも、リンダが二回目のステージをおりる直後に左右からあらわれ、肌の露出の多い光沢の大胆なビキニだけに、もっとみたいと思わせ、少しの登場が惜しい。ジェリーと逃げたホテルでリンダがシャワーを浴びるとき、半透明のカーテンごしにハダカがうかがえ、目をこらすも乳首がわからず、肌色のブラを着用っぽいし、バスタオルを巻いてでたあとに続くセックスは肝心の部分を隠す。エリックに拉致されて服を破られるかの期待がふくらむが、何もなしとはずればかり。グレンダはシモンが井戸水をくみあげて運ぶ家での水浴びで、バスタオルをボディーに巻いて階段をのぼるのをシモンがこっそりのぞくも、ガードが固いながら、ジェリーとプールで遊ぶシーンが素晴らしい。ジャネットの青いワンピースとグレンダの黒いワンピースが誘惑的に迫ってきて、グレンダは水からザバッと顔をだして泳ぎ、濡れて水着を身体に貼りつかせてプール・サイドへあがる。カメラで写真を撮ろうとポーズでグレンダは水着がお尻にベッタリだし、ジャネットは水着のお尻をアップめにうしろを向く。ほかにプールには数人のビキニやワンピースの女性がたわむれたり、寝転んでいる。またグレンダはバルド・マーロやレナート・デル・プラドが演じるエリックの手下に殺されるとき、ちょうど水浴びの最中で、スリップに水をかぶるや、乳首がスケていそうで興奮を招く。とにかくジャネットとリンダともにプールの水着がキュートかな。
　ほかに脇のイサベラ役とスーザン役、リンダの日本で一緒に商店街を歩くホステスの友人のラウラ役が、出演クレジットのラウラ・ロペス、ノルマ・メンドーサ、アナベルの誰なのか、役者名と一致せずに少し気になるまま。