ＴＡＮＧＩＮＧ　ＹＡＭＡＮ
（特別の財産）
　
00年：スター・シネマ・プロダクションズ
監督：ローリス・ギリエン
主演：グロリア・ロメロ
　　　 ヒルダ・コロネル
　　　 ディーナ・ボネヴィー
　　　 エドゥ・マンザノ
　　　 ジョニー・デルガド
　　　 ジョエル・トーレ
　　　 チェリー・パイ・ピカチェ
　　　 マーヴィン・アグスティン
　　　 ジェリコ・ロサレス
　　　 Ｃ・Ｊ・ラモス
　　　 シャイナ・マグダヤオ
　　　 ジョン・プラッツ
　　　 カロル・バナワ
　　　 ドミニク・オチョア
　　　 ジャネット・マクブライド
　歌手のカロル・バナワが教会でコーラスと一緒に主題歌を天使のような声で歌い、グロリア・ロメロ演じるおばあちゃんが祈っている。妊娠した少女、妻子のためにサウジ・アラビアへ海外就労にでかけたい男など、次々と神に願いごとをする人たちの内面のささやきが聞こえてきて、ずいぶんと宗教的な内容を予感させる。
　実際はある一家をとおし、家族の絆を問うドラマだった。
　ジョニー・デルガド、エドゥ・マンザノ、ディーナ・ボネヴィーが兄弟で、それぞれが胸にイチモツ抱いている。別々に暮していたものの、祖母のグロリアが痴呆を発症し、看病に集まってきて久しぶりの再会をはたす。しばらく仲よく振舞っていたのだが、ささいないざこざがきっかけでお互いの不満が爆発。大ゲンカを繰り広げる。
　これにグロリアの孫にあたる子どもたちと、三名の親たちとの葛藤が加わり、立場の違いからくる同世代の対立と、考えかたのズレによる世代のギャップの対立という、横糸と縦糸を織り合わすような多角的構成のシチュエーションをつくりあげて、とにかく監督のローリス・ギリエンによるストーリーをもとに、シャイラ・メリア・サルヴァドル、レーモンド・リー、ローリスの脚本がうまさを痛感させる。まずシナリオの段階で、ある程度、勝負があったなという感じ。
　練られた筋だての中に興味深い要素が登場し、サンフランシスコ在住のディーナは、ジョエル・トーレ演じる夫と外見がトレーラー・ハウスのような家に住んでいる。結婚記念日にジョエルがこっそりディーナへペンダントを贈ると、かえってディーナが「無駄づかいだ」と激怒。アメリカ生活がいかにきゅうきゅうの家計状態かをうかがわせる。ジョン・プラッツとジャネット・マクブライドが演じる息子と娘のうち、明らかにジャネットは英語の発音が違うから、アメリカ生まれだとはっきりわかる。写真家にあこがれるジェリコ・ロサレス演じるエドゥの長男が被写体としてイリナ・フェレオ演じるフィギュア・スケーターをみつめ、イリナがうまいけれども荒川静香の滑りに慣れている日本人にすれば、ジャンプや回転など、イマイチなのが熱帯のウィンター・スポーツ・プレーヤーっぽい。フィリピン行きを嫌がっていたジャネットが、いざきてみればドミニク・オチョア演じるジェリコの友人と意気投合。ドミニクが「アメリカにもトライシクルがあるのか」と聞いて、あとでトラシクルに乗って火山灰の地をドライヴするのがほほえましい印象を与える。ジャネットにジョニーが家族の写真アルバムをみせ、グロリアやジョニーの若いころにでた映画のスティールが貼ってあり、グロリアの美しさがハッと引きつける。ルーシー・キント演じる家政婦が家族に溶けこんでいるあつかいなのが、どこかフィリピンの中流階級。
　また人間描写にも納得のところが多く、グロリアが料理に塩をかけすぎ傾向で、あとの病気への軽い伏線をなす。マーヴィン・アゴスティン演じる出かせぎから帰った息子とジョニーがもめて、ヒルダ・コロネル演じる母がさとし、マーヴィンが恥ずかしそうにジョニーへ「ごめん」と謝る心理が共感を起こす。ジョニーがヒルダにすがって涙を流すのが女性の人間的大きさをにおわせ、ジョニーとヒルダのダンスが初老のものたちの無邪気さを自然に醸しだして、あたたかいムードを漂わせる。グロリアが呆けてからは、教会でコーラスを習うジョニーの長女のカロルが家族に請われてアカペラで歌うと、その声で正気を一時的にとり戻すのがおかしい。ジョニーとエドゥの区別がつかず、ジャネットをディーナと思いこんで「ドレスをあげる」とだしてくる行動に、人生の悲哀がにじむ。
　息子を医者にしたいエドゥがジェリコに親の希望を強制し、問答無用に押しつけるシンプルさが、日本にもいそうな頑固親父ながら、やや単純な部分。ジェリコが従兄弟のマーヴィンにエドゥを殺したい衝動を話すなど、ちょっと陳腐かな。チェリー・パイ・ピカチェ演じるエドゥの妻が間に入って悩むあたりも描き足りない。グロリアへディーナが反抗した思い出は、いささかとってつけた感がある。ＣＪ・ラモス演じるエドゥの次男や、シャイナ・マグダヤオ演じるジョニーの次女は、彩り以上にからまない。なんて不満はいくらでも指摘できるとはいえ、ローリスの演出はたくみに見せ場をプラスし、嵐の日にジェリコが車で家出すると、豪雨の氾濫で水かさが増して道にあふれ、車が水没するエピソードがリアルな迫力に満ちる。渦にのまれてジェリコがおぼれかけ、はたして脱出できたかのサスペンスが適度にハラハラを招く。
　まあ結局は、雨降って地固まる、といった話にすぎず、いかに家族が特別な宝物かと伝えたところで、なーんだ、レヴェルなのは確か。完成度の高いのは九割型認めるとして、頭で構成した破綻のなさからくる、言葉どおりの“よくできました”。心に訴えかける深みがもうひとつ弱く、胸をつかないぞとの皮肉をいいたくなる。カトリック教徒のフィリピン人にすれば、ジェリコが水中で天使に遭遇するシーンに心を読みとるのかもしれないが…
　個人的にあと一歩なのは事実。
　もっともここまできれいにまとまれば、相当に上質と素直に評価したい。
　ただし大好きな女優陣は、グロリア、ヒルダ、ディーナ、チェリー・パイと二世代の演技派スターがそろって、まさに豪華なのに、エドゥやジョニーのほうが目だち、活躍がじゃっかん抑え気味。とくにヒルダとチェリー・パイは出番が少なめなのが残念だった。