島根県隠岐郡五箇村。
わかりやすく言うと｢竹島｣。あの日本と韓国の双方が領土を主張し合っている小島である。
韓国の東方約２００キロの海上に鬱陵島と言う絶海の孤島が存在する。そこから竹島への観光のツアーがある。全航程約３時間、鬱陵島から竹島まで９８キロ、約２時間３０分ほどで往復し、竹島の回りを２周して戻ってくる。上陸は出来ない。韓国本土から鬱陵島行きの船がそのまま竹島観光船となるので、８００人乗りの結構デカい船に、乗客は約１５０名ぐらいしかいない。観光客はオバサンばかりで、若い人やおじさんは少ない。
それにしても韓国人のオバサンとゆうのは、とにかく団体で行動すると、とりあえず歌う、踊る、花札を始める、の三拍子。船の中は出航直後から大宴会状態と化する。通路に座り込むわ、少し広い階段の踊り場で文字通り踊るわで、領土紛争地にいく緊張感はまったくない。でも客室のビデオでは「獨島（韓国ではこう書いて竹島のことをトクトと呼ぶ）の３６５日」という島の様子を紹介するビデオが流れ、さりげなく反日感情を盛り上げている。島の自然や動物、占拠中の軍隊の生活や夏だけ住んでいる住民の様子を紹介して、とくに海鳥がヒナを育ててゆくくだりでは、そのヒナを狙うタカが上空を旋回している場面が写されて、ナレーションが「タカがヒナを狙うように日本が獨島を狙っている」と流れて、なかなかやってくれる。
ただし、誰も見ていない。
そうしているうちにエンジンがスローになり、いよいよ竹島が近づいてきた。この船はもともと韓国本土と鬱陵島との連絡船なので、クローズドデッキの高速船だ。そのため窓が小さく、しかも少ない。さすがに踊りをやめたアジュマたちが窓に殺到し、へばりついている。こっちも負けずに割り込もうとするが、はじき飛ばされる。強引さと割り込みで韓国人に勝てるのは中国人ぐらいだろう。仕方なく後ろの方からかすかに見える島影にビデオを向けて撮影を始める。それだけでは寂しいので、
「嗚呼！此コレコソガ朝鮮ニ不法占拠サレタル我ガ大日本ノ固有ノ領土タル竹島ナリ！！」 となぜか文語調でナレーションを入れてみた。するとその瞬間、その場は甲子園のライトスタンドと化した。
私は小学生の頃、甲子園球場の近くに住んでいたので、球場へよく見に行った。ライトスタンドは大勢の阪神ファンで埋まっている。しかし不思議なことに、この一万人ほどの中に必ず一人か二人、相手チームのファンがいる。相手チームがヒットを打つとシンと静まり返るスタンドに「パチン、パチン」と拍手が単独で響きわたる。するとその拍手が聞こえる範囲にいる約２０００人が、一斉にその拍手の主を最初は驚きで、その後すぐに憎悪を込めて睨む。そんな風景を眺めながら、子供心に「ああ、こんなトコにわざわざ来んでもええのに、アホやのう」と、思ったものだ。まさか後年、自分がそのアホになるとは思いもよらなかった。
私の声の届いた範囲の全員がこちらを振り向き、はじめは「何でこんなところに日本人がいるんだ」という驚きの目で、そしてだんだん怒りのまなざしになりこちらを睨んでくる。まさに絶体絶命のピンチだ。
とその時、神風は吹いた。客室の後方にあるドアが開かれると、みんなもうすべて何事もなかったかのようにドアのほうへ怒濤のごとく流れていったのだ。船の後ろにオープンデッキ部分があり、高速運転中は危険なので閉鎖されているが、スローになるとドアが開かれ船の甲板に出られるのだ。
ああ、助かった。
普段から行いのよい私を神仏が見捨てるわけはない。なんとか一命をとりとめたが、こんなことでくじける私ではない。今度はオープンデッキで竹島を撮影するべくアジュマたちの後を追った。見ると３０帖ほどの広さに１５０人があふれ返っている。勇気を奮いその中に突撃する。まさに芋洗いの状態の中、カメラで竹島を捕らえようとするのだが、人が構えているからといって遠慮するようなヤツラではない。どんどんカメラの前を通るので、アジュマの頭のドアップばかりが撮れる。
そうこうしてるうち１０分もたっただろうか、急にみんなが中へ戻っていく。どうしたのかと思って見ると、また踊りだしている。どうも韓国人と言うのは、１０分以上興味が続かないようだ。やっと竹島を観察する機会がやってきた。
おお、これが竹島か。
周囲４００メートル、高さ５０メートルほどの切り立った大岩が二つと、その間に小岩が少々あるだけで、島と言うより岩といった趣だ。片方の大岩のてっぺんにヘリポートらしきものと、中腹に３階立ての小さい建物が二つ、波打ち際にも一つある。どうやら中腹の建物が韓国軍の施設らしい。利用できる土地は全くなくて地下資源もない。周辺の水域でもイカが獲れるだけのこの岩を経済危機の中、年間何億ウォンもかけて占拠している大韓民国には、まったくご苦労さんと言いたいところである。さすがに毎日キムチ食ってるヤツラは考えることが違う！
「こんなもん別に韓国にやってもよい」
と思うが、経費をかけさせるのは面白いので、領有権は大いに主張しよう。そこで私もこの場で日本の正当な権利を主張しなければならない。幸い人も減ってきたし、日本語も分かるまいと思い、
「天皇陛下万歳！（別に右翼と言う訳ではないのだが、何となく雰囲気で）」
を三唱する。その瞬間、「ニホンジンデスカ？」とたどだどしいいかにも韓国人がしゃべる日本語が聞こえた。他に日本人はいるはずないので、私に向かって言ってるのだろう。 これはヤバイ。
まさかこんなところに日本語が分かるやつがいるとは。またもや私に生命の危機が訪れたのか。
ゆっくり振り向くと船員が立っていた。彼は続けて「ハジメテスカ？」といった。うーむ、何が初めてなんだろう。韓国へ来るのが初めてなのか、竹島に来るのが初めてなのか。初めて韓国に来るヤツはソウルで焼き肉食ってるのが関の山だし、こんなとこに二回も来る外人もいないだろう。まぬけな質問に戸惑いつつ、相手の感情を刺激しないように「は、はい・・・。日本人は来ますか？」 と聞くと、
「来マセン」
ときっぱり言われてしまった。まあこんなとこにワザワザ来て喜ぶヤツは、よっぽどの物好きかバカしかいない。しばらくかみ合わない会話を続けていると、やはり竹島の話になり、彼は「韓国ノモトイウ証拠シカ無イノニ、ドウシテ日本ハ自分ノモノダト言ウンデショウ」などとほざきだした。それは韓国政府が自国に都合の悪いことは隠してるだけだろ、バーカ、などと思いつつ、
「確かに韓国内ではそう言う情報しかないようですね、でも日本では反対ですよ」
と爽やかに反論する。彼は日本人に反撃されたのは意外だったようで、
「ホウ、ソウデスカ」
と言いながら、少し不思議そうな顔をしている。旅行ガイド本などには、韓国に行ったときは過去の不幸な歴史について不穏当な発言は控えるように書いてあるが、そんなことでは相手の反日感情を肯定するだけになってしまう。両国の友好のためにも、おおいに戦争、歴史について議論しよう（その結果どうなっても私は一切感知しないが）。
竹島については、結局のところどうでもいい島なので、過去に朝鮮、日本とも積極的に領有する気がなかったようだ。昔から朝鮮人が住んだり、日本人が住んだり、適当にしていたので、どっちにも証拠が残ったようだ。
そうしているうちにデッキを閉める時間になり、彼の誘導に従い船内に戻った。船は再び高速運転になり、竹島から次第に離れていった。水平線に消えゆく竹島に向かい、万感の思いを胸に感動に耽ろうと思ったが、アジュマたちがうるさい。仕方なく大きく手を振りつぶやいた。
「さらば竹島、おお我が領土竹島、いつかは我が国へ戻ってこい竹島」
さあもう一度、
「それまで預けといてやろう韓国、費用はそっち持ちで夜露死苦！！！」
