ＴＡＧ−ＡＲＡＷ，ＴＡＧ−ＵＬＡＮ
（太陽の季節、雨の季節）
　
92年：ＶＩＶＡフィルムズ
監督：セルソ・ＡＤ・カスティーリオ
主演：ディーナ・ボネヴィー
　　　 ガーリー・エストラダ
　　　 ジェニー・ロア
　　　 スザンヌ・ゴンザレス
　　　 マーク・ヒル
　　　 チュッキー・ドライファス
　　　 ジゴ・ガルシア
　　　 ムチャ・クリソストモ
　ディーナ・ボネヴィーという女優はコメディーからシリアスまでこなす芸域の広さに注目するだけでなく、何といっても大人の色気に魅力を感じる。最近、雑誌『ＦＨＭ』に発表したビキニとセミ・ヌードなど、そろそろ40歳に近いはずなのに、驚くほどセクシーで興奮を誘う。この作品はディーナが20代後半のときだと思うが、そのボディーの美しさが圧倒してくるようだ。
　物語は年上の女に童貞を奪ってもらう思春期の若者の、ひと夏の体験談。ロバート・マリガンの『おもいでの夏』を連想させるが、さすがにあそこまで深く心理に切りこんではいないものの、ガムランを使ったジミー・ファブレガスの音楽が耳ざわりよいことも手伝い、まずまずの印象になっている。マーク・ヒル演じる夫が秘書と浮気の現場を目撃のディーナ演じる女性が、人生に絶望でスザンヌ・ゴンザレス演じる友人が経営するリゾートで夏をすごしに訪れる。リゾートにはジェニー・ロア演じるスザンヌの姪もきていて、ジェニーに会いにガーリー・エストラダ演じる若い仲間たちもやってくる設定。
　フィリピンには夏しかないんだから、夏休みも関係ないだろうと感じるものの、一応“夏”という季節の感覚があるようだ。リゾートというのが、砂浜に大きめの小屋みたいなのが建っているだけという施設（ロケはザンバレス）なのが面白い。ガーリーたちが到着のときに「サウジ・アラビアみたいだ」とあきれるのには笑ってしまう。個人的はこういうのが好きなのだが、世界中のどこへ行っても日本と同じような環境を求めたがる一般の観光客にはお笑いの対象かもしれない。
　メインの内容は夫のことを振りきったディーナが、まだウブなガーリーから慕われることによって明るさを取り戻していく過程で、これに難しい反抗期にあるジェニーの成長がからむ。ジェニーとのセックスしか考えていないガーリーが、やらせてくれないから、次第に大人のディーナに引かれていく気持ちは、自分が同じくらいの年齢だった頃のことをイメージすれば納得がいく。ジェニーにはムチャ・クリソストモ演じる友人がいて、ムチャが恋人とのセックスによる妊娠について悩むなど、けっこう青春群像をなすように構成を練っているあたりがよろしい。
　ジェニーとムチャが薬局へ行くところは『おもいでの夏』で少年がコンドームを買おうとするシーンをイメージさせ、けっこうあの映画を参考にしたのかなとも思う。
　まあ海岸が舞台だから、女性たちがみんな水着で誘惑をくれるのが嬉しいポイント。ディーナは夫との思い出での素潜りのダイヴィング・シーンで身体にフィットしたビキニがキュートで、ほとんど人魚のよう。そのあとビキニがチェンジしたなと気がつくと現在にシチュエーションが変わり、海からあがってくるボディーがハッと息を飲みこむくらいの迫力。そこへ夫がきていてケンカになるのだが、ずっとビキニのままで、鼻血がでそうなくらいにカッカと興奮を盛りあげる。ガーリーに着がえをのぞかれるシーンの乳首がみえる寸前のカットでも、ガーリーがオナニーするのに共感。無人島に流されたときに雨が降ってきて、シャツが濡れてブラがスケた姿など、下のブラが水着だとわかっているのに、妖艶さにノック・アウト。
　ジェニーも最初の登場シーンからして、かなり露出の多いビキニでオッと視線を奪ってくれて拍手。あとにも砂浜を歩いたり、ディーナと小舟に乗っているときのビキニが大胆で、容貌はやや落ちるものの、ディーナに負けていない。ヴァレー・ボール大会へ出場しようとビーチで練習するときの紫のビキニも素敵だが、ミシェル・アン・ロペス、ジェニファー・アン・ドゥール、マイェット・セラノ、デミー・アルヴァレス演じる友人たちがみんな水着なのがウハウハ。ビーチでのバースディー・パーティーのシーンではムチャのビキニもでてきて、もはや歓喜の悲鳴。
　もっとも現実的には異常に水着をはずかしがるフィリピーナたちが、こんなパーティーを開くとは思えないが…
　ガーリーから無理やりセックスを迫られたのを逃げて、心を閉ざした状態になったあとも、ジェニーはハイレグ・ビキニをお尻に食いこませ、無言でビーチに寝ている姿でうっとりさをくれる。
　唯一、スザンヌだけが水着姿を披露せず、砂浜で恋人との愛撫をのぞき見されるシーンがあるのだが、ついに肌をださないままなのが残念。スザンヌの恋人を演じるロイ・デ・グスマンは、ロイ・ロドリゴの前の芸名。
　結局、夏が終わってみんな自分の元の場所へと帰っていき、ディーナも去ろうとしたところへガーリーが再びやってきて、泣きながら頼んでセックスになるとき、どうせフィリピンなんだから暑いままに決まっているのに、いかにも秋になりましたよ、という寂しさみたいなムードが漂っているラストがけっこううまい。さすがセルソ・ＡＤ・カスティーリオと感心する点。セックス・シーンではまたもディーナの乳首がみえる寸前までのカットがあって、まったく完全降参状態。ほとんどイキそう。
　バラード調の主題歌が入り、ガーリーにすればこの瞬間から童貞を喪失したひと夏の思い出に変わりましたよ、という人生の一過性みたいなものがうまく伝わってくるから、ちょっとセンティメンタルな気分に満ちる。こんな喪失もいいなあ、というあこがれだろうか。
　回想すれば自分の場合は童貞と処女だったから、けっこうよかった初体験なんじゃないか、と感じるのだが…
　実にホロ苦い作品である。
　なお、編集を担当がエドガルド・“ボーイ”・ヴィナラオで、編集助手の一人がジョイス・ベルナルだから、アメリカ合衆国のロバート・ワイズやハル・アシュビーのように、フィリピンでは編集から監督になるケースが多いんだなあと推測する。