ＳＩＱＵＩＪＯＲ
ＭＹＳＴＩＣ　ＩＳＬＡＮＤ
　
06年：センターステージ・プロダクションズ
監督：マーク・フィリップ・エスピナ
主演：イアン・ヴェネラション
　　　 アスンタ・デ・ロッシ
　　　 ユル・セルヴォ
　　　 エンジェル・アキノ
　　　 ロデル・ヴェラヨ
　　　 ココ・マルティン
　　　 シド・ルセロ
　　　 シモン・イバラ
　　　 クリセルダ・ヴォルクス
　　　 マリテス・サムソン
　　　 ダン・アルヴァロ
　　　 ビン・ピメンテル
　シキホール島はネグロス島とセブ島の南にある。ヴードゥーの黒魔術をあやつる伝説で知られることは、旅行ガイド本のロンリー・プラネットにも書かれている。前半にここを舞台にとるホラーで、マーク・フィリップ・エスピナが映像に凝った語りかたでみせる。冒頭のタイトル・バックにＴＶ画面の走査線から人物が瞬間的に浮きあがる手法がどことなく『リング』を連想させ、全体の明るい状況下においても暗い雰囲気が何となく似ているので、実際に影響をうけたのかもしれない。古い写真に血のような文字で裏書きする男がミステリー・タッチの出だしをつくる。これがＴＶだったとのオチにはじまり、エレヴェーター・ホールの前で女に白い少年の霊が近づくシーンにも、ＧＢＳとのロゴ・マークとペアレンタル・ガイダンスの文字が画面の入って、ＴＶの中だと示す。ようは怪奇番組の制作スタッフが主人公であり、番組の起死回生のために局の担当（ビン・ピメンテル）からの要請によって、ディレクターのサビエル（イアン・ヴェネラション）たちがシキホール島の異常なまじないを撮ることになるとの話。プロデューサーのドリーン（エンジェル・アキノ）とサビエルは以前に愛し合っていたようすで、サビエルは現在の恋人のアレックス（アスンタ・デ・ロッシ）をスタッフとして同行させているとの三角関係にふれながら、ヴィデオ・カメラマンのカルロ（ユル・セルヴォ）、アシスタントのミゲル（ココ・マルティン）、スティル・カメラマンのジェーク（シド・ルセロ）がシキホール島へやってくる。海をバンカーに乗る描写が妙に寒々していて熱帯に思えない。ガイドのドメン（シモン・イバラ）に迎えられ、バイクで島を走るシーンなど露出オーヴァーによるアートを意識した映像感覚が、こけおどしっぽくみえるのが皮肉なマイナスになっている。これは時間の経過をあらわすのに海岸やビルの風景をありきたりな早送りのショットの挿入で視覚化するのにも当てはまり、うまくすればセンスのよさが光る反面、技巧のみが目だつので気をつけたい。ドリーンが血だらけの男の夢をみるのも、潜在意識への働きかけというより、ワザとらしさに気をとられる。撮影を開始し、土地の老女が警告を与えるのをとらえるあたりから露出オーヴァーのショットはヴィデオ・カメラをとおした視線とわかってくる。老人の悪魔祓いの儀式をやらせで演じてもらい、なにごともなく帰る。ドリーンの服に血がつき、妊娠していたのかと思わせるまでが提示部で、エディターのニール（ロデル・ヴェラヨ）がスタジオで編集にかかり、撮りテープにかなりノイズが入っていて、悪魔祓いのうしろを男が横ぎったりを妙に感じると、ヘンな顔らしきものが浮かびあがり、突然に編集のコンピューターがとまるところからが展開部になる。 ドリーンが血を吐いて倒れるのをヤヤ（ハーミー・コンセプション）がみつけ、カルロに雑音の電話がかかってくる。ドメンがフレームごとにテープをチェックすると、ノイズの奥にワン・フレームだけ女の顔がうつっているのを不審がる。アレックス、カルロ、ミゲルが次々と異様な症状をおこし、ドリーンが虫だらけのトイレで血の絵画のようになって亡くなる。サビエルに雑音の電話がかかってきて、耳のうしろに血がつく。ヤヤのすすめでサビエルがアレックスをまじない師にみせ、カルロが重体で口から幼虫のようなものを吐いたのを妻（クリセルダ・ヴォルクス）から聞き、ミゲルが瀕死なのを両親（ダン・アルヴァロ、マリテス・サムソン）から知らされる。女性ニュース・キャスターのフェメラ・バランダ（本人）がミゲルの奇病を伝える。一人で苦しんでいたジェークの腹がふくれあがり、中から蛾のごとき虫が大量に飛びだして亡くなる。ジェークがスタッフの写真を焼きつけてみば、かぶっていて心霊ふうな怪しさをかもすも、それをみながらトイレでオナニーし、咳がとまらず、エイズじゃないかと密かに調べている設定はあまり生かされていない。サビエルがワン・フレームだけうつっていた女性のキャプチャーの写真をもち、アレックスとカルロを連れて再びシキホール島へやってくるのが結末部。ドメンの案内で祈祷師に会い、煎じ薬を飲まされると、三人が白いゲロを吐く。意識もうろうの三人が呪文を聞きながらの視線で、ゆがんだ空間が広がる表現は『イージー・ライダー』のＬＳＤの幻覚を思いださせる。部屋を蛾のごとき虫が飛んで、三人が元気になるが…
　マーク・フィリップ・エスピナの演出は恐怖を誘うよりも謎のままに奇怪な現象を語るおもしろさに主眼をおき、それなりのうまさを伝える。どうしてサビエルだけが衰弱しないかなど説明不足が短所でなく、興味を引きつける要素に役だっている。ただし事故死の直前までカルロがまわしていて、アレックスの悲鳴で終わるヴィデオ・カメラに入っていたテープをニールがチェックしながら、車の前を横ぎる男が悪魔祓いのときにうしろを歩いた男と同じだと気がつくしめなど、やや単純すぎてアレレと思わせる。フェメラのニュースにノイズが走るエピローグも、従来からよくある表面的な暗示の枠をでない。写真屋の前に座って飯を食う男を仰角でとらえるといった、まったくのムードづくりのみに使うショットがインテリふうをかもし、嫌味っぽいのが印象をさげる。それでも映像を主体におく基本上にあるホラーとして評価したい。
　女優ではアスンタ・デ・ロッシ、エンジェル・アキノ、クリセルダ・ヴォルクスの出演に期待がかかり、アスンタはベッドで黒いパンティーのお尻がアップになる下着姿を二度、披露してくれる。血まみれで倒れるときも黒い下着のまま。クリセルダは黒いパンティー一枚のしゃがんだうしろ姿をみせる。エンジェルは医者にお腹のチェックでシャツをまくり、サビエルに抱きかかえられながら戻る際のシーンズがローライズぎみなので、はみでた背中が注視を奪う。最初のところで歩く女性のシーンズのお尻がアップでうつり、誰だろうとワクワクしたが、エキストラだった。
　庶民の長屋のシーンで、おばさんに呼ばれてチンポが丸だしの真っ裸の男が水浴びからでてくるのは、スタッフにホモの趣味があるからだろうか。カルロがふざけてサビエルとアレックスの情事を盗み撮りした映像に座位のサビエルのお尻がのぞき、アレックスのほうが隠れているのが残念しごくになり、やはりホモのにおいを感じとる。制作指揮がブリリアンテ・メンドーサだけに、マーク・フィリップ・エスピナとできてるの、なんて疑ってしまった。