（電気椅子 あなたは認めますか？）
(94）年：エル・ニーニョ・フィルムズ
監督：セザール・ＳＢ・アベーリア
主演：ジョン・レガラ
ボブ・ソレル
ダン・フェルナンデス
ジャニン・バレド
バニー・パラス
マイキー・ヴィリアヌエヴァ
マリエル・サルヴァドル
死刑の是非を問う社会派作品というと大島渚の『絞死刑』やクシシュトフ・キェシロフスキの『殺人に関する短いフィルム』を思いだすが、反国家という観念を前提にコメディー・タッチで議論を繰り広げる前者や、生活環境などがもたらす凶悪犯罪を死刑が抑制できるかをリアリズムで描いた後者が、それほど廃止を納得させるほどの説得力をもっていたとは感じられない。ただ両者とも、作者の意思とでもいえるものは、そこそこ伝わってきたように思う。
これらに比べると、ここで語られる死刑の扱いは、どうみてもマジメに問題提起しているとは考えられない。正直なところセザール・ＳＢ・アベーリア監督はナメてるのか、とあきれるほどのもの。
というのも、登場人物の性格づけが無茶苦茶。ストーリー展開が支離滅裂。アクション映画なら珍品としてそれなりに楽しめもしようが、だったら余計な社会派気どりなどしないでほしい。
とにかく主人公が、さっさと死刑にしちゃったほうがいいんじゃないか、と途中で感じさせる人物だけに、どうしようもない。
物語は市長が撃ち殺されるシーンから始まり、ジョン・レガラ演じる副市長が昇格する。市長暗殺に実はジョンが絡んでいたんじゃないか、と匂わせるものの、ダン・フェルナンデスがリーダーを演じる護衛警官によって暗殺団は一掃される。
ジョンは神を敬う宗教的な人物の設定で、権力を得るとすぐに博打や売春を徹底検挙するが、これによってボブ・ソレル演じるシンジケートのボスから命を狙われる。ダンがボブを始末してジャマ者がいなくなると、突然にジョンが豹変。マリエル・サルヴァドル演じるバーの歌手を力ずくでモノにしょうとし、拒絶されるとあっさり殺害。
さらには覚醒剤におぼれ、バニー・パラス演じる愛人を囲い、好き勝手のし放題。
これと並行してダンが人質をとった強盗団を退治するエピソードが延々と描かれる。強盗団はある家に侵入すると女たちを犯し、男たちを殺すのだが、なぜか逮捕されるときは女たちと打ちとけていたりして、一体どうなってるの？ ダンによって強盗団たちは、裁判もなく沼に処分される。
いい加減な内容も、度を越しているではないか。
そのあとダンがマイキー・ヴィリアヌエヴァ演じる女性と出会ってみそめ、家を訪ねて恋を語り、結婚するまでがまた長々と展開する。誰が主人公なのかもよくわからない。
ダンが出張している間に、ジョンがマイキーをレイプするのだが、このへんでダンがジョンを殺すんだな、との想像がつく。でもボブを暗殺したときは事前準備万端だったダンが、今度は逆上しているせいか、あからさまに銃を手に市長宅に乗りこむという誰がみてもやられる典型的な図式で、案の定、自分のほうが撃たれる結果。
映画はジャニン・バレド演じるジョンの姉がずっとジョンの悪行を批判していたものの、ついに決心して法廷で証言するわけである。死刑判決がくだされ、またジョンは宗教的な人物へ戻るのだから、バカバカしいにもホドがある。
死刑執行を前に髪を剃っているジョンは確かに熱演だが、そこへジャニン、バニー、マイキーが最後の面会にきて、バニーが三歳くらいの子どもを連れていて、父のジョンが不幸を謝る際、いつの間にこんな子がいたわけ？ しかもマイキーも一歳に満たない赤ん坊を抱いていてジョンにみせ、だと時間経過が合わないじゃないか！
もっと構成に気を配ってほしいなあ。思いつきのご都合主義には困ったものだ。
死刑のシーン自体はフィリピンが電気椅子なんだとわかって興味深いものの、執行それ自体の描写となるとメナヘム・ゴランの『暗黒街の顔役』におけるトニー・カーティスの迫力にかなわない。
で、最終的に社会問題として何か問いかけができたかというと、まさか、まさか…
やっぱり珍品の枠をでていない、ということか。
女優陣では大柄のジャニンがよく存在感を示している。美人というほどではないし、色気も少ないが、なぜか荒っぽいじゃじゃ馬ぶりが好みである。冒頭にチラッと水着姿をみせてくれるし、ジーンズもキマっているし、ミニ・スカートの長いおみ脚がキュート。ラストの面会のところなど、場違いな超ミニで魅了してくれる。
バニーはけっこう美人で、ジョンをベッドへ誘うあたりがドキドキもの。いずれ、ちゃんとヌードをおがんでみたい存在だ。
マイキーも相変わらずセクシーだが、レイプされるときに、ちょっと露出が足りないなあと感じる。
マリエルは場末の容貌で、一緒に寝てみたいとは思わせないが、バーで歌う衣装や、ジョンにプールへ引きこまれて溺死させられる場面など、やはりもっと脱いでほしかった。
