（櫂のひと漕ぎ）
07(08)年：プロフェッショナル・プロダクションズ／ニュー・ライフ・シネマ
監督：ロナルド・Ｍ・ベルトゥビン
主演：ケン・エスクデロ
ウィル・サンデハス
アシュリー・シルヴェリオ
ジュスティン・ウェイン・プルマー
レイナルド・ラッセル・サントス
アンジェリン・マリー・プルマー
シルヴィア・サンチェス
ディド・デラ・パス
エルニー・ガルシア
アニータ・リンダ
ジョイ・ヴィアド
ソフィア・ヴァルデス
Ａ・Ｊ・グスティーリオ
ディジタル作品にはなぜか、同性愛をあつかった内容が目だつ。それも男同士のホモなので、チンポを平気でうつし、その気のないものにはゲーッ。一方で制作費が安くあがるからだろうが、大手の娯楽作にない実験的な手法をつかったり、マイナーな観客層へ向けたインテリっぽい表現が際だち、フィリピン映画へ新風を吹きこんでいるのが事実。
ホモを背景におきながら、人間のアイデンティティーの確立をとらえた、三角関係のドラマである。男がふたりで女がひとりの三名が幼なじみとの図式は、これまでに何回となくくり返された人物配置になり、ここでも当然のごとく嫉妬の感情を描くも、ありがちな犯罪や殺人へ発展の安易なストーリーではない。
時間どおりの順序に語るのと違って、子ども時代の過去の回想を挿入だけでなく、大人の現在も前後を逆転の手法をもちいる。
少年のエンゾ（ジュスティン・ウェイン・プルマー）はとなりのアドン（ウィル・サンデハス）が唯一の友だち。同じく近所の女の子のメーライ（アンジェリン・マリー・プルマー）とも仲よくなるが、義父のカジョ（ディド・デラ・パス）が暴君のようで制裁をうけたため、心をとざす。大きくなってアドン（ウィル・サンデハス）がメーライ（アシュリー・シルヴェリオ）とセックスし、寂しさを感じる。マニラへでたアドンは映画館でホモ売春の相手のジェリー（イータン・ハヴィエール）に紹介をうけ、ホモ売春夫のグループにくわわる。エンゾ（ケン・エスクデロ）もホモ売春で生計をたてる。メーライがカネのために結婚し、二人の間にできた娘のジョアンヌ（Ａ・Ｊ・グスティーリオ）をアドンが育てるのに、エンゾへ後見人を頼み、男ふたりでかわいがる。
興味の焦点は、南マニラの郊外とマニラ中心部貧民街の生活描写、フィリピン全体の風習や思考回路、同性愛風俗の実態、ロナルド・Ｍ・ベルトゥビンの演出テクニック、ロムアルド・アヴェリアーナの脚本にもとづくドラマの感動、セックス・シーンの露出度の五つからなる。生活描写だと、南マニラでは三回でてくるフィエスタのもようが秀逸。みこしに担いだイエス像へ水をかけ合い、どこか宗教が異なるのに、タイのソンクラーンやミャンマーのダジャンを思いだす。少年のエンゾとアドンが遊ぶ廃墟の遺跡が文化的な関心をそそる。貧民街だと子どもの乞食やシンナーを吸うものがいるうえ、川岸に不法占拠で住んでいて、うるさいおばさんのウラタ（ジョイ・ヴィアド）がおぶってもらって移動する。どぶ川からみつけた人形をアドンが妹のマヤ（コリン・コンセプション）にあげる。サドの暴力のあとにアドンが路上へ投げ捨てられ、浮浪者の少年が瞬時に財布と腕時計を盗んでいく。フィリピン全体の風習だと、川での割礼をとらえる。メーライが「アメリカ合衆国へいくことになったの」というのがアメリカ合衆国信仰で、カジョが「オカマか」とからかったのに怒り、老いたカジョより体力のまさったエンゾが折かんの棒を奪うあたりに、いくら寛容でもオカマへの偏見がフィリピンにもあるとうかがえる。風俗の実態だと、場末の映画館が交渉の舞台をはたし、トイレのみならず映写室も射精の場につかう。ちなみにディジタルのホモ映画の佳作『ＭＡＳＡＨＩＳＴＡ』を上映中。ここでフェラチオにカネを払わなかったため、ジェリーが殺される。エンゾが白人の客をとり、アドンの入るホモ売春グループを仕切るフロイ（ロベルト・デルガド）がオカマで「ママ」と呼ばれる。アドンを「チェック」と全裸にむくと、フロイが携帯のカメラでチンポを撮る。売春グループが「バス・ハウス」という風呂の施設を経営し、ここに客たちと集まる。日本様式の店や西部劇スタイルのライヴ・ショーがでてくる。ちなみに日本様式ではふんどしや着物の男がいるばかりか、店内の装飾や男たちの刺青に書かれるカタカナに意味がなく、無茶苦茶なのが笑える。西部劇ではエンニオ・モルリコーネの『ウエスタン』に似たフレーズが聞こえる。フロイ役のロベルト・デルガドによるスコアーは、おおむね評価できるが…。バス・ハウスや日本様式の店でアドンに狙いをつけ、ボコボコな目にあわせるリチャード（エルニー・ガルシア）がサド野郎で、ＳＭ趣味の恐怖を伝える。ロナルド・Ｍ・ベルトゥビンの演出テクニックだと、少年時代にアドンがエンゾに教え、カジョが土釜に燃やしたゴムチューを、ふたりの友情のシンボル的な小道具に活用する。アドンがおばあちゃんっ子だったが、祖母（アニータ・リンダ）の死のセンティメンタルさを降りそそぐ雨であらわす。アドンがメーライとセックスの間、外で待つエンゾのしゃがむ姿に内面の心理がにじむ。ほほにチュッとアドンからキスされたあとのエンゾの笑顔が、いかにも自然な気持ちを感じとらせる。エンゾがアドンへ愛を告白や、メーライへ涙ながらにアドンを「好き」と打ち明けるのを控え目な演技におさえれば、エンゾが帰ったのを喜ぶ母のノルマ（シルヴィア・サンチェス）のオーヴァー・アクトに親子の絆を視覚化する。カジョにノルマがキレるのが母の強さなら、エンゾと和解の機会を与えるあたりが女性の大きさ。カジョとノルマとエンゾが一体になり、アドンとメーライとジョアンヌが家族で結ばれたフィエスタから“愛”という文字が浮かんできそうなあたたかさが画面に広がれば、そこへ白人の客と出会うホモの売春夫の存在をプラスに毒を忘れない。ドラマの感動だと、エンゾとアドンの友情を軸に、友情が欲望へかわるのをいかにうけとめるかにおいて、いくら相手が好きでも人生はそれぞれだとの現実と、確かな友情の素晴らしさと、喜怒哀楽をたくみに凝縮する。ふたたびエンゾが故郷を旅だっていくラストにホロリと共感をおぼえる。露出度だと、エンゾやアドンはもちろんのこと、ジェリーや白人客、ホモ売春のメンバーのお尻のみならず、チンポが丸だしのうえ、アナルまでのぞくのに絶句。メーライのハダカはないのかと思ったら、ちゃんとあるのが嬉しい。フィエスタで水をかけられ、白いノーブラのシャツに乳首のポッチがスケる。群集の中でみせちゃってと興奮していると、全裸でエンゾとアドンが水浴びの川へきて、乳首の形がくっきりにあきらかな濡れたシャツをたっぷりとおがませる。アドンとのセックスでパンティー一枚のトップレスになり、モロのオッパイを堂々に披露。なかなかの美乳にアシュリー・シルヴェリオの魅力を知る。オカマの監督が「プエルトガレラ・スキャンダルよ」と撮影のエロ・ヴィデオにエンゾが出演のシーンがでてきて、女性のほうのモデルを演じるソフィア・ヴァルデスがオッパイを全開にプルプルと絶妙な形の乳房をゆらせ、乳首のアップで迫る。あと少女時代のメーライ役のアンジェリン・マリー・プルマーがそこそこにかわいく、フェエスタでシャツが濡れるのにドキドキときめくも、ロリコンだぞと指摘されそう。マヤ役のコリーン・コンセプションはボーイッシュな美少女と評して間違いなく、やはりロリっぽさを残すながら、ハダカをみせてとの誘惑にかられる。シルヴィア・サンチェスは年増になったなって感じ。
なお以下は余談だが、エンゾとアドンが川でエロ写真をサカナにオナニーのとき、アドンが「ああ、メーライ」ともだえていて、これは理解できる。アイドルとかポルノよりも自分の好きな対象や身近なものの想像でイクのが快感をえる正攻法。若いころはそそってやまないけど、まだハダカをみたことのない子のヌードや、たまたまみたときに脳裏へ焼きつけた水着姿を思いだすなどでピューッだったので、同じだなあと納得する。まあ今も大差はなく、一部の特別なフィリピン女優をのぞき、たいていはヌードや濡れ場にビンビンでも、射精の瞬間はカノジョの顔がイメージにある。割り合い的には自分で撮った写真や映像が役にたち、気分に応じてフェチな衣装の想像力を刺激するものと、オマンコやアナルがバッチリのストレートなものを使いわけている。
