90年：リーガル・フィルムズ
監督：ペケ・ガリアーガ、ロール・レイエス
ＭＵＬＴＯ
（幽霊）
主演：ジャニス・デ・ベレン
エリック・キゾン
エディー・グチェレス
イザベル・グラナダ
カリダッド・サンチェス
ＫＵＬＡＭ
（魔術）
主演：ジョーイ・マルケス
デイジー・ロムアルデス
カルミナ・ヴィリアロエル
シルヴィア・サンチェス
ジョーイ・レイエス
ジンキー・ラウレル
ＡＳＷＡＮＧ
（悪鬼）
主演：マニリン・レーネス
アナ・ローセス
レス・コルテス
アルジョン・ヒメネス
アンジョー・イリアーナ
ペケ・ガリアーガとロール・レイエスによる三話構成のホラー。
エリック・キゾンとジャニス・デ・ベレン演じる新婚カップルが田舎へきてカリダッド・サンチェスがオーナーを演じる家に泊まると、エディー・グチェレス演じる亡くなった主人の霊がエリックにとりつくのが第一話。かつて医者だったエディーはイザベル・グラナダ演じる娘の堕胎手術を強要し、イザベルの反抗をうけて殺すと、直後に自殺した過去をもつ。たまたまエディーの指輪をエリックがはめたため、エディーに支配されたエリックがジャニスを手術台にしばる。われに返ると指輪が抜けず、ジャニスに頼んで指をメスで切りとってもらう。
イザベルの手術シーンが秀逸で、指輪の上からエディーが手袋をはめ、タバコをくわえながらの手術や、洗面器に血がしたたるショットが不気味さを醸す。肖像画のエディーがジャニスを呼ぶ異様なイメージに加え、エリックが手術台の跡を発見のリアルな描写もよく、けっこうゾクっとさせる内容。ジャニスへ過去を語るカリダッドの名女優ぶりも買える。
ジャニスは下着姿になったり、手術台から落ちるときにパンティーが丸みえだったり、まずまずセクシー。イザベラの衣装がセーラー服なのは、ちょっと興味深かった。
脚を折って入院したジョーイ・マルケス演じる患者がデイジー・ロムアルデス演じる中年の女医に愛されるも、ジョーイがシルヴィア・サンチェス演じる看護婦ともできていると知って、デイジーがシルヴィアをクビにし、ヴードゥー魔術でジョーイをもてあそぶのが第二話。カルミナ・ヴィリアロエル演じるジョーイのケガの原因をつくった女性がスケボーをもって現われ、それにジョーイを乗せて病室から脱出を試みると、授産室に入れば赤ん坊が人食いモンスターに変身で襲いまくり、霊安室では死体がゾンビ化する。カルミナがデイジーの髪の毛を奪って反対に魔術をかけ、デイジーをカエルに変えると、シルヴィアが実験用動物のビンに入れる。
コメディー要素がまさる挿話なので、病室がジャングルになったり、デイジーが藁人形の股に針を刺してジョーイが悲痛の声をあげたりがギャグをなす。ジョーイが「私はカモテ」と意味不明の日本語をしゃべるのは謎。階段をすべり落ちるジョーイにジョン・ウィリアムズの『スーパーマン』の音楽を流すあたりはシャレっ気だろう。ゾンビにジャニスがいて、ジョーイが「ジャニスだ」と驚くのも同様。さして笑えないながら、まあ、こんなところ。
呪文をとなえたり、ろうそくの火を消してゾンビをとめるカルミナが新鮮な魅力を放つも、ベッドで下着になってジョーイにまたがり、大きめのパンティーを食いこませるシルヴィアがかなり色っぽかった。
アナ・ローセス演じる友人に誘われてマニリン・レーネス演じる女学生がアナの故郷へくると、実は魔族が住み、マニリンが犠牲の処女として捧げられそうになるのが第三話。村人たちが肉をむしゃぶりつくように食べ、一人の少年が狼みたいにほえてマニリンに噛みつこうとする提示部が次第点。アンジョー・イリアーナ演じる若者がアナにいいより、アルジョン・ヒメネス演じる若者がマニリンに十字架をわたしてマニリンを連れだすや、ヴァンジー・ラバラン演じるアナの母に戻される展開部の盛りあげも呼吸を合わせる。アナがだした睡眠薬入りのジュースをマニリンがすりかえ、間違ってアナを殺害の後半からクライマックスへ。マニリンが十字架を剣のごとくかざしてアンジョーとアルジョンのキャンプへ走り、アンジョーがやられるも、アルジョンがレス・コルテス演じる魔族のチーフを退治する。
十字架を駆使のほか、ゴムチューでアルジョンがモンスターに変わったレスを仕留めるのが銀の弾だったり、ヴァンパイアの伝説をたくみに使う手法が安易とはいえ、そこそこ迫力に満ちる。ペケ、ロール、ドン・エスクデロ（美術兼）のストーリーによるペケ、ロール、ドン、ドワイト・ガストンの脚本の練りが評価できる。それにレスが仮面をつけ、全員が液体を飲むと怪物の様相になる儀式の光景がグイグイと画面へ引きつける。ホラーじゃなく、サスペンスとして一級のもの。ボブ・ディランの『ビリー・ザ・キッド／21才の生涯』の“ＫＮＯＣＫＩＮ’ＯＮ ＨＥＡＶＥＮ’Ｓ ＤＯＯＲ”を流す部分はシラけるが。
夢オチのラストで半分恐怖を残しながら笑う複雑な表情をつくるマニリンの演技に、うまいなあとため息がもれる。アナの魅力はイマイチ控えめなまま。
いずれにしても第二話がやや落ちる印象でも、ほどよく楽しめる作品だと感じる。
ジャニスのゾンビのほか、第一話で幽霊の声を演じたメエ・アン・アドニス、第二話でカエルの声を演じたエヴァ・ラモスが第三話の魔族で顔をだすなど、配役にもおもしろさが潜む。第二話にはロトロト・デ・レオンがチョイ役出演し、ゾンビの一人にデニス・パディーリア、第三話のトライシクル・ドライヴァーにリチャード・ゴメスがカメオのゲストで登場している。
