ＳＥＲＢＩＳ
（サーヴィス）
　
08年：センターステージ・プロダクションズ／スウィフト・プロダクションズ／エーシャン・シネマ・ファンド・プサン・インターナショナル・フィルム・フェスティヴァル／香港アジア・フィルム・フォーラム
監督：ブリリアンテ・マ・メンドーサ
主演：ココ・マルティン
　　 　ジーナ・パレニョ
　　 　ジャクリン・ホセ
　　　 フリオ・ディアス
　　　 クリストファー・キング
　　　 ダン・アルヴァロ
　　　 メルセデス・カブラル
　　　 ロクサンヌ・ジョルダン
　いい意味でも悪い意味でも汚らしい作品。
　先進国にすれば、発展途上国の映画に対し、その国が貧しいゆえに汚いことを風景なり、人間なりで描くのを好む傾向をもち、国際映画祭では貧困の招く汚さを主題にとれば高い評価を与えるケースが多い。先進国の監督が発展途上国でロケによって貧困を汚く描けば反発や誤解を生む可能性があるが、途上国の監督が貧しさゆえの汚らしさに目を向ければ、普通に賛辞をおくる。
　とても“美しい”イメージに満ちた『ＫＡＬＥＬＤＯ』のあとに、こんな汚らしい作品を撮るブリリアンテ・メンドーサは、確かにすごい才能と納得が起きる。
　貧しいといっても極貧と異なり、アンヘレスだろう町で家業の映画館を運営のファミリーの話。いわゆる日本人を含む外国人がよくいく売春街のアンヘレス、ほとんどフィリピンであってフィリピンでないバリガモと違い、ちゃんとしたアンヘレス市において、昔から建っている映画館。その『ラスト・ショー』もどきアメリカ合衆国ふうのデザインが歴史を感じさせる。家族の各人にドラマをつくる構成が、いつもフィリピンとなれば、アホのひとつ覚えのごとくゴミの山へカメラを向け、そこでクズ拾いによって生きる子どもにスポットをあて、天使だみたいにあつかいたがる日本の映像メディアと一線を画する。アルマンド・ラオとブーツ・アグバヤニ・パストルのストーリーをもとに、アルマンド・ラオの脚本が人生模様を語る。
　一家を中心で支えるのは中年女性のナイダ（ジャクリン・ホセ）で、この女性が核をになうあたりがフィリピンっぽい。夫のランド（フリオ・ディアス）は映画館に併設の小さなスペースでカインデリアを営み、客の学生にうまく勘定をだまされるボケ。息子のトネット（ブディー・サルヴァドル・カラマット）はオカマみたいでも、妻（ジェマリン・ガリシア）と映画館で売り子をおこなう。娘のジェウェル（ロクサンヌ・ジョルダン）は年ごろのせいか、男を誘惑の色気づく。まだ小学生の末っ子のジョナス（ボビー・ジェローム・ゴー）にナイダが期待を寄せる。映写技師のロナルド（クリストファー・キング）は従兄弟だが、こっそりナイダが関係をもち、四親等なので近親相姦じゃないも、日本以上に親戚の概念が広いフィリピンではスキャンダルの要素。
　ナイダの母にあたるおばあちゃん（ジーナ・パレニョ）は二人の夫がいた問題で裁判になり、日本のように重婚の罪はないが、民事訴訟で判決を待ち、弁護士（ディド・デル・パス）と裁判所へでかける。あとで親権などを含め、おばあちゃんを後見人の名づけ親とするジェローム（ダン・アルヴァロ）が押しかけるシーンをおく。甥のアラン（ココ・マルティン）は看板の絵を描いたり、映画館の掃除やフィルム運びの雑用をなし、尻のできものが膿んで、なにやらあやしい薬のごとき紙をろうそくの火であぶって貼る。あとで空き瓶をあて、血とともに毒素を吸う自分で治療のシーンをおくも、この病気のせいか、脚を引きずる。映画館でもぎりのメルリー（メルセデス・カブラル）がガールフレンドで、妊娠の発覚に困り、責任逃れの態度をとる。メルリーの妊娠に腹立ちのおばあちゃんが怒鳴る。
　以前に映画館は町の中心をなし、かつての人気スポットらしく、ナイダの部屋に貼られる各人の卒業写真や幸福そうな家族のピンナップが繁栄をしのばせる。ナイダは看護士だったともいう。
　まずジェウェルが自分の裸身を鏡に映し、挑発のポーズの練習を楽しむのに始まり、鏡にヒビがあることで現在の経済状況を示す。ナイダが映画館の中を歩きまわるのをカメラが追い、建物の裏の構造をみせていく。映画館に泥棒が出現で警官にアランやロナルドが加わっての捕りもの騒動や、上映中にヤギが舞いこみ、ドタバタの捕りもの劇が場末感をあおる。
　映画館が同性愛売春の場とかし、ロビーにセルビス・ボーイこと、売春夫たちが多数たむろで、ほとんどの客がホモなのが風俗の実態。遠方からオカマのグループが訪れ、老人のオカマを仲間が「ママさん」と呼んでいる。ピストルを携帯の男がプライヴェート・ジプニーに乗り、いかにも警官とにおわせ、若いセルビス・ボーイを連れ帰る。幼い娘（アイラ・トゥアソン）を抱く母親（ジーナ・ヴィリア）が入り口でナイダに夫がきているはずとたずねる。ヤギの侵入で上映中の場内にライトがともり、客席で同性愛セックスのものたちが、あわててお尻のあらわなかっこうでスボンをあげる。黒人のハーフだろう肌の黒いオカマ（フリア・テーラー）がニューハーフなのか、声以外はほとんど女性で、ロビーを色っぽく歩く。このオカマとジェウェルが階段で腰をふるウォーキングの練習に、ナイダがジェウェルをビンタする。ジョナスまでが口紅をつけてふざけ、おかしくも、現実のホモ売春は汚らしく感染と教える。
　映画館の前の通りをカレッサやトライシクルが走り、葬式用の花の山車が運ばれ、と喧騒にあふれるあたりに汚い空気がわかれば、ジプニーの脇を横断の二人の尼僧（ジーナ・ディアス、オフェリア・グエコ）が転ぶのをナイダが部屋からみるなど、よく雰囲気が伝わる。
　館内のトイレは排水溝がつまってオシッコがたまり、アランが掃除や、ランドが洗濯し、その洗濯ものがトイレの中にかけて干され、とり入れでおばあちゃんが床にたまった汚水に落とすうえ、外出用の靴が壊れて嘆く。落書きだらけの壁にナイダとロナルドがラヴラヴと書かれるのに驚いたナイダが消すも、薄っすらと読め、アランが白いペンキで消去のとき、気がつかずに塗る、とあらゆる部分が汚らしい。
　ロナルドがフィルムを巻き戻し、古いタイプの三十五ミリ映写機にかける作業を丹念にとらえ、七十年代の日本の三流名画座を思いだす。アランが三缶ほどのフィルムを縛り、バスにあずけて別のと交換のようすにフィルムの運搬がうかがえるも、フィルム缶の錆がまた汚い。
　ジョナスがメガネをかけ、食事のテーブルにさり気なくルービック・キューブを置くといった細部のこだわりでナイダが将来の夢を託す気持ちをあらわし、小学校から帰ったジョナスが映画館のロビーで三輪車を乗りまわすのみならず、パソコンでゲームの落差が人間喜劇。
　登場人物の多くがタバコを吸いまくるのも、低脳なバカっぽさの暗示を高め、真に汚らしい。
　宗教行事でロウソクをもつ群集が歩むのに対し、アランがひとりだけ反対方向へ進むラストまで、いかにもインテリの手法といえる。フィルムが燃えて終わる小細工が知的印象をかもすながら、いささかワザとらしいかな。
　個人的には映画館に『ＫＡＴＡＳ』『ＫＡＵＬＡＹＡＷ』『ＢＩＧＡＹ　ＨＩＬＩＧ』『ＰＵＮＬＡ』『ＢＵＫＯ　ＰＡＮＤＡＮ』などのポスターが貼られているのが興味深く、『ＰＡＧＳＡＬＵＨＡＮ』はアヤ・メデルの顔にいたずら書きがある。アランがオッパイを絵の具で描く看板の作品は不明だが、『ＲＯＳＥＳ　ＡＮＤ　ＬＯＬＬＩＰＯＰＳ』はともかくも、倉庫に放置の『ＨＵＢＡＤ　ＳＡ　ＩＬＡＬＩＭ　ＮＧ　ＢＵＷＡＮ』の看板は、さほどクラウジャ・コロネルに似ていない。本日上映のところにアランが『ＣＨＥＣＫ−ＩＮＮ』を貼れば、出札窓口に『ＴＡＭＰＩＳＡＷ』があり、オカマの客がオネエ言葉で「ウーン、タンピッサウ」という。スクリーンにかかる映画から『タクシー・ドライバー』の音楽が聞こえるのは、それが無断に使用されたためで、おそらく『ＰＥＲＬＡＳ』と思われる。
　とにかくジャクリン・ホセとジーナ・パレニョの名演技が光り、いかにもなりきって役にはまる覚悟か、容貌の衰えや老いをさらす。ヒビの入る鏡にナイダが顔を映し、まだ魅力が残るかを確認で、ジャクリンはメイク・アップのない顔にブツブツが目だつ。老醜を隠すおばあちゃんの化粧にジーナが血気迫るうえ、水浴びで全裸にしゃがんで肌のたるんだ背中をみせ、女優根性のすごさと評するべきか。落書きをゴシゴシとこするナイダのゆるゆるのジーンズをはくお尻がゆさゆさと揺れ、全盛期のジャクリンのキュートなお尻が露出の写真と比べれば、いかに若さが素晴らしいかがわかる。
　ほかに女優ではロクサンヌ・ジョルダンが乳首をバッチリのオッパイをだし、メルセデス・カブラルがメルリーとアランのセックスで乳首や陰毛をモロ。さほどふたりとも美人でなく、メルセデスはブスっぽいあたりがリアリズムといえる。
　ランドのみるファンタジーのＴＶドラマはフィリピンの大衆文化の風刺をそそり、カイロ・バルデモールとケンジ・ヴァルデスが演じるヒーローの稚拙さがおかしいも、ヒロイン役のジーン・アンドルーズとソフィア・リーに注目。同じ年にジーンは『ＰＨＯＴＯＳＨＯＯＴ』で、ソフィアは『ＢＬＩＮＤ　ＳＩＤＥ』で全裸を披露し、とくにソフィアは主役級にのぼったが、この端役で抜擢の目をとらえたのが理解できる。
　フリア・テーラーはニューハーフの設定のため、トーンの低い声は吹きかえだろうか。クレジットにはゲイのパトロン役のひとりにシーラ・サンチェスが記されるが、どこにいるかわからなかった。
　なお、フィリピンで公開の版は国際版に検閲が入ったようで、ナイダがロナルドのチンポを目撃のシーンでクリストファー・キングのチンポにモザイクがかかり、鏡の前に立つジェウェルの全裸は全身のショットがカットだし、アランとメルリーのセックスは本番さながらのところを削除で短縮。黒人のニューハーフが客のチンポをフェラチオのシーンもとり去られ、情けなくなる。多くのディジタル作でチンポの丸だしが平気なのに、いったいなぜと疑問をもたげる。