ＡＮＧ　ＬＡＬＡＫＩ　ＳＡ　ＢＵＨＡＹ　ＮＩ　ＳＥＬＹＡ
（セルヤの人生にかかわる男）
　
97/98年：スター・パシフィック・シネマ／レイナ・フィルムズ
監督：カルロス・シギオン・レイナ
主演：ロサンナ・ローセス
　　 　リッキー・ダヴァオ
　　 　ガルド・ヴェルソサ
　　 　アラン・パウレ
　　　 エヴァ・ダレン
　　　 レナート・デル・プラド
　　　 クリスピン・ピネダ
　いかにもインテリっぽいなあ、といった第一印象。
　カルロス・シギオン・レイナ監督がロサンナ・ローセスを主演にして『ＬＩＧＡＹＡ　　ＡＮＧ　ＩＴＡＷＡＧ　ＭＯ　ＳＡ　ＡＫＩＮ』に続き、イロコス・ノルテでロケした作品。カルロスによれば「我々のずっと夢だった企画」だそうで、
「男性とは何か？　女性とは何か？　人々が常識として信じている性別への認識判断を疑ってみる視点。一般的に正常と呼ばれている道徳基準に対し、それに合わない人たちにすれば、いかに理解されることが容易でないか。一方で、男性を超えるとはどういう意味か？　社会的に同性愛者と呼ばれる人たちよりも、はたしてそうでない人たちのほうが責任意識を多く持っているというのか。そんなことを問いかけてみたかった」
　と語っている。つまりホモセクシュアルを扱うわけだが、社会学的、人間学的に観察しようとしているだけに、インテリ・タッチにならざるをえないということか。
　それにしてもバッハやモーツァルトのピアノ曲を流すなど、自分と同じ趣味なのだが、どうも映像としっくり合ってないように感じられるのは、カルロスの力量不足だろう。イマイチ頭で映画を撮っているといった気どりを脱しきれていない点が非常に惜しまれる。ただし赤ちゃんが生まれる準備をするとき、ガラガラを買ってきて、そこからブラームスの子守唄が流れるのはさすがになごむ雰囲気をつくっている。このブラームスの子守唄という曲が、個人的にもすごく好きなんだよなあ。
　物語はロサンナ演じる小学校の教師が、ガルド・ヴェルソサ演じる偶然に知り合った男とセックスするところから始まる。ロサンナは学校で児童たちから、スカートの中をのぞけるようにと机に穴をあけられたりして、さえない生活ぶり。ガルドとの結婚を望むのだが、体が目的で遊んだだけのガルドがいなくなり、もらった名刺の住所へ訪ねることにする。
　目的の村へ着くや、ジジ・ロクシン演じるおばさんを筆頭に、ゴシップの井戸端会議を繰り広げている暇人たちがいて、この他人への詮索偏向から地方を舞台にしたのかもしれない。
　名刺の場所であるエヴァ・ダレンとリッキー・ダヴァオ演じる中年男女が共同オーナーの寄宿舎の前で疲労から倒れ、看病されるも、ガルドの知り合いとわかってエヴァが冷たく接する。でもロサンナが教師と判明するや、自分たちも同じなので学校へ紹介し、突然やさしくなるのはいささか豹変すぎかな、とのイメージ。まあ人間とは、こんなものかもしれないが。
　リッキーは近所に住むアラン・パウレ演じる男とホモ関係。たまたま病気にかかったときに今度はロサンナが看病し、リッキーとロサンナが結婚へ。いざ初夜がうまくいかなくて、ちょっと待てよとなるわけである。
　リッキーがよろめくと、前の女房との結婚写真にぶつかって割るなど、カルロスは小道具の使いかたがけっこううまい。またリッキーとアランがキスしているところを目撃してゲイと悟る瞬間のショットなど、パンとズームを組み合わせた鮮やかなカメラ・ワーク。ほとんど『テス』でテスが処女でないとわかったときのジョフリー・アンスワースとギスラン・クロケの手法にも匹敵するもので、撮影担当のヤム・ララナスに拍手を贈りたい。
　ロサンナのウワサを聞きつけたガルドが帰ってくると、やたらロサンナにつきまとい、欲求不満気味のロサンナがズルズルと傾く。セックスするばかりか、一緒にバイクに乗ってイチャつき、格好のゴシップ・ネタを提供。すぐにロサンナが妊娠してガルドがいなくなり、生まれた男の赤ちゃんをリッキーが自分の息子のようにかわいがる。このあたり、ロサンナの浮気も包容力で許していて、精神的な愛と肉体的な愛の違いにふれているようもである。
　そうして六年後、ロサンナが再び現われたガルドとセックスレスのうずきから結ばれるも、子どもを自分のものだと主張するから、きっぱりとガルドを追いだす意思の強さが一つのクライマックスを築く。アランが深刻な病気にかかり、リッキーに抱かれながら昇天するのが、もう一つのクライマックス。おとなしかったリッキーが初めて人を傷つけるウワサ話に喜びを感じている連中に激しく反論するラストが、人間の尊厳を訴えかけてくるよう。ロサンナとリッキーが子どもを抱いて入った家の全景ショットから、まさしく家族とは何か？　家庭とは何か？　を暗示する要素もにじみだしてきて、確かに深みのある内容だと実感。
　途中で鼻につく部分も多かったインテリっぽさだが、最後に納得できたというか、ジーンとくるような感傷性を伴ってきて、いいんじゃないか。
　正直、レヴェルの高い映画だ。
　ところでロサンナはさすがにセクシー女優らしく、かなり脱ぎまくっているのが嬉しい点。最初のガルドとのセックスでは下着姿までだが、リッキーとの初夜でオッパイ全開。再会したガルドとベッドになると、横からとらえた全裸でのオッパイにうっとり。騎乗位になってのボディー・ラインもビンビンにそそる。オッパイのアップがあるだけでなく、終わって寝転ぶポーズでのお尻丸だしや、起きあがってブラをつけるときの乳房の形など、どれも絶品。六年後のガルドへの誘惑を抑えようと服のままシャワーを浴びるシーンや、リッキーに迫って身体じゅうにキスをするときの下向きオッパイにもウハウハ。
　ロサンナ、素晴らしいじゃないか。
　アランの妻役でマッキー・ヴィリアロンが出演していて、まったく色っぽいシチュエーションがないのは、ちょっと不満かな。
　あとリッキーとアランのホモのセックスがねちっこく撮られていて、「勘弁してくれー」と叫びたいほどに気持ち悪かった。