ＳＣＡＲＥＧＩＶＥＲＳ
　
08年：ＡＰＴエンターテインメント・プロダクション／Ｍ−ゼット・ＴＶプロダクション
監督：ウロ・Ｑ・デラ・クルース
主演：ホセ・マナロ
　　　 ウォリー・バヨラ
　　　 イサ・カルサド
　　　 エーラ・マドリガル
　　　 パオロ・コンティス
　ホセ・マナロとウォリー・バヨラのコンビを主役にするコメディー。ＴＶの『ＥＡＴ　ＢＵＬＡＧＡ』の延長での企画だろうが、とにかくスラプスティックの評価というのはむつかしい。慣習や生活、精神構造の違いがあって、ハリウッド製でも日本でうけないか、本国の大ヒットにもかかわらず、未公開になるケースがあるように、笑いのセンスが異なる。
　精神病院で看護婦がイチャつく相手の看護士がなぞの影に殺されるのが冒頭。ケチな泥棒のビリー（ホセ・マナロ）とボブ（ウォリー・バヨラ）が、それぞれ女装で中国人とインド人にバケて宝石店で指輪をふたつ盗み、インド人の結婚式にまぎれるなどで逃げるも失敗。飲みこんだ指輪を排出のため、警察で大量の水の摂取を強制に続く。裁判で証拠の大便の瓶をビーナッツ・バターにすりかえ、ウンコを食べるふりで混乱をまねき、精神病院送りになる。そこで女医のジェシカ（エーラ・マドリガル）のミステリアスな魅力にビリーが引かれるが、幽霊をみたと騒いだためにボブが独房に入れられる。その独房のドアの先から看護婦のマルシア（イサ・カルサド）が話しかけ、ボブがときめく。やがてこの精神病院で連続殺人が起こっているうわさを耳にし、ラミル（パオロ・コンティス）という霊になった存在を知る。なんて内容でホラーの色をプラスするも、とにかくさほど笑えない。
　宝石泥棒ではビリーの中国なまりのオネエ言葉が芸になり、セールスの女性にマリアン・リヴェラがゲスト出演。マリアンを呼ぶ際にチャイムのピンポンをもじって「ディンドン」と声をかけるのが、マリアンのプライヴェートのお相手であるディンドン・ダンテスを引っかけた楽屋落ち。精神病院の壁にＴＯＴＯＹ　ＢＡＴＯと落書きが読めるのも、エーラ・マドリガルが助演のＴＶシリーズの楽屋落ち。宝石が消えたと宝石店の用心棒的店員のラモン（ジョン・アパシーブレ）などの身体検査にボブが「女性なのに」と拒むと、突然「私は女性よ」とあらわれる婦人警官役は、やはりゲストのフリア・クラレテ。ほかにちょっと狂ってそうな精神科医役にヴィク・ソット、ビリーとボブのでるＴＶのトーク・ショーのホストに本人の役でボーイ・アブンダがゲストで顔をみせる。宝石店のオーナー（メンゲー・コバルビアス）が監視ヴィデオをチェックで発覚の、ガムを机の下につけて宝石を隠す手口は、どこかのいただきのような…。
　ボブの従姉弟にあたり、ケガで入院の弁護士のデンマーク（ライアン・イリアーナ）がデブで、いつもスナックを食べていたり、ボブが腹からだした指輪についた臭いをかぎ、警官（タド・ヒネメス）がきたのでまた飲みこむなどはクスりとできるながら、警察でビリーとボブがラミルのつかまる精神病院のニュースをＴＶでみる伏線をおきつつ、精神病院の庭の墓場に座る患者が消えるのや、ボブの独房にでるのや、患者の頭の裏側に崩れた顔がうつるのや、ビリーとボブに天井からのびて襲いかかる白い霊気のようなものといった幽霊の描写がＣＧや特殊メイク・アップを含め、アイディア不足でイマイチにとどまる。「父がマジェランだ」と語る患者をはじめ、ビリーとボブに「指輪をよこせ」と脅すマジなものを含め、ホモが多いなどの精神患者のようすにはクスクスできるし、ボブがニンニクの束をレイにして寝ている患者たちにかがせ、フィリピンのモンスターは吸血鬼に似ているのねとうかがわせるも、ジェシカが「マルシアは死んだはず」と教えて、ラミルと看護婦時代のジェシカの恋仲にマルシアが横恋慕し、過去の事実が暴かれてマルシアの霊の出現に、ラミルの警告も無駄でボブを連れてマルシアが飛びあがり、ラミルとマルシアが対決にいたる展開は予想にたがわないも、メガネをかけたお高いしゃべりかたであやしかったジェシカがニンニクのレイをマルシアの墓にかけて退治は人間関係の図式をねったと思わせる。指輪を狙う患者のひとりのピーター役で出演もかねるジュールダン・セバステャンの脚本が考えたみたいでいて、だったら最初から墓にニンニクをかけておけばと実も蓋もない印象がおきるうえ、ボブがマルシアにわたそうとしていた指輪をビリーがジェシカにあげて、盗品の処理がいい加減だし、墓を掘った棺の霊が消えるオチも定番におさまり、水準に達しない位置に落ちつく。
　釈放のビリーとボブが介護学校で学び、卒業で精神病院へつとめ、車椅子の老女が目をはなしたときに宙返りで元気満々とのギャグは老女役のリリア・クンタパイの奇妙なムードをいかすが、シャーロン・コネータの大ヒット映画『ＣＡＲＥＧＩＶＥＲ』に題名をダブらせるも、まったく内容の関係のないおかしさにあって、ウロ・Ｑ・デラ・クルースが映像づくりに手堅さの発揮を認めつつ、ホセ・マナロとウォリー・バヨラのアクの強さが感覚のズレで空まわり。
　本当にスラプスティックの評価はむつかしい。
　ちょっとブスだけど、ミルネル・トリニダッドが演じていると思われる「私は看護婦よ」と騒ぐ患者がまだ看護婦のオープニングで、院内の逢いびきにチラッとパンティーののぞきそうなショットを含むのに、あとでイサ・カルサドとエーラ・マドリガルの登場にセクシーさを期待したが、ジェシカの脚を組んだ横に霊がでるのをボブがみるときにエーラの太腿が誘惑的な程度のみに終わり、女優への楽しみも半端で残念さを増す。
　きっとフィリピンでは大爆笑を呼んだに違いないが…。