ＳＡ　ＰＡＲＡＩＳＯ　ＮＩ　ＥＦＲＥＮ
（エフレンの天国へ）
　
99年：グッド・ハーヴェスト・プロダクションズ
監督：マリオ・Ｊ・デロス・レイエス
主演：アナ・カプリ
　　　 アントン・ベルナルド
　　　 アラン・パウレ
　　　 イネス・ヴェネラション
　　　 マリネラ・モラン
　　　 ポッポ・ロントク
　　　 シモン・イバラ
　　　 アリソン・ヴィー
　　　 ハーリン・バウティスタ
　　　 ゾルタン・アモーレ
　赤ん坊にお乳を飲ませる母親のオッパイがみえたショットによるタイトル・バックから、愛情を問うドラマかなと推測する。アナ・カプリ演じるヒロインに、アントン・ベルナルドが演じる主人公が舌で愛撫するベッド・シーンにつながり、エロティックな内容への期待もふくらむ。
　実際はゆだんだ男女関係のもつれを描いた、激しい葛藤のドラマだった。それもマリオ・Ｊ・デロス・レイエス監督の妙にリアルな演出でできがよいだけに、男同士のセックスを含め、気持ち悪いくらい。
　前半はアラン・パウレ演じる暴力からストリート・チルドレンや女性を守る団体に勤める男を中心に展開し、アランが同性愛者だとカミング・アウトするまでが主題。アニータ・リンダ演じる母と住むアランの家がある貧民街の光景が興味深い。ミゲル・モレノ演じる兄が現れて「オカマとはふざけるな」と殴ったり、ジャッキー・カスティリエホ演じる同僚がからかうも、ジャッキーには差別意識が少ないから、ホモに対するさまざまな対応をうかがわせる。最初にアランがアントンに出会ったとき「ゲイか？」とちょっかいを入れてアントンがムッとし、さっさと去ると「実はオレもゲイだ」と打ち明けてナンパするなど、いくら日本より寛容とはいえ、大っぴらにしづらい環境は相変わらずのようだ。
　アランは変態の政治家からもてあそばれて自閉症となった少女の救済に一生懸命になっていて、少女が誘拐のうえに殺されるサブ・ストーリーは、幼児の性的虐待への訴えかけを盛りこんだのだろう。しかも少女が政治家の娘だったあたりから、フィリピンにおける家族環境の複雑さを暗示する。同時に少女を救えなかったショックがアランの同性愛における悩みへダブル・パンチをくらわせる構成が、舌を巻くほどにうまい。ロベルト・シルヴェリオのストーリーをもとに執筆したジュン・ラナの脚本の力と感じる。
　それにしてもマッチョ・ダンサーたちが踊るゲイ・バーの内部、男ばかりの集団セックス、アランがアントンと再会するクラブでの、アントンが紐パンツで陰毛をだし、玉袋がポロリ寸前状態というポーズをとるダンスなど、ねちっこい表現にゲーッ。アランとアントンがジャクジーの中で洗い合うチンポのみえそうな全裸にいたっては、頼むからやめてくれー、と声をあげそう。ポッポ・ロントク演じるアランの同性の恋人がアメリカから帰国し、アランと熱っぽくキスするのをジェゼッテ・プロスペロ演じる尼僧が目撃して驚く表情がおかしい。アランとポッポのパンツ一丁のセックスも直視できない。
　アランがアントンの家に引っ越してきて、映画は第二章へと入る。アントンが主役の語り口に転じ、マリネラ・モラン演じる妹のほか、イネス・ヴェネラション演じる家事にいそしんでいる内気な女性、アナ・カプリ演じる元ダンサーだったという激しい性格の恋人と、よくわからない同居人がいて、いかにも怪しい人間関係を匂わせてくる。アントンが母の思い出を話し、中国人だと告白するも、プールにおぼれた記憶では助けようと手を差しだした水着姿の母がアメリカ人っぽく、部屋に飾られている母が集めたという人形のコレクションにはバービーから日本の舞妓さんまであって、こちらも裏がありそう。アナとアントンは連日セックスに燃えまくるも、大ゲンカを繰り返し、ポッポがアナとセックスしたことでもめてアントンが自殺未遂。アランが間に入って仲直りさせるとき、街の中で見物していた群集が拍手するなど、マリオの演出は適度に周辺をからませる手法で個の世界を強調する。イネスがアントンの妻だったと判明し、アントンがサディストで、ＳＭ行為によって火傷だらけにされたボディーをみせる痛々しさは、精巧なメイク・アップもあって、異常さの訴えかけに足るもの。
　結局、アリソン・ヴィー演じる同級生がマリネラとできて、アナとマリネラが同時妊娠。アナは堕胎し、マリネラは出産。アナが家をでてポッポと一緒になると、ペット・ショップ経営で独立する。アナが飼っていた小鳥を握り殺すことでアントンの悔しさを表わすも、ちょっとかわいそうかな、との思いが優先。今はシモン・イバラ演じる新しいホモの恋人をみつけたアランが、アントンとすごした日々を感謝するところで終わるわけで、さすがに共感の起きる内容ではなかった。
　アランの女装した妖精を全裸のアントンが追う幻想や、アランとアントンのセックス・シーンが再度はさまれるや、お願いだからやめてよ、といった感情を抑えきれない。
　人間の愛欲に迫る、まずまずのレヴェルに達したドラマながら、その生々しさゆえに嫌悪感をもよおしたのが正直な印象だ。
　もちろん男女のからみも大胆な露出になっていて、アナはアントンと五度のセックスを繰り広げ、脚をあげて挿入のあとベッドから落ちて騎乗位でもだえたり、四つんばいでバックから「痛い」と怒りながらピストン運動したり、ワンピースをビリビリッと引き裂かれたりで、オッパイやお尻を丸だし。ポッポとも屋外でトップレスになり、カー・セックスでは全裸を堪能させてくれる。マリネラはトイレでシャツをまくりあげてのセックスでオッパイのアップを披露するうえ、つわりから吐くときパンティー一枚で、お尻への食いこみがキュート。ただしアナとマリネラはタイプじゃないから、それほど興奮を呼ばないのが本音。大ファンであるイネスが火傷をおわされる前の回想でアントンから乳首を吸われ、痛めつけられるフラッシュで素っ裸のボディーをさらすのが嬉しかった。