ＳＡＮＤＡＫＯＴ　ＮＡ　ＫＡＬＩＧＡＹＡＨＡＮ
（手のひらいっぱいの幸福）
　
97年：ムーヴィー・アーツ
監督：ウィリアム・Ｃ・パスクアル
主演：ミナ・デル・オロ
　　　 アラン・パウレ
　　　 チャリト・ソリス
　　　 ジャクリン・ホセ
　　　 ズセット・ラニーリオ
　　　 ジーノ・アントニオ
　場末っぽい映画といえるかもしれない。
　どこかの田舎町が舞台で、トロイ・ゴメス演じる若者が都会から帰ってきて、アラン・パウレが映写技師をつとめる映画館につとめる。いわゆる自分が中学高校時代をすごした七十年代のローカルにあったような、ションベンくさい場末の映画館。スクリーンの下や客席の間を掃除したり、旧タイプなレンズのまわりにフィルムをかけていく映写機を操作するようすが、どこか懐かしく感じる。
　映画館が売春の発展場になっているのは、はたして実情なのだろうか。ピア・パウラ演じる売春婦が男の客たちに声をかけ、映写室でアランを相手する。フィルムが切れてトロイが場内の明かりをつけたら、チンポをしゃぶっていたのがオカマだったとのコメディー・シーンもでてくる。
　物語は町の旧家にチャリト・ソリス演じる女主人が住み、ミナ・デル・オロ演じる孫娘を厳しく育てている。いつも神に祈らせ、宗教的な厳格さを押しつける。ズセット・ラニーリオ演じる口のきけないチャリトの世話係が、こっそりミナに食事を与えたりする。ミナは下世話な社会へ興味津々で、映画館の前にきては、上映中のセクシーな映画のスティールをながめる。ある日、ついに入場料を払って制服のまま場内へ入ると、抱き合っている恋人たちや、ホモのカップルをみかける。痴漢に迫られ、好奇心に引かれるも、逃げてきたり…　いったんは神父に懺悔したミナだが、また映画館へ足を踏み入れ、ピアからケンカを売られる。などのシチュエーションで、上映中の映画とミナの記憶がダブりながら、ちょっと幻想的に展開する。 チャリトにはジーノ・アントニオ演じる息子がいて、ズセットを犯そうしたりのバカ男。ジャクリン・ホセ演じるジーノの妻は、外でつくった誰かの子を生む。チャリトとジャクリンはケンカし、ジーノはチャリトにみかたする。初潮をむかえた立場上は娘にあたる女の子をジーノが性的にかわいがり、ロリコン映画からミナにジーノの思い出がよみがえる。アランがミナに引かれ、家の前まで追ってきて振りきられるのをチャリトがながめ、ミナを責めると、ついにミナが反抗。同様の態度をとったジャクリンを連想する。ミナへの偏愛でもめてジャクリンがジーノを撃った事実が明らかになり、チャリトがミナに母のようなみだらさを秘めているのではないかと恐れる。「母は悪魔だ」との言葉がトラウマ状態になったミナが、アランを情事中に刺すクライマックスを迎える。
　執拗に口説くトロイをナイフで脅す強さをミナが秘めるのと、ジーノがピストルをいじるのが伏線。チャリトに殺される強迫観念が起きたり、アランとミナの二人ともが愛撫の夢をみるなど、どこまでが想像でどこからが現実なのか、どこまでが過去でどこからが現在なのか、いったい誰のイメージなのかの曖昧さが表現のポイントといえ、ちょっとルイス・ブニュエルを連想させてウィリアム・Ｃ・パスクアルが確かにうまい。ボールド映画のポスターが何枚も貼られた映画館のロビーが興味深いこともあって、一応、楽しめる内容になっている。
　ただし耽溺したトーンを破って突然に明るい曲調の主題歌が流れ、半スケの衣装でミナが市街を歩き、遊園地でメリー・ゴーラウンドに乗るのをえんえんと撮るラストがバカバカしく、しょせんは底の浅い内容。七十六分ほどなのに、イライラ感を伴うヘタさはいかんともがたい。
　どことなく全体に占めるションベンくささが魅力をそいだようだ。
　ミナが平板な容貌で雰囲気が場末ふうなことが、さらに満足度を低める。部屋の着がえで下着からオッパイをみせ、全裸でシャワーを浴び、乳房を手でつかむも、細切れのようにショットをつなぐ編集のまずさに唖然。水浴びで浴槽につかってオッパイを浮きあがらせたり、アランに制服を脱がされてオッパイがでたり、二度目のシャワーでオッパイがバッチリだったりするにもかかわらず、イマイチ興奮できない。白い衣装でアランとビーチへいき、海に入って衣装が貼りつき、乳首やお尻がスケスケになるのも一瞬にすぎず、しっかりみせてよと不満タラタラ。娼婦の化粧をほどこすところでマリリン・モンローを下敷きに置くのは、そういうのをセクシーと考えているのね、との意識がわかっておもしろいかな。
　むしろＴバックの下着を披露するピアのほうがおいしそうなくらいだが、やはり少し場末ふうのムードが漂う。
　あと数歩。
　なお、アランとトロイが運ぶフィルム缶にセイコと書いてあるのは、よその会社のをと苦笑いを誘った。