ＳＡ　ＫＡＢＩＬＡ　ＮＧ　ＬＡＨＡＴ
（すべての反対側に）
　
(91)年：ＶＩＶＡフィルムズ
監督：リノ・ブロッカ
主演：ディーナ・ボネヴィー
　　　 トントン・グチェレス
　　　 ナネット・メドヴェド
　　　 ロナルド・ヴァルデス
　　　 マーク・ヒル
　　 　セレステ・レガスピ
　　　 ウィリアム・ロレンソ
　　　 レイ・サグム
　交通事故で亡くなったリノ・ブロッカの遺作。『ＭＡＹＮＩＬＡ　ＳＡ　ＭＧＡ　ＫＵＫＯ　ＮＧ　ＬＩＷＡＮＡＧ』や『ＩＮＳＩＡＮＧ』など、フィリピン映画界を代表する名匠であったし、その質的向上にもっとも貢献した監督といって間違いない。本当に惜しい才能を失ったもの。
　ここでは正義を問いかける内容になっている。
　ディーナ・ボネヴィー演じるのが人気ニュース・キャスターで、華やかな活躍の陰にはロナルド・ヴァルデス演じる市長のうしろ盾があり、ディーナとロナルドは不倫関係。政治の腐敗を告発するディーナだが、たまたまロナルドの不法行為に気がつくと、うってかわって弁護にまわり、トントン・グチェレス演じる同僚がディーナを批判するストーリー。
　チャイナタウンで立てこもり事件が起きて、ロナルドの説得により、いったん解決するも、マーク・ヒル演じるロナルドの腹心が犯人を狂言演出していた事実が浮かびあがってくる。マークはレイ・サグム演じる異常心理の犯罪者を利用するのみならず、ウィリアム・ロレンソ演じる中国系犯罪シンジケートのボスともかかわり、悪を一手に背負っている印象がちょっと単純。ディーナの番組にロナルドが出演し、対談中にトントンの機転でマークの殺人を映したＶＴＲが流れ、世論が一気に反ロナルドとなり、マークの訴追を求めるデモが広がる。これにウィリアムの愛人で、麻薬中毒にされたうえ、捨てられたナネット・メドヴェド演じる女がディーナのもとへくる設定が同時進行。マークと麻薬の接点をつかんだディーナの指摘に、ロナルドが「事故だった」と言い訳する。
　一方、セレステ・レガスピ演じるロナルドの妻は、市長の人気とりのために慈善活動を行っているも、ロナルドとは冷えきった仲。ドラマはディーナとセックス中にロナルドが腹上死し、セレステがディーナにからんで『妻VS愛人』とのゴシップがタブロイド紙を賑わすとの展開が変化球的なおもしろさながら、レイがウィリアムを殺したり、マークの指示を聞かずに暴走のレイがディーナやトントンを襲うなど、安易な解決方法へと向かうのが残念。ディーナがクビになって、トントンがキャスターに抜擢され、二人に愛が生まれる。ディーナが再びトントンと一緒に真実を見つめようと立ち直る心理の葛藤がロナルドの死後といった流れも、正面からのドラマをたくみに避けている。ナネットの自殺未遂をディーナが食いとめたあと、ナネットがディーナとの人違いで射殺の衝撃に反応が描かれないといった著しい欠点も目だち、けっこう練ったにもかかわらず、ロイ・イグレシアスの脚本のツメが甘い。
　最初と最後にＴＶ番組の授賞式を置く構成で、マークに殺害されたトントンに代わってディーナがスピーチするラストが盛りあがるながら、二年続けてドキュメンタリー部門受賞だと、フィリピンにはほかに優秀な報道機関はないのか、とも思えてしまう。
　まあ、ほどほど程度の仕上がりとはいえ、冒頭にディーナのレポートという形で、大気汚染、ゴミ、スラム、ホームレス、シンナー中毒、ガソリン供給などの問題提示が入り、社会劇をエンターテインメントでみせようとしたリノの姿勢は高く評価したい。
　また、ディーナとナネットのセクシーさが、けっこう嬉しい要素をプラスしてくれる。ディーナはシャツを脱いでブラにズボンというかっこうで胸元の色気を放ったあと、ロナルドと入浴シーンで石鹸のあふれるバス・タブからオッパイがのぞく寸前のショットにウハウハ。ビーチでは白いセパレーツ水着を披露してくれるし、ロナルドが亡くなるベッドで、ボディーにシーツを巻いて助けを呼ぶのがそそる。トントンとの愛撫がすりガラス越しなのは、さすがに残念かな。ナネットはもっと誘惑的に迫ってきて、麻薬を吸ったあとにウィリアムとセックスになるとき、ランジェリー姿からオッパイがこぼれそうなうえ、お尻にフィット・タイプじゃないものの、パンティーが割れ目に食いこんでいてよだれもの。ディーナを訪ねる際の谷間が大胆にあいたボディコンのドレスや、ウィリアムから暴行を受けるシーンでのパンティー露出もドキドキを招く。ウィリアムによってマークへの贈り物となり、マークにフェラチオするポーズで肌をださないのは、かなり惜しいところ。
　ガマリエル・ヴィライ演じる警察士官が取り調べで女性をパンティー一枚にしているのは、だから権力者は嫌われるのよ、とうかがわせる。
　なお、マリー・ゲイル・ラセル演じるディーナの幼い娘が、自宅に持ち帰った四分の三ヴィデオ・テープをオモチャにし、ディーナがあわてるのはテレヴィ関係者っぽく、どこか愉快。トントンの部屋にはフェデリコ・フェルリーニの『女の都』のポスターが貼ってあって、リノの趣味がわかるよう。授賞式のプレゼンター役には、アンジェリク・ラゾとアパ・オンピンがゲスト出演している。