ＳＡ　ＨＩＲＡＰ　ＡＴ　ＧＩＮＨＡＷＡ
（つらさと心地よさの中で）
　
84年：ＶＩＶＡフィルムズ
監督：レロイ・サルヴァドル
主演：シャーロン・コネータ
　　　 ガビー・コンセプション
　　　 ニダ・ブランカ
　　　 レロイ・サルヴァドル
　　　 マリタ・ソベル
　　　 ヴィク・シラヤン
　　　 チェリー・ヒル
　　　 サンディー・アンドロング
　　　 ロニー・リケッツ
　シャーロン・コネータとガビー・コンセプションが、プライヴェートで結婚するきっかけとなった作品。駆け落ちした男女の生活劇になっている。
　シャーロン演じる中流のお嬢さまは、ヴィク・シラヤン演じる父から無理やりアメリカ留学を強要され、ガビー演じる恋人が暮らすバギオへ家出。ニダ・ブランカ演じる大家の中年女性を何とか説き伏せ、二人だけで結婚式を挙げて、一緒に暮らすようになる。でもロメオ・リヴェラ演じるガビーの父が事実を知り、送金をとめたため、ガビーはホテルのベル・ボーイの仕事を始める。大学の勉強との両立で睡眠時間も減って疲れ、二人はケンカがちに。シャーロンの妊娠で喜んだものの、出産費用の必要からガビーがアヤしい仕事の誘いにのって、逮捕されるとのストーリー。
　これにチェリー・ヒル演じる同級生がガビーを好きで、シャーロンが嫉妬とのエピソードがからむ。ガビーの誕生日をシャーロンがディナーの準備をして待ち、ガビーがチェリーに誘われ、ロニー・リケッツ演じる友人たちと大騒ぎで祝って遅くなり、帰宅すると待ちくたびれたシャーロンがテーブルで眠っている、といったおなじみのシチュエーションが登場する。
　なんといっても脇の人物がよく、シャーロンが出会う無愛想なパン屋を監督のレロイ・サルヴァドルが演じ、たまたま持病の心臓発作で倒れたのをシャーロンが救い、だんだんと親しくなっていく。いざ心を開けば寂しい中年で、シャーロンがパン屋を手伝うまでになる、この独身男のうらぶれ感がなんともいえない。一番印象深いのはニダといえ、ときに厳しく、ときに理解をもって若い二人に接し、風格あるニダの演技も手伝って、人生の機微を感じさせる。シャーロンと一緒にニダとレロイが弁護士であるロメオにガビーの弁護を頼みにいき、頑固にロメオが断ると、ニダが反論するところで、血のつながった親子より、血のつながりのない他人のほうがいかに頼れるかをしみじみと教えてくれる。
　新聞の失踪人広告をみてニダが連絡し、ヴィクが訪ねてきてシャーロンが帰宅を拒むと、こっそりサンディー・アンドロング演じる姉がシャーロンへおカネをわたそうとしてシャーロンが気持ちだけもらったり、マリタ・ソベル演じるガビーの母がロメオの息子に対する威圧的な態度をなだめていたり、女性のやさしさというか、母の愛のようなものもでてくる。
　結婚届けのときに年齢を問われてシャーロンが「二十一歳」とごまかし、フィリピンではそんなウソが通用するわけ、といった驚きや、シャーロンが大学の教室の入り口で教授の話を聞きながらノートをとり、気がついた教授が感心なんてのは、普通だったら追いだすだろう、みたいな甘さはフィクションたるゆえん。
　しょせんシャーロンのアイドル人気による青春映画だと割りきってしまえばそれまでながら、コニー・アンヘレスのストーリーによるホセ・ハヴィエール・レイエスの脚本がたくみにツボを押さえ、レロイの気どらない演出で、それなりに楽しめるんじゃないか。
　シャーロンが双子の女の子を出産するも、未熟児だったために生命の危機に直面。トニー・カレオン演じる医師の努力で持ちなおしたとき、ガビーが駆けつけてきて、知らぬ間にロメオが弁護していた。赤ん坊をヴィクにみせると大満足で、初めて二つの家族が手をとり合うハッピー・エンドが、現実をごまかしていると批判するのは簡単なものの、シャーロンの映画に夢を求めているフィリピンの観客にとって、リアリズムは欲していないということだろう。
　レロイの持病を示したとき、亡くなって安易にお涙ちょうだいとの設定をあとに置くのかと危惧したが、単なるシャーロンと親しくなるきっかけで、そうならないあたりがよろしい。シャーロンがニダにレロイを紹介し、中年の二人も結ばれるように予感させながら、ラストでさり気なくレロイがニダに手をかけると、ニダが「なに、このオヤジ」みたいにはらっているユーモア・センスも冴える。
　まあ、実際はシャーロンとガビーが離婚したように、こうした若気のいたりで結婚へ踏みきったカップルというのは、別れるのが相場、と個人的には皮肉をいいたくなるが…
　本当は大ファンのチェリーにセクシーな要素を期待していただけに、ガビーを誘惑する妖艶なシーンを含まないのが、かなり不満だった。