ＳＡＢＥＬ
　
04年：リーガル・エンターテインメント
監督：ジョエル・Ｃ・ラマンガン
主演：ジュディー・アン・サントス
　　　 ウェンデル・ラモス
　　 　サンシャイン・ディゾン
　　　 イサ・カルサド
　　　 リオ・ロクシン
　　　 アル・タンタイ
　ジュディー・アン・サントスがレイプ・シーンに挑戦する、と制作前に話題を提供した作品。タブロイド紙では「脱ぐか？」なんてネタになったものの、どうせ大胆な露出がないのはバレバレだし、別にジュダイのオッパイがみたいわけじゃなく、それよりもジョエル・Ｃ・ラマンガンの監督作品だけに、しっかりした内容への期待がかかる。ストーリー考案にはジョエルと脚本のリカルド・リーとともに、エグゼクティヴ・プロデューサーのリリー・ユー・モンテヴェルデが名をつらね、マザー・リリーことリーガルを率いる総帥が自ら参加とは、やる気を感じさせる。
　いわゆるトラウマによる斬新な女性ドラマと紹介文にはあったのだが…
　ジュダイは尼僧として登場。刑務所を訪れ、受刑者たちのケアーに当たっている。トム・オリヴァル演じる妻との思い出に荒れる囚人の前で下着になっていさめ、勇気ある性格をうかがわせる。そんなジュダイの包容力にウェンデル・ラモス演じる囚人があえて反発し、ある日、無残にレイプする。それっきりジュダイは顔をみせなくなる。
　ときが流れてウェンデルが出所。心に焼きついた強い印象からジュダイを探しまくり、ついに駅で偶然にみかける。ビンタをくらわせて立ち去ったジュダイだが、ウェンデルの「愛してる」との打ちあけで許し、同棲を始める。妊娠もして幸福な日々だったものの、訳もわからず、突然にキレることのあるジュダイに対し、ウェンデルが自分のレイプが原因だろうと悩む。結婚を決めて質屋で指輪を買ったウェンデルの前から、ジュダイが謎の失踪をとげて捜索劇に転じる。
　リオ・ロクシン演じる産科医であるジュダイの母に、ベア・ニコラス演じる少女時代のジュダイがお父さんっ子で、バンド・マンをしていたアレン・ディゾン演じる父が海外就労で長期にいなくなるのを嫌がり、アレンが仕事先の日本で亡くなったのにショックを受けた事実を聞く。ロレンソ・マラ演じる婚約者の浮気に絶望し、酒に走ったことも明らかになる。さらにモン・コンフィアド演じるアレンの音楽仲間、デデス・ウィテカー演じる尼僧の上司、ジェフリー・ヒダルゴ演じる元セックス・フレンドという男、ジム・ペバンコ演じる神父などに会って、ジュダイが性欲狂いだった衝撃の側面を知る。
　人間の隠された部分を掘り起こしていくドラマといえよう。
　同時にウェンデルが捜査を進めている間、ジュダイの紹介で刑務所へ取材にきたイサ・カルサド演じるライターと再会し、お互いに引かれ合っていく設定を盛りこむ。イサと正式に結婚式をあげ、無事に出産でウェンデルがジュダイのために買った指輪を捨てて思いをふりきったとき、また物語は次なる方向へと転じる。
　たまたま仕事できたバギオで、ウェンデルが殺人罪で起訴されたジュダイのニュースを読む。留置場で面会して子どもと初対面をはたしたあと、ジュダイが「伴侶ができた」と会わせた相手がサンシャイン・ディゾン演じる女性。ここは伴侶にあたる“アサワ”というタガログ語の単語が性別に関係なく、夫も妻もさす特徴をたくみにつかっておもしろさをだしている。裁判が始まり、女医のサンシャインが山岳民族の医療活動をおこない、ジュダイがそれを手伝っていたのだが、ジョン・アパシーブレ演じる悪徳弁護士が山岳民族を追いだそうとたくらみ、ジャマなサンシャインを強姦。それでジュダイがジョンを刺し殺したとわかる。
　リオが面会でジュダイの「伴侶よ」との紹介にサンシャインをみて、一瞬、ウッと言葉を失ったり、裁判の証人でサンシャインが「被告との関係は」と問われて「伴侶です」と答えているのがおかしい。でも、とくに騒ぐわけでなく、同性愛への理解度は日本よりも深いようだ。ダニー・ラモス演じる山岳民族の青年が証言するとき、方言でしゃべって検事が「タガログで話せ」と注意している点には、文化的興味がにじむ。
　とくに判決へのサスペンスもなく、あっさり無罪が確定。みんなが民族ダンスで祝うラスト・シーンへ。ウェンデルがジュダイとイサを会わせ、異母兄弟になる子ども同士も披露し合い、サンシャインとともに山の村へ残るジュダイに対し、リオ、ウェンデル、リサが手をふりながら別れていく。
　そうか、これは自分の居場所を求めるドラマだったのかと気がつく。
　実はありがちなトラウマを題材する心理劇だと、さして評価の対象にたるまいと危惧していたのだが、実存主義的なアイデンティティーの模索を核にすえたジョエルは、やはりただものじゃなかった。
　確かにさわり程度だし、突っこみの少ない小品ながら、そこそこにいいんじゃないか。
　ところでジュダイのレイプ描写がどうかだが、予想どおり背中をみせるどまりに終わっている。あとリリー・アン・チュー演じる友人と遊びくるい、リリーの恋人を寝とるシーンがあるも、着衣のままベッドでたわむれていて、ジュダイのハダカは欲望の対象外だから、まあいいか。
　それよりイサがウェンデルとのセックスでときめき不足なのが、美人だけにちょっと残念。ロレンソの浮気相手はカサンドラ・ポンティが演じ、こちらは全裸がしょっちゅうのセクシー・スターなだけに、脱がないのが相当に不満といえる。ジョンがサンシャインをレイプは形だけで肌をまったくさらさないも、アナル・セックスで非人間性を強調しているあたり、そうか、フィリピンでバックは変態あつかいなんだ、というモラルがわかって有益（!?）。
　気をつけよっと。
　なお、ウェンデルが仕事をえる洗車センターの名前がＧＥＮＫＩなのは、本当にあるのか、と妙に調べたくなった。