ＳＡ　ＡＫＩＮＧ　ＭＧＡ　ＫＡＭＡＹ
（両腕を私の中に）
　
96年：スター・シネマ・プロダクションズ
監督：ロリー・Ｂ・キントス
主演：クリストファー・デ・レオン
　　　 チンチン・グチェレス
　　　 アガ・ムーラック
　　　 ロベルト・アレヴァロ
　　　 アーミー・オーストリア
　　　 キエール・レガスピ
　　　 カール・アンヘロ・レガスピ
　　　 レーチェル・ロバンコ
　　　 ステファノ・モリ
　異常者による犯罪サスペンスながら、ポリスものの典型的構成といえるかもしれない。
　クリストファー・デ・レオン演じる刑事が主人公で、上司からの評価が高いも、仕事に没頭する多忙さによって私生活ではチンチン・グチェレス演じる妻が不満を抱いている。ちょうど人妻ばかりが狙われる連続殺人が起こり、アガ・ムーラック演じる犯人は少年時代にタタ・ミチェレナ演じる母が浮気をし、オレステス・オヘダ演じる父が絶望で母を殺害のうえに自殺を目撃の経験をトラウマにように引きずっている人物。それで自ら人妻を誘惑しては、セックスのあとに不誠実な女だと殺す犯行におよんでいる。ただ一人、ロベルト・アレヴァロ演じる後見人を実の父のように慕っているのだが、捜査の過程でクリストファーがロベルトを射殺。復讐に燃えたアガがチンチンをターゲットにとるわけである。
　いわば刑事を逆恨みの犯人が、刑事の家族を狙うという、つきなみなストーリー。
　アーミー・オーストリア演じる鑑識がロベルトを血液型から犯人じゃないと指摘するも、キエール・レガスピ演じる相棒の後輩とともにクリストファーがロベルトの身辺を洗わないのはヘンすぎる。それでＣＭディレクターのアガが、たまたまアーミーの友人の友人だったためにクリストファーへ紹介され、家庭のトラブルの相談相手になるシチュエーションがシラけてしまう。親切な人物を装ってチンチンに接近のアガが、ＣＭモデルの勧誘で気を引き、部屋へ連れこむと身のうえ話で同情を誘って愛撫へ。われに返ったチンチンがダメと拒否したため、強引にレイプ。その模様をヴィデオに盗撮でチンチンへテープを届け、脅迫する展開も、クリストファーに不倫をみつかるかどうかのハラハラ感がもっとほしかった。
　また、チンチンやカール・アンヘロ・レガスピ演じる幼い息子へヤツ当たりのクリストファーのいらだちをアーミーが察しているから、二人に過去があったなどのシチュエーションをプラスすれば、もっとドラマが深くなったかもしれない。
　まあ、撮りかたはけっこう丁寧で、クリストファーがアガを犯人とつかみ、アガがチンチンとカールを人質にとるクライマックスはオーソドックスな演出が冴え、たたみかけるようなテンポにロリー・Ｂ・キントスがうまさを発揮ながら、どことなくドン・シーゲルなどアメリカのＢ級作を連想させ、オリジナリティーの欠如が目立つ。メエ・アン・アドニス演じる子守り兼家政婦が、設定上いては困るときに突然、不自然に消えているご都合主義もマイナスで、映画づくりの難しさを実感する。
　アガがいかにも精神を病んだものの雰囲気を全身で醸しだし、後半のチンチンを追いつめる常軌を逸した行動はいささかフィクションながら、一連の『サイコ』以降の作品におけるアンソニー・パーキンズにも匹敵する存在感なのが、とくに光った点と評価できそう。普段は好青年の役が多いだけに、意外性も十分に生きている。そのぶん、クリストファーが損した感じ。
　もっとも、一番注目していたチンチンのセクシーさは、残念ながら失格といわざるをえない。クリストファーが勝手にイクだけのセックスではシーツでボディーがみえず、アガからのレイプも太腿があらわになってドキドキ興奮したのに、パンティーをはぎとるショットを欠き、ちょっとサーヴィス不足。さして美人じゃないとはいえ、腕で乳首のあたりを押さえたギリギリのオッパイだしポーズや、布でオッパイをほんの少しだけ隠しただけの半ケツぎみセミ・ヌード写真でお世話になった経験があるから期待したのに…
　アガの犠牲者では冒頭に襲われる役のザフィー・アロンソが下着までの露出で、二人目を演じるのがレーチェル・ロバンコだから、さすがにやってくれそうと妄想大。プールで泳ぎ、泡風呂に入るレーチェルだが、こちらも水からあがったり、バス・タブからでるショットを含まず、座位のセックスで腰に布を巻いているのがアレレ。
　アーミーにはきわどい見せ場がなく、チンチンの友人を演じるテレサ・ロイサガも挑発的要素を封じていて、テス・ミチェレナ演じるクリストファーへの証言者が中年女性の色気をやや漂わせるくらいで、どうやら女優の魅力の表現は落第のようだ。
　ほかに家族との食事会のシーンでチンチンの母親役としてローズマリー・ヒルが顔をだすも、妹役のイメルダ・トリニダッドとジャネット・タンともども一瞬に近くて、どうでもいい印象。ビーチのＣＭ撮影でアガからヒステリックに怒られるダンサーたちは「衣装が恥ずかしい」といってるわりには、黒いブラ程度で大胆さにほど遠く、みんなブスだから視線を奪わない。
　なお、ロベルトがアガに「アメリカへ帰ったらどうだ」と提案し、アガが「もうカネがない」とかわす会話からは、フィリピン人だなあとのあきれ笑いが起こった。