ＰＵＳＯＮＧ　ＭＡＭＯＮ
（心の中にある甘いスポンジ・ケーキのようなもの）
　
98年：ＮＥＯフィルムズ／カイズ・ヴェンチャーズ・プロダクション
監督：ジョエル・ラマンガン、エンリコ・Ｓ・キゾン
主演：ロルナ・トレンティノ
　　　 アルベルト・マルティネス
　　　 エリック・キゾン
　　　 マチュー・メンドーサ
　　　 ジェーク・ロハス
　　　 アルヴィン・アンソン
　ゲイのカップルと女性の三角関係を扱う喜劇タッチのドラマ。ジョエル・Ｃ・ラマンガンとエンリコ・Ｓ・キゾンという個性の強い監督の共同演出で、どういう分担だったのかはわからないものの、しっくり合ったというか、なかなか高得点の仕上がりになっている。
　また、主人公であるロルナ・ロレンティノ、アルベルト・マルティネス、エリック・キゾンの三人が微妙な心理の動きを巧みに表出し、舌を巻くほどにうまい。役者の光る作品といえる。
　アルベルト演じるのは優秀なサラリーマンで、トニー・マベサ演じる上司のパーティーで部下のロルナが目をつけ、さり気なくカー・セックスへ持ちこむ。妊娠してアルベルトに結婚を迫るも、アルベルトがゲイでエリックと同棲中と知ってショック。とにかくはらませた責任をとりなさいとロルナが押しかけ、奇妙な三人暮らしへと進む導入にあまり無理がない。リッキー・リーとメル・デル・ロサリオの脚本がよく練られている。
　ユージン・ドミンゴ演じる友人にロルナが「やったわ」とセックスの成功を報告したり、エリックが料理に凝っていたり、アルベルトとエリックのキスをみてロルナが気絶したり、細かい描写でユーモアが満ちる。アルベルトとエリックが暮らす郊外の中流住宅が生活的興味をそそり、テス・ヴィリアラマ演じる母がはたきを持ちながら仕切る中、姉妹やその伴侶たちがうるさく集う食事風景の庶民的なロルナの家庭と対比をなす。ちなみにロルナの姉妹を演じるフィリピナス・ガブリエルとシャーリー・シルヴァノのうち、シャーリーがちょっとかわいい。アルベルトとエリック宅のとなりにはアナ・バウティスタとシャンタル・ウマリ演じるレズらしい女性カップルがいて、いつもアルベルトとエリックをのぞいてはウワサ話のネタにしている。あとでロルナが別の男との結婚を決め、三人で喜び会う様子に「何が起こったの？」なんて反応がマジで愉快。となりの二人のうちアナが色っぽいタイプで、水着のシチュエーションがほしかったところ。
　物語はロルナがエリックをライヴァル視し、エリックもロルナに皮肉な態度を示す。二人が相手の嫉妬を誘う行為をとり、いろいろな好みの違いがアルベルトを困惑させるといった具合に展開しながら、次第にロルナとエリックがふれ合い、お互いを認めていくのがポイントになっている。アルベルトとエリックのセックスはウヘーッと気持ち悪いも、それをみたロルナがシクシク泣く寂しさが理解できるなら、ロルナが無事に男の子を出産すると、エリックが「しょせん私は子どもをつくれない身」と落ちこむ涙にも共感がわく。なんというか、性別や古典的モラルを超えた訴えかけが実にみごと。エリックも一緒になって赤ん坊をあやすホノボノ感や、ロルナにストレートのパートナーを探そうとなって、エリックがゲイの美意識でロルナを女っぽく改造するなど、ホントにジーンと迫る要素を秘める。
　途中、ゲイのカップルの結婚式や、ゲイの子の洗礼式がでてきて、風俗的なおもしろさも含む。
　エルニー・サラテ演じるアルベルトの父が訪ねてきて、ロルナの妊娠と結婚話を喜び、エルニーが頑固者だったためにゲイでないフリでドタバタ騒ぎを繰り返すほか、カリダッド・サンチェス演じるエリックの祖母の来訪に、飛んでるおばあちゃんのカリダッドと四人でダンスなど、笑いの中にもやさしい雰囲気を漂わせ、ジョエルとエンリコの表現力には大きな拍手を送りたい。
　また、とくにシメかたが納得の素晴らしさ。ロルナがお見合いをかさね、心配でアルベルトとエリックが近くからみまもる中、オカマへの差別発言をした相手にロルナが蹴りを入れ、アルベルトとエリックが「よっしゃ」とうなずく。マチュー・メンドーサ演じるぴったりの婚約者が出現すると、アルベルトとエリックが自分のこと以上に世話を焼き、かえってうるさがられる。その過程でユージンが怪しい三人の実態に気づき、会社に「アルベルトがホモじゃないか」との憶測を流す。トニーからアルベルトが管理職に抜擢され、挨拶のスピーチで「私は同性愛者だ」と告白のクライマックスが、はたして言葉にだすかのハラハラのあと、勇気を持ってついに…　でちょっとした感動すら呼ぶ。
　まさに一般社会の常識とは少しはずれた人たちに向けたあたたかい視線と、生きる尊厳をやんわりとにじませ、ヒューマン・コメディーとはこのこと。作者たちの姿勢を最大限に評価したい。ホモを題材にした作品では、といっても、それほどみたわけじゃないが、世界でもトップ・クラスに位置するんじゃないだろうか。
　ジョエルとエンリコのうち、今やジョエルはフィリピンでも名監督の一人だが、俳優時代はオカマ役が多かったし、実際にそうかもしれず、だからこそ描きえた世界と推察できそうだ。