02年：リーガル・エンターテインメント
監督：エリック・マッティ
主演：ジェー・マナロ
オーブリー・マイルス
ラクエル・ヴィリアヴィセンシオ
ピンキー・アマドール
ヘーゼル・エスピノサ
パウロ・リヴェロ
題名どおり娼婦の世界を描く作品だが、エリック・マッティが監督だけに、これまで山ほどあった同様の題材のものに比べて、いかに差別化しているかの興味がわく。まず開巻とともに、原色っぽい画面が街のねっとり感のある雑踏風景を伝えてきて、いつものエリックのタッチだなあ、とワクワク興奮が高まる。
でも何というか、撮影に凝ったじゃないか、といった程度に終わってしまったというのが正直なところ。
まずカメラへの配慮に比べて、録音への注意が不足しているのが困ったもの。メリハリをつけるのではなく、単なる技術的な問題で一定レヴェルを維持できないんじゃ「プロと呼べないよ」といいたくなる。とかくフィリピン映画は録音がいい加減で、これなど“優良可不可の良”に入れられなくもないのだが、撮影が水準以上だけにかえって目立つ結果。
内容もマニラにある民家のようなカーサを舞台に、そこにいる娼婦たちの実態を描こうとしているも、リアリズムなのか、カリカチュアなのかはっきりしない。どちらかに絞って描けば、確かにそこそこの成功作になったと思うが、それじゃつまらないから、両方の要素を取りこんでふくらみを持たせようとした意図は理解できる。それにしてはカリカチュアにテクニックを使いすぎたために娼婦たちの感情表現がおざなりになって、のぞき見的な面白さ以上のものがでてこなかったわけだ。
とにかく『ＡＢＡＮＤＯＮＡＤＡ』などの脚本家としても知られるラクエル・ヴィリアヴィセンシオ演じるママが、片目にケガをして眼帯をつけているキャラクターで、低いトーンで台詞をしゃべって好演ながら、なんかマンガっぽい。しかも客たちが、コンドームをこばむもの、子守唄を歌ってもらうだけで眠る勃起しないもの、激しくセックスしたあとに突然に泣きだすもの、防臭スプレーをまくものなど、どれもユニークというより、風刺を強調しすぎた印象。前半だけでなく、あとにも回春のために３Ｐを頼むカップルなどがでてきて、ホント、もっとコメディー・タッチにすればよかったに、と感じさせる。警察が手入れにきて「知事や市長も顧客だぞ」といわれ、引きさがるエピソードもクスクス笑いを誘うように扱っている。
これに対してピンキー・アマドール演じる子持ちの娼婦がいたり、その子どもが各部屋にトイレット・ペーパーを配っていたり、といった生活感はぼちぼちにでている。ピンキーにフロイラン・サレス演じる恋人がいて、ママの計らいで結婚式をあげるあたりは、幸福に満ちたエピソードの挿入として成功している。
ただオーブリー・マイルス演じる主人公の娼婦が知事に呼ばれて、執務室でセックスになるところなど、脱いだパンティーをわたすあたりの変態っぽさはよいものの、国旗をデザインしたデスクの上でオーブリーがあえぐ顔をアップにするショットは、いささかワザとらしい狙いが鼻につきすぎると思える。
リアリズムとしては、決して全体になじんでいない。
エリック監督は早送り画面やスティール写真構成などを使うほか、タガログ語以外の会話になっているときに字幕を入れるといったテクニックにおぼれたため、人間性の追求が弱まったのかもしれない。
ドラマとしてはイマイチだといえよう。
メインのストーリーは、カルメン・セラフィン演じる叔母に売られたオーブリー演じる娼婦が、いかに転落していくか。まだハイ・スクールの学生で、トロイ・ゴメス演じる同級生から思いを寄せられているのだが、それを受け入れず、自分のシチュエーションにずるずるはまっていく。カーサに勤めるジェー・マナロ演じる従業員が、絶対に店の女の子に手をつけたらいけない、という規則を破ってオーブリーにホレ、隠れて情事を繰り返す。それでママにバレると、事故からママを殺してカネを奪い、オーブリーを連れて逃げるわけである。
ありきたりな筋だて、といえばそれまで。
ママが亡くなったカーサは閉鎖になり、田舎へ帰るもの、ミシンの縫い子になったもの、映画の撮影現場の雑用係になったものなど、娼婦たちのその後がエピローグについていて、パウロ・リヴェロ演じる従業員はひったくりするし、結婚したピンキー以外は希望のない人生。実は奪った貯金箱にカネがなかったジェーは、オーブリーにストリートの売春婦をさせる。この無情観のあるラストが、それほどジーンとこないのが、作品の構成の弱さだろう。
とはいえエリック監督の「この程度でいいんだ」といった平均化で満足しなかったやる気というか、違うものをつくりたいという志しは痛いほどわかって、評価したい部分が多いのも事実。
フィリピン映画としては“優”の部類かもしれない。
もっとも個人的には、オーブリーのボディーの誘惑を楽しみにしていただけ、というのが本音。マウイ・テーラーとともに２００２年に登場した注目のセクシー・ダイナマイトで、話題騒然の彼女。個人的にはマウイとダイアナ・スビリの三人でモデルになった『ＦＨＭ』の２００３年カレンダーを部屋にかけているから、毎日のようにオーブリーのヌードをながめているのだが、娼婦役となれば、みる前から鼻息が荒くなってしまう。
最初にママにボディー・チェックをされるところでパンティー一枚に。まだ田舎っぽい少女の設定だからズロースみたいなパンティーがダサいが、鏡に写ったオッパイに視線を奪われる。美容室で垢抜けてからは、自分で陰毛をそるショットの、座った全裸を横からとらえたポーズにビンビン。客を相手にするときも、真上からちょこんと乳首がみえていたり、立ったままオッパイを丸みえにしてチンポを処理してあげたりで、ムズムズとそそる。トロイが客できたから、クラス・メイトとバレそうになって困るシーンでは、色気もなくさっさとトップレスになるところに性格を表わしているものの、乳首バッチリのオッパイには声をあげそう。ジェーとのセックスはクローゼットの中でや、雨の日にトライシクルの中でで、ともにオッパイがポロン。とくにトラシクルのビニール・シート越しに乳首がムギュッと押しつけられるところは、思わずイキそう。
なのだが、うっとりするような全裸は最後まででてこない。これじゃカレンダーのほうがずっと素敵。
確かに美人だけれども、ヘソに宝石のようなものを埋めこんでいるのが好みでないというオーブリー本人の減点要素もあって、正直なところ不満が残る。
映画の内容よりも、この点の失望のほうが大きい。
あと娼婦たちを演じる女優では、ピンキー・アマドールに中年の色気を期待したものの、ピタパンでプロポーションのよさをうかがわせるのみ。ヘーゼル・エスピノサはオーブリーと取っ組み合いのケンカをするときに白いパンティーを食いこませ、相変わらずのフェロモンを放っているのが嬉しい。オーブリーと同じ学校に通っている娼婦役のリニー・リムはひょうきんな容貌で、オッパイをチラリとだけ披露。デズ・デ・ヴェラ、ラライネ・エンリケス、ラライネ・デガラ、エプリル・アベラルデ、オリーヴ・グロリア、キンバリー・ナッシュといったメンバーは、名前と顔が一致しないが、陰毛をみえそうにしながら横になっているショットがあるものもいる。
ラクエルがマッサージしてもらうときに、背中をだしているのは余計。
というわけで、誰にもアッと驚くような大胆な露出がなく、アートを意識したのかもしれないが、エロとしては中途半端な表現だ。期待はずれといわざるをえない。
夢中になれない作品である。
※ この作品は『プロスティ』の題名で“第16回東京国際映画祭／アジアの風”にて上映された。
