ＴＨＥ　ＰＲＯＭＩＳＥ
　
07年：リーガル・エンターテインメント／ＧＭＡフィルムズ
監督：マイケル・トゥヴィエラ
主演：リチャード・グチェレス
　　　 エンジェル・ロクシン
　　　 ＴＪ・トリニダッド
　　　 リーアン・デニス・ラモス
　　　 ジョエル・トーレ
　　　 ライアン・アイゲンマン
　　　 ユージン・ドミンゴ
　エミリー・ブロンテの『嵐が丘』の翻案であり、リチャード・グチェレスとエンジェル・ロクシンのコンビによるアイドル的な企画といえる。すでに１９９１年に『嵐が丘』はカルロス・シギオン・レイナの手によって『ＨＩＨＩＮＴＡＹＩＮ　ＫＩＴＡ　ＳＡ　ＬＡＮＧＩＴ』の題名で映画化されていて、そのときはリチャード・ゴメスとドーン・スレータのコンビのための企画だったから、スクリーンのロマンスを同じ題材で再びといった狙いがこめられているかもしれない。
　ウィリアム・ワイラー、ルイス・ブニュエル、ロバート・フュースト、吉田喜重などの『嵐が丘』とは『ＨＩＨＩＮＴＡＹＩＮ　ＫＩＴＡ　ＳＡ　ＬＡＮＧＩＴ』のときに内容比較をおこなったので、ここでは繰り返さないが、今回のマイケル・トゥヴィエラ版は多くの映画化と同じように小説の前半部のみをとりあげ、後半をはしょってラストにくる構成になっている。ただし現代的な味つけをずいしょにほどこし『ＨＩＨＩＮＴＡＹＩＮ　ＫＩＴＡ　ＳＡ　ＬＡＮＧＩＴ』と同じラクエル・ヴィリアヴィセンシオの脚本だけに、観客の好みの変化を考慮に入れて書き直したと推測される。
　結論を先にいえば『ＨＩＨＩＮＴＡＹＩＮ　ＫＩＴＡ　ＳＡ　ＬＡＮＧＩＴ』のほうがはるかによいできであり、カルロス・シギオン・レイナとマイケル・トゥヴィエラの演出力の差もさることながら、マイケル・トゥヴィエラが最初からメロドラマを基本におくイメージふうの映像づくりへ主眼をおいたため、軽い内容に終わったような気がする。
　冒頭のアラン・フェリシアノとアーノルド・ブエナによるピアノ音楽が心地よい導入をくれる。
　リチャード・グチェレスのダニエルがヒースクリフ、エンジェル・ロクシンのアンドレアがキャサリン、ＴＪ・トリニダッドのアントンがエドガー、リーアン・デニス・ラモスのモニクがイザベラ、ライアン・アイゲンマンのジェーソンがヒンドリー、ジョエル・トーレのゴルチンがアーンショーにあたる。本来は名家であるはずのアーンショーがアントンの一家の小作なのが原作と異なる点で、少年少女時代にダニエル、アンドレア、モニクが結婚ごっこをしている。ジェーソンが根っから暴力的なキャラなのは、全体を薄っぺらい印象におとす一因となっている。さとうきび畑のプランテーションで働きながらダニエルとアンドレアが愛し合い、刈り入れでさとうきびをかじっているのが風土的な興味をそそる。
　アーンショーと夫人が交通事故死のあと、ジェーソンがダニエルを虐待して小説のストーリーをなぞる中、主人家のアントンとモニクがアメリカ合衆国で育っていた設定で帰ってくるあたりがフィリピンの発想っぽい。ダニエルがカネ持ちになる背景にストリート・ファイトに始まり、あやしげな犯罪へかかわったのをにおわす部分や、モニクと結婚したダニエルにアントンが「アメリカ合衆国へいけ」といっている部分にもフィリピン的な定番を感じる。アントンがアンドレアをみそめ、モニクがダニエルをみそめるきっかけが、パーティーをのぞこうとしてアンドレアがアントンの飼い犬にかまれるなんてのは、あまりにありきたりな単純さ。
　ようは四角関係の恋愛劇を目的におくわけで、業のよる陰惨な復讐の物語とは視点が違う。それだけにダニエルを傷つけまくったジェーソンへの仕返しがおざなりにしか描かれず、ダニエルとアンドレアの関係に気がついたモニクがダニエルをかばうシチュエーションが加えられて、最後はアンドレアの妊娠を知ったアントンがアンドレアを殴り殺す結末を迎えることになる。ダニエルをきれいごとの立場においたままで、精神的な罪を問う宿命のごときドラマはかけらもうかがえない。ダニエルとアンドレアのツー・ショットの入ったネックレスを小道具に使用など、安手の恋愛小説を連想させる。アンドレアがカネ持ちにあこがれていて、アントンと暮らしながらもダニエルと密会をかさねるのはよいが、実際の階級社会では主人にあたるアントンは小作出身のアンドレアをめかけにしてプロポーズで正妻なんてことはありえないわけで、リアリティーをあえて無視の姿勢はあくまでアイドル的な企画のためもの。しょせん『嵐が丘』は単なる表面的なモチーフにすぎながったようだ。
　とくに文芸作でもないわけだし、軽い内容を是とすれば、エンジェル・ロクシンの魅力が輝いていてほしいところ。個人的には人気のわりに好きでもないのだが、さすがに灯台で抱き合うシーンでのお尻がみえる寸前の背中の露出は興奮をくれる。ただし『ＨＩＨＩＮＴＡＹＩＮ　ＫＩＴＡ　ＳＡ　ＬＡＮＧＩＴ』におけるドーン・スレータの背中には色っぽさで負けている。また雨に濡れる白いワンピース姿やベッドからぬけだすときの黒いスリップ姿、ラストのビーチにおける白い衣装など、どれも刺激イマイチのままで、本作のあとに制作されたＴＶシリーズ『ＡＳＩＡＮ　ＴＲＥＡＳＵＲＥＳ』の下半身にピタッとフィットした黒いエナメルのパンツに足下もおよばない。新星のリーアン・デニス・ラモスは水着姿を披露するも、ブラは大きめだし、ボトムはパレオを巻いているし、こちらもセクシーさ控え目なのが惜しい。つまりは女優のあつかいも中途半端な作品だったといえる。
　なお女主人役で脚本担当のラクエル・ヴィリアヴィセンシオが、アーンショー夫人役で中堅の柱の一人となってきたメリッサ・メンデスが出演している。

※　この作品は『約束』の題名で“第３回アジア海洋映画祭イン幕張（2007年開催）”にて上映された。