ＰＩＮＡＹ　ＰＩＥ
（フィリピンのパイ）
　
03年：スター・シネマ・プロダクションズ
監督：ホセ・ハヴィエール・レイエス
主演：ジョイス・ヒメネス
　　　 アスンタ・ダ・ロッシ
　　　 アイアイ・デラス・アラス
　　　 ヴォン・ナヴァロ
　　　 オネミグ・ボンドク
　　　 カルロス・アサシ
　　　 ラファエル・ロセル
　　　 カルロ・マセダ
　　　 ジェニー・ミレル
　ホセ・ハヴィエール・レイエスがしっかりした画面づくりでコメディーの娯楽作をものにした、と評価したいところだが、いささか疲れるでき。笑う前にあきれが走る。ジョイス・ヒメネス、アスンタ・ダ・ロッシ（通常はデ・ロッシと表記されるが、ダでもいいようだ。このどっちつかずを気にしないあたりが、フィリピンっぽい）、アイアイ・デラス・アラスの顔合わせは、アイアイがボックス・オフィス・クィーンの称号を獲得したあとでもあり、かなり宣伝要素に使われたものの、いずれも個性を生かしきったと思えない。性格をデフォルメの演技でおかしさを誘おうとするあまり、意図的に極端さを強調したホセの狙いが裏目にでたのだろう。
　ジョイス演じるのは、女性向け雑誌の編集者。アスンタ演じるのは、ジョイスの従姉妹でデパートの化粧品売り場のセールス・レディー。アイアイ演じるのは古着を再生させる商売人で、三人の交遊関係を核とする物語。アスンタの自己中心的な行動にいったんは仲が崩壊するも、真の友情に気づくとの構成ながら、わざとらしさばかりが鼻につく。アスンタが最初に登場するときに、ジェミニ・デ・ヘスス演じる太った女とタクシーを奪い合うギャグなど、かえって不愉快にさせるだけ。ジレット・サンディコ演じる同僚との職場における勤務態度など、まったく共感を抱かせるポイントがない。
　まあ、車をレッカー移動されそうになったことから知り合ったアイアイとカルロス・アサシ演じる警官とのロマンスは、カルロスがマザコンで、ヴァンジー・ラバラン演じるその母親が猛烈な中年女だったり、エドサ通りで男性のヌード写真のグラビア撮影を決行し、ジョイスが警察に逮捕されるエピソードなど、笑えなくはない。アスンタが美人コンテストへ参加する展開で、ジェニー・ミレル演じるのがライヴァル候補。ジョイスはラファエル・ロセル演じる恋人を寝とられたのだが、その相手がジェニーだったとの人間関係において、アスンタはカルロ・マセダ演じる大会スポンサーでもある審査員とつき合うも、恥をかかされてフラれる。今度はジェニーがカルロとの逢いびき作戦にでて、二人がイチャついている証拠写真を押さえるべく、ジョイスたちがヴォン・ナヴァロ演じるカメラマンを無理やりロープで吊るしてホテルの外からヴィデオ撮影させ、ヴォンがオシッコをチビるあたりは、かなりの見せ場で盛りあがる。カルロがアスンタをプールへ誘うと水着姿を携帯のデジカメで写し、インターネットへ流したからマニー・カスタニェーダ演じる大会運営委員が「スキャンダルだ」とアスンタのエントリーを取り消そうとするとき、アスンタがキレて「オカマ」と叫ぶあたりもクスクスできる。ルーシー・ナヴァレッテ、ラニ・タピア、ルビー・アザンザ・ソルメラノ演じるそれぞれアイアイ、ジョイス、ラファエルのメイドがユニークで、ルーシーは頭にカールを巻いているし、ラニのタカビーさなどコメディー・リリーフとして買える、といったプラス面も多いのだが…
　アイアイが同時に知り合ったブラッド・トゥルヴィー、エディー・メンデス演じるハンサムな青年にホレられ、二人が「オレのほうを愛している」と争う珍騒動には説得力が皆無で、いくらフィクションであっても工夫のほしいところ。チア・プシット演じる母とアイアイがカルロスに贈るパイをつくるのが題名の元だろうが、これも小道具としての活用が少ない。ジェニーがカルロスと親戚だったとのシチュエーションはほとんどからまず、ただのこじつけに終わっている。ラクエル・ヴィリアヴィセンシオとマデリン・ニコラス演じるジョイスとアスンタの母同士に対立の図式を持ちこまなかったあたりも、平板なイメージを与える。などの釈然としない印象をぬぐいされないままにクライマックスのコンテストを迎え、水着やドレスで現れた際のアスンタは、もはやバカっぽさを通り越し、ほとんど白痴。どうしてここまでアホにしないといけないのか、演技指導したホセに真意を聞いてみたい。
　とにかく各候補者へ審査員が一人ずつ質問する段階で、皮肉にもアスンタの番にカルロとなり、その意地悪な問いにアスンタがちゃんと答えられるかや、いよいよクィーンは誰かのサスペンスは、実際にハラハラするからホセの演出力をあらためて認識するも、アスンタのキャラクターづけが招くマイナスを補填できなかったようだ。
　とくに惜しくもない駄作、と厳しいみかたになるのはしょうがないだろう。
　また、せっかくジョイスが出演しているのに、セクシーさゼロなのも不満な部分。ＵＰを卒業したとの設定で、メガネをかけてインテリぽさをだしているも、ジョイスの魅力はボディーにつきるはず。これじゃ他のスターが演じてもよかったじゃないか。
　ジョイスの上司を演じたピンキー・アマドールや、ジョイスの助手を演じたキンバリー・ディアスとドンナン・アルカンタランのうちのキンバリーもけっこう好きな女優ながら、色っぽいシーンなしで残念。ジェニーをはじめ、コンテストの候補者にあまりかわいい子がいないし、人選が甘いと感じるところ。
　昨年のクィーンとしてデイジー・メエ・ラーウィー（本物？）が紹介されるや、さすがにハッとするほどの美しさでうっとりなうえ、ジョイスたち三人が食事するレストランの客の中に、思わず視線を奪うだけのかわいいエキストラがいてびっくり。こんな端役に注目が集まるのは、情けなくないか…
　実に中途半端なジョイス、アスンタ、アイアイの共演だった。
　なお、コンテストのホスト役としてデール・ヴィリアールが顔をみせている。