ＰＥＤＲＯＮＧ　ＰＡＬＡＤ
（ペドロの幸運）
　
99年：グッド・ハーヴェスト・アンリミテッド
監督：ニック・デ・オカンポ
主演：ジェラルド・マドリッド
　　　 チンチン・グチェレス
　　　 ジュニー・ガンボア
　　　 ハイメ・ファブレガス
　　　 ジャクリン・ホセ
　　 　フリオ・ディアス
　　 　レアンドロ・バルデモール
　　 　アイラ・マリー
　　　 ヘーゼル・エスピノサ
　　　 マリネラ・モラン
　　　 カミール・ロハス
　けったいな映画やなあ、と感じる。
　フィリピン人に聞くと、題名は手のことを表しているというが、タロット・カードとともに手相が描きだされるタイトル・バックから、占い的というか、運命論的な内容を暗示。ノニ・ブエンカミノによる音楽と、ジュニー・ガンボアのナレーションが、寓話的な雰囲気を醸しだして、旅芸人の一座が投石で追いかえされるファースト・シーンからクセの強さを匂わせる。
　ジェラルド・マドリッド演じる主人公がマニラへでる前と、でてからあととでスタイルをガラりとかえ、二部構成的なのだが、とにかくでる前の不可思議な魅力がまず捨てがたい。イギリス映画タッチの草原の風景といった自然描写がユニークで、ちょっとフィリピンぽくないあたりが面白い。
　旅芸人の一座の座長が、ジュニー演じるナレーションの人物。おなじみの小人や、筋肉マンの天使などが団員にいて、とくにチンチン・グチェレス演じる女軽業師が人を食ったおかしさ。セリフをまったくいわず、おつむが弱いのかどうかのあいまいさをひょうひょうとした動きや表情から伝えてくる演技が、さすがの実力。胸のオッパイの谷間からスカーフと花をだすマジックからセクシーさも感じさせる。
　ジェラルド・マドリッド演じる主人公が、ジャクリン・ホセ演じる仲間のローレライというニセ人魚に引かれるのだが、ジェラルドに人生のアドヴァイス的な会話をするジャクリンがそこそこ輝いてみえて、あとでジェラルドの思い出の人物となる設定に納得がいく。
　チンチンやジャクリンなど、女優がイキイキしている部分が、とくに評価したい点の一つである。
　ストーリーの展開は事故からフリオ・ディアス演じる父親を殺し、ジェラルドが一座に加わるというふうに発展。殺人と誰も気がつかなかったので罪には問われなかったものの、葬儀のときの号泣など、良心の呵責で以後の人生にのしかかってくる重荷となることがうかがえる。ジェラルドはフリオや団員の太った女をマッサージしたあたりから、手に神秘的なパワーを秘めている能力が知らされ、予言を受けると、自分でも認識するようになる。フリオが亡くなったあと、悲しむジェラルドが両掌を前につきだすポーズを広角レンズでとらえたカットが、それを強調する。
　チンチンからの誘惑におけるシルエットなど、セックス・シーンが二度あり、チンチンの情夫であるジュニーによってジェラルドが船からつき落とされて、前半の終了。チンチンのヌードがみれなかったことに不満が残る。
　奇跡的にレアンドロ・バルデモール演じる男に救われ、一緒にマニラへとやってくると、ジェラルドはホモ相手のマッサージ・パーラーにつとめる設定へ。新人たちがマッサージの基本をトレーニングするシーンで、一人が全裸にされ、お尻がアップになるのはゲーッ。その趣味のある人にはいいかもしれないが…
　またマッサージ・ボーイの誰かがシャワーを浴びながらオナニーするところでは、石鹸の泡で竿や玉袋の大体が覆われているものの、勃起したチンポを手で握ってこするアップがあり、こんなもの堂々とみせちゃっていいわけ、とフィリピン映画はやってくれる。まったく女性やチンポ好きにはいいかもしれないが（？）、勘弁してくれー。
　ジェラルドはどうしても男相手にサーヴィスできなかったのだが、レアンドロになぐさめられ、オカマのパパさんにチンポをなめられ、次第にスレていく。
　ハイメ・ファブレガス演じるインチキ大道芸人に売りこんで、いよいよ手の持つヒーリング・パワーで商売する内容に。
　五年くらい前（この映画の製作のニ年前）だったと思うが、バギオを中心にして手だけで手術する心霊治療師たちがいて話題になり、日本でもそういう非現実をレポートするのがディープな記事だと思っているオメデたいライター連中が嬉しそうに報告記を書いているのを読んだことがあるが、そうか、あのアヤシイ治療を題材にしていたのか、と気がつく。超能力を装ったトリックが好きなのは、どこの国も共通なのねと感じるも、ちゃんと手だけで腹の中から悪性の臓物を取りだすシーンがあって、気持ちわりー。
　ハイメは大もうけでウハウハなのだが、アイラ・マリー演じる売春婦の少女が意に反して妊娠し、なんとか流産させてほしいとジェラルドに頼みきて、映画はツメへと入っていく。アイラはハイメの娘で、子どもというのは近親相姦によってできたわけで、すぐにアイラのことをジェラルドが本気で愛するようになる。これに客のカネを盗もうとしてマッサージ・パーラーを追いだされたレアンドロがゲイ・バーへととらばーゆし、疲労で治療中に倒れたジェラルドが、レアンドロに父のこと、ローレライのことを告白し、メソメソ泣く情感あふれるシーンなどが早いテンポで語られていく。冒頭でおとぎ話的に始まっただけに、マジっぽい表現で泣きわめきが多いのは、いささかうんざりながら、ニック・デ・オカンポ監督など作者の狙いによる変化だろう。
　ジェラルドもゲイ・バーのダンサーに転じ、アイラがレアンドロとキスしているのをみて激怒。そのときアイラのお腹の子が生まれそうになり、ハイメの家へ連れこむも、陣痛のアイラをみて非難するハイメに逆上し、思わず殴り殺す。直後に赤ん坊が誕生で、その子を抱いて逃げるも、警察につかまるまでが、さらにテンポをあげて描かれる。しかもリアリズム・タッチでグイグイ引っぱっていて、けっこう迫力がある。
　ハーッとひと息をついたところで、さてさて、そういうわけで、と映画はエンド・タイトルにまた寓話的なムードへと戻し、オッと、これはしてやられたなあ、という印象に苦笑い。
　まあ、けったいな映画だ。
　結局のところ、ニック監督など作者は、いったい何がいいたかったのだろうか。とくにテーマが必要なわけじゃないが、ひねりをきかせたストーリーのあとには、つい主張を読みとろうとしたくなるもの。
　人間にとって本当に大切なのは、ごまかしとかヒーリングのパワーではなく、まごころをささげること、信頼とか絆である、という教訓ではないか。
　それなりにホロッとさせて、テーマの伝達には成功しているから、まずまずの佳作といってよいだろう。けったいなというか、クセの強い佳作だ。
　アイラが妊娠を判断してもらうときに白いブラになったり、ジェラルドと愛撫し合うときに、乳首がみえないものの上半身ハダカになったりして、すごく色っぽく、チンチンやジャクリンのほかにも女優陣が輝いているのが、また映画にプラスの要素を与えている。とくにアイラのみならず、ヘーゼル・エスピノサ、マリネラ・モラン、カミール・ロハスらセクシー・スターたちが、ヌード要員のように登場するのが嬉しい。ヘーゼルは大好きな女優だが、フリオの愛人役で、ジェラルドにセックスしている現場をみられるシーンや、翌朝における半裸、全裸がキュート。カミールはパフォーム・サーヴィスという、日本でいうところのホテトル嬢みたいな売春婦役で、レアンドロの前でボディコンを脱ぎ、黒いブラで踊り、横チチと半ケツまで露出してくれる。カミールからヴァージンと紹介されるのがマリネラの役で、脚の悪い売春婦の設定。ジェラルドの前で全裸になってベッドへうつ伏せに寝ると、ほぼ真うしろのやや俯瞰からとらえたお尻がみごとな美しさ。しかもジェラルドが脚をマッサージしてあげるや、そのアングルなら、ちょっと股のあたりを開けば、オマンコがみえちゃうぞという位置なので、カッカ燃えてくる。ジェラルドが立って歩かせようと、全裸のままマリネラの肩をかついで起きあがらせ、正面からのカメラは照明で暗くしてあるものの、陰毛も映っていて、キャー、ステキー。
　セクシー競演では、マリネラの勝利といえる。
　なおエンド・タイトルでは海にいる女という役でラモナ・リヴィーリアが出演していると書かれているも、どこにいたのかさっぱりわからず、ラモナが『ＡＫＯ，ＬＡＮＧ　ＳＡ　ＬＡＮＧＩＴ』でカミール・ロハスと一緒に主演していた事実を考えると、フィリピンでも芸能界で生き残るむつかしさを感じとる。現実の厳しさだろう。
　余談ながら、アイラが最初に売春する登場シーンはゲーム・センターで、その入り口に『トゥームレイダーズ』と日本語で書かれたポスターが貼ってあるのは、興味深かった。実際にアイラがプレーしていたのがそのゲームかどうかは、知識がないのでわからないが…