ＰＡＵＰＡＨＡＮ　（ＣＲＯＳＳＲＯＡＤＳ）
（借りから逃れるためのあらゆること　交差点）
　
08年：ＡＴＤエンターテインメント・プロダクションズ
監督：ホヴェン・Ｍ・タン
主演：ジェー・マナロ
　　 　アレン・ディゾン
　　　 グロリア・ロメロ
　　　 スヌーキー・セルナ
　　　 アンジェルー・デ・レオン
　　　 ヘルマン・モレノ
　　 　クリスタ・ラニーリオ
　　　 リチャード・クアン
　　　 デクスター・ドリア
　　　 ジュスティン・デ・レオン
　　 　ミシェル・エステヴェス
　　 　ルー・ヴェロソ
　　　 アレック・ロマノ
　　　 トニオ・オルティガス
　　　 モン・コンフィアド
　ホヴェン・ムナル・タンが得意の群像劇で、ディジタルという新しいメディアに進出しての表現になる。
　マニラ湾沿いの貧民街を舞台にとり、複数のキャラクターがたくみにからむ。
　遺体を収容する墓地の管理人をつとめる老女のグロリア（グロリア・ロメロ）は、死んだら亡くなった夫のとなりの収容室におさまりたいと願っているが、墓地には夫の愛人だったエタン（ルイ・マナンサラ）が現われ、ケンカでもめる。グロリアの友人のダデン（ヘルマン・モレノ）はオカマの老人で、墓にそなえるための花屋をいとなみ、その息子のビューティ（キルビー・デ・ヘスス）はストレートに育ちたいと思っているにもかかわらず、親友のトペル（ジョセフ・ピタンコル）がホモだとわかる。ダデンの近所に暮らすルシンタ（スヌーキー・セルナ）は臓器売買の斡旋をはじめ、隣人たちに説明する。ルシンタの娘のスター（クリスタ・ラニーリオ）は、自らにつけたあだ名のごとく芸能界でスターになるのを夢みて、売れないタレントのトニオ（アレン・ディゾン）とチャンスを探る。トニオは別れた妻のジェニファー（ミシェル・エステヴェス）と幼い娘のプリンセス（クイーン・メエ・マドリガル）の親権を争っている。刑期を終えて出所のロベルト（ジェー・マナロ）は友人のアルド（リチャード・クアン）に迎えられるも、幼い息子のドンドン（アレック・ロマノ）を育てるため、またシンジケートのボス（ルー・ヴェロソ）から殺人の仕事をうける。ロベルトの妻のアンジェラ（アンジェルー・デ・レオン）は熱心な教師だったものの、純粋な教育への理想が学校の幹部やほかの教師たちから理解されず、孤立でノイローゼがこうじて精神病院に入院中。
　との人物配置において、多様なエピソードが語られる。
　携帯電話をほしがるトペルが引ったくりで奪いとり、そのカメラで撮影でビューティを上半身ハダカにする。誕生日のプレゼントにトペルが巨大なクマのぬいぐるみをもらってよろこび、父に贈られたペンダントをビューティがトペルにあげる関係のふたりだが、美容院へみならいにでたビューティがオカマの美容師たちに気に入られ、トペルが嫉妬との流れで、美容院のマッサージ・チェアにオカマがもまれて快感にもだえ、トペルが意地悪で生きたゴキブリを箱につめて送ったため、いかにもオカマっぽく大げさに騒ぐ。アンジェラが困惑の大学の抗議デモでオブラション・ランのごとき、ほぼ全裸の男子学生が走るのをトペルが携帯のカメラでこっそり撮る、なんてオカマを説得力のある描写でカリカチュアしながら、ダデンが息子の口紅をみつけ、久しぶりに口紅をつけようとしてぬぐうのに同性愛の悲しみがにじむ。セクシー女優で売るなら「バストが大きくないとダメよ」と母にいわれたスターが整形外科医（ベンジー・フェリペ）を訪ね、手術代のかわりに処女をあげることでセックスするも、まだ豊胸手術しないうちに医者が姿をくらます。芸能関係らしいポポイ（モン・コンフィアド）の要求でフェラチオやセックスのうえ、妊娠となるが、責任を回避のボボイに腹を殴られて流産。ワイルドボーイズという男性ユニット組むトニオは、メンバーたちと人気がでたら日本へいき、かせぐ希望をもつながら、実際は男娼にすぎず、ゲイの客にアナル・セックスを強制でお尻に挿入される。娘の打算的な処女喪失を「あなたの人生だから」とあきれていたルシンタは周囲に「詐欺だ」と責められたうえ、自らはガンの宣告をうけたり、ドンドンが撃たれ、ロベルトが刺殺など、どれも暗いエピソードばかり。
　それでもロベルトがアンジェラを最高の教師とたたえるやさしさや、スターが夢をあきらめず、娘を奪われたトニオが夢を追うのをやめて母親（デクスター・ドリア）のもとへ帰る母性の強さなど、妙な明るさをかもす。
　ルシンタがいつもタバコを吸っていて、だからガンになるのよ、みたいな思いも起きる。
　各人の話のほどよい散りばめはデニス・Ｃ・エヴァンゲリスタとホヴェン・Ｍ・タンのストーリーによるデニス・Ｃ・エヴァンゲリスタの脚本の功績だろうが、ロミー・ヴィトゥグの撮影もあってか、トニオとスターがロウソクに火を灯す教会や、美容院でビューティがシャツを脱ぐのに客のオカマがときめくのを鏡ごしでワン・フレームにおさめる構図といった、ホヴェン・Ｍ・タンの映像センスもうかがえる。とにかくディジタル作にはありがちな高速度撮影やフレーム落としの小細工的な技法を使わない点が買える。
　反面、単調なリズムのあまさが退屈をまねき、冗長なイメージを与えるのが力量たらずかもしれない。
　役者は相対的にうまいが、セクシー面では不満が残る。クリスタ・ラニーリオは処女喪失のあとでバストを鏡でながめ、ルシンタがあきれるとき、ハダカの背中をみせるも、オッパイが隠れたまま。ポポイとワゴン車の中でセックスになり、パンティーを脱がされるが、ミネラル水の台を手前におくので、やはりハダカのボディーが隠れる。全裸のポポイの身体をふいてあげるベッドでも服を着ている。アンジェルー・デ・レオンは着衣で水浴びをはじめ、ロベルトが異常行動をしっかり愛撫で支えるシーンで、こちらも服のまま。ミシェル・エステヴェスはプリンセスと遊ぶプールでワンピース水着を披露ながら、ほんの短いふたつのショットのみ。クリスタ・ラニーリオの化粧がヘタなのは、一般的にフィリピン女性全体の傾向といえる。
　男のヌードも控え目で、アレン・ディゾンはワイルド・ボーイズのメンバーとともに撮影でパンツ一丁にレイをかけて葬式のセットの前で踊り、海パンで将来を語り合うも、アナル・セックスのあとにお札をお尻のうえに投げられ、涙をながす情感的なシーンの全裸くらいで、ディジタル作品にありがちなチンポの露出はみられない。
　なお、ロベルトがスターと芸能界の事情を話すさいもロベルトはパンツ一丁でスターは着衣だが、ロベルトの部屋にワイルド・ボーイと書かかれた自分のポスターとともに『ＰＲＩＶＡＴＥ　ＰＡＲＴＳ』のポスターが貼られているのは、アレン・ディソンの主演作なので楽屋落ち。ロベルトとスターが出向く芸能会社にはナディーン・シュミット主演の『ＳＩＮＦＵＬ　ＮＩＧＨＴＳ』のポスターがみえるが、こちらもホヴェン・タンの監督作だけに楽屋落ち。両方ともにラジャ・モンテロ主演の『ＬＡＮＧＩＴ　ＭＯ　　ＫＡＬＩＧＡＹＡＨＡＮ　ＫＯ』のポスターがあるのは、これまたアレン・ディゾンの助演作だから、楽屋落ちになる。アレック・ボヴィック主演の『ＴＡＭＰＩＳＡＷ』だけは、とくに理由がないようだ。