ＮＡＳＡＡＮ　ＫＡ　ＭＡＮ
（たとえあなたがどこにいようとも）
　
05年：ＡＢＳ−ＣＢＮフィルム・プロダクションズ／スター・シネマ・プロダクション
監督：チョロ・Ｈ・ラウレル
主演：クローディン・バレート
　　　 ヒルダ・コロネル
　　　 グロリア・ディアス
　　　 ディーテル・オカンポ
　　　 ジェリコ・ロサレス
　三角関係をミステリー・タッチに描くドラマ。
　バギオの山奥にある村を舞台に、老年期に差しかかった姉妹のリリア（グロリア・ディアス）とトリニン（ヒルダ・コロネル）が一緒に住み、三人のリリアの子を育てている。幸福な家庭であったが、実は全員が養子で血のつながりがない。男二名と女一名という構図は、やがて妹にあたるピラル（クローディン・バレート）をめぐって嫉妬が起きる。幼いころに実母（ラヴリー・リヴェロ）から虐待された記憶をもつホヴェン（ジェリコ・ロサレス）は、当時すでにあこがれだったピラルとキスをかわす。それが同じくピラルを慕う、もうひとりの兄イト（ディーテル・オカンポ）の欲望に火をつける。またリリアには乙女の時代（ネリサ・ナイグ）に恋愛を引き裂かれた記憶がひそむ。一家に出入りする盲目の按摩の女性アブリン（イルマ・アドラワン）がいて、やはり視力の弱い助手のリジャ（カテリン・ルナ）はちょうど年ごろの娘。チンポのうずいたホヴェンはリジャとセックスし、それをヴィデオに撮る。ホヴェンとピラルが婚約を決めれば、強引にピラルを犯す。ホヴェンとイトがケンカをはじめ、丸太で殴ってイトがホヴェンを谷へ突き落とす。駆けつけたピラルが今度はイトを突き落とす。ホヴェンがはいあがってきてピラルを抱くが、家ではトリニンが「三人ともを愛していた」と嘆くも、リリアが「イトは特別だった」ととり乱し、ホヴェンがリリアを避ける。ピラルはイトの現われる脅迫観念にかられるようになり、ホヴェンとでかけた先のバス・ターミナルでイトを目撃におびえる。ホヴェンはバスで老人のアウグスト（ダンテ・リヴェロ）と出会い、リリアの過去を示唆される。ピラルがクローゼットで古いアルバムと手紙をみつけ、アウグストがからんだリリアとトリニンの本人たちをも知らなかった事実が明らかになる。
　リジャの歩く谷の下に死体の手がのぞくショットで誰かが亡くなった印象を与えながら、リジャが襲われることでイトの生存を匂わせて謎のイメージを盛りあげる。家が荒らされ、イトとリジャのセックス・ヴィデオが流れていてリリアがショックをうけ、ピラルが「悪霊だ」と狂ったように叫ぶ。はたしてイトは生きているのかとの疑惑を引きつけ、ついにイトが顔をだしてピラルにナイフを突きつけるクライマックスをむかえる。
　ピラルがトリニンの娘と判明したり、リリアの駆け落ち相手のナルド（ジョング・ヒラリオ）を殺害に関与が父のアウグストであったりといった展開はまずまずでも、遺書のごとき手紙に今まで気づかなかった設定には無理を感じる。それにホヴェンが自分の死体発見に立ち会い、石でイトがとどめを入れたショットをはさむ構成はどんなものか。リカルド・リーとラファエル・ヒダルゴの脚本が意外性と衝撃性を狙ったのはわかるが、成功とは評価しがたい。アウグストも霊であり、ホヴェンが自らの死を悟り、ピラルにしかホヴェンはみえていないあたりも、やや疑問を残す。ピラルはバス・ターミナルなど、ずっと単独で旅していたわけで、だとほかにはみえない人物と一方的に話すピラルの態度に対して周囲の反応に違和感があるはずだし、その点をごまかすチョロ・Ｈ・ラウレルの演出が細心さを欠く。ホヴェンの埋葬のあと、となりにアウグストの墓がでてきて寛容の意識がわきあがり、赤ん坊を生んだピラルのもとにリリア、トリニン、アブリン、リジャが集まって、イトは逮捕で、平和な日常をとり戻す。ホヴェンとアウグストが守護霊としてみまもるまで、サスペンス劇としてはそこそこに楽しめたかもしれない。
　とにかくグロリア・ディアスとヒルダ・コロネルがヴェテランらしいうまさで光るも、リリアの性格づけが単調なのはチョロの責任だろう。ヒロインのクローディン・バレートはさして好みじゃないが、カーテンごしのシャワーやホヴェンとの二度の愛撫、ウェディング・ドレスをあてるときのスリップ姿、バス・タブにつかる二度のポーズなどでときめきをくれる。カテリン・ルナはほとんど台詞なしと無表情の演技で存在感を示して注目なうえ、セックス・シーンではオッパイを丸だしの大胆さ。ディーテル・オカンポまで半ケツは女性ファンへのサーヴィスかな。ネリサ・ナイグがチョイ役は残念で、ラヴリー・リヴェロは美人なのに、まったく容貌が確認できないほどのあつかい。基本的にはジェリコ・ロサレス、ディテール、クローディンという三大スター共演が宣伝の売りだったようだが、ジェリコのイモっぽい二枚目ぶりばかりが目立った。
　なおバキオの教会におけるフォーク・ミサやフィエスタのようすが風俗的な興味をかもし、ピラルの妊娠を知ってリリアとトニリンがつかれたごとく祈るあたりに宗教的な要素がただよった。