ＮＡＧＬＡＬＡＹＡＧ
（航海）
　
04年：アンゴラ・フィルムズ
監督：マリオ・Ｊ・デロス・レイエス
主演：ノラ・オーノール
　　　 ユル・セルヴォ
　　　 アレック・ボヴィック
　　　 セリア・ロドリゲス
　　　 チャンダ・ロメロ
　　　 ジャクリン・ホセ
　　　 ペン・メディナ
　　　 ジーノ・アントニオ
　　　 イルマ・アドラワン
　　　 アルベルト・デ・エステバン
　　　 イラス・メルコル
　　　 ボーイ・アブンダ
　階級社会において、年の差の離れた恋愛と高齢出産をあつかう作品。一般的に貧民が暮らすバランガイにユル・セルヴォ演じる修理工の一家が住み、ペン・メディナ演じる父、ジャクリン・ホセ演じる母、メエ・ウイ演じる男にだまされて赤ん坊をつくった妹、ジュリー・アン・トリニダッド演じるまだ幼い妹がいる。タクシー運転手の父が強盗に合って殺され、生計を支えるため、トニー・マナロ演じるタクシー会社のマネージャーに頼んでユルが運転手を引きつぐ。一方ノラ・オーノール演じる有能な判事が、たまたまジーノ・アントニオ演じる専属運転手が急用で休みをとった夜、帰宅にタクシーを呼ぶ。ユルの車がやってきて、激しい嵐の中、故障を起こす。なんとかユルの家の近くまでたどりつき、しかたなくノラが泊めてもらうが、ジャクリンなど家族に好印象を抱く。翌日、料金を「いらない」というユルに、ノラが「なにかあったら連絡してね」と名刺をわたす。メエの子が急病になり、困ったユルがノラに借金を頼む。お礼にとユルが手製の腕輪をもってきて「少しずつ返します」とカネをだすと、ノラが「もういいのよ」と断わる。携帯電話をユルにあげ、さすがに「それはいただけない」と遠慮するのに「連絡がとれないと不便でしょ」という。代わりにユルが庭の花をとって差しだす。ユルのキャラクターに癒しを感じたノラが、押し花にしようと本にはさむ。
　なんて上流層に下層のものがあこがれ、下層の異性を上流のものが手をつける典型的なフィリピン映画におけるフィクションの雰囲気だが、男女逆転の構図がおもしろさをつくる。もう五十歳近い中年女性ノラに対し、半分くらいの年齢のユルが恋するわけである。
　夫を亡くしたノラにとって、仕事で名声が高い反面、イラス・メルコル演じる息子と距離があき、イマイチ空虚な日々。セリア・ロドリゲス演じる母が入院してユルが見舞いにくると、さすがに迷惑がったため、ユルがムッとして帰る。ノラが謝りに現われ、ユルが「愛してる」と抱きつく。ついに親子のような二人が肉体関係を結ぶ。近所でサリサリ・ストアーを営むアレック・ボヴィック演じるユルのガール・フレンドが荒れまくり、ジャクリンがモラルを欠く交際に猛反対でユルが飛びだす。仕事中に倒れたノラに休養をとらせるべく、カルメン・サラフィン演じる叔母の家がある田舎へユルが連れてくる。そこでしばらくすごすうちに、ノラが妊娠する。家族の生活費をかせぐ必要にユルだけ先にマニラへと戻る。
　イルマ・ディマラナンの脚本のもと、マリオ・Ｊ・デロス・レイエスが背景となる環境をたくみにうつしだす。ノラにはチャンダ・ロメロやイルマ・アドラワン演じる友人がいて、チャンダが落ち着きある大人でノラにアドヴァイスを与える。イルマがジムでトレーニング中に「ハンサムなインストラクターがいた」とくだらない電話をかけてくる軽薄な性格で、カネもちの女性にもタイプさまざま。ユルの家でノラが着替えの際に「ゴキブリだ」と驚き、清潔感覚の違いを表わす。ペンがジャクリンにセックスを迫ってジャクリンが「子どもたちに気がつかれる」と嫌がり、両親のイチャイチャを耳にしたユルが笑みを浮かべる住宅事情がどこかおかしい。それにしてもユルがいかにも人のよさそうな笑顔をつくってノラが警戒心もなく信用し、そのままとりこになっていくのがうなずける。配役の妙といえる。貧民街にはアルベルト・デ・エステバン演じるタクシー運転手の仲間がおとなりさんで、アルベルトがオカマなのは、フィリピン社会の特徴をコメディー・タッチで盛りこむ。ユルの田舎で横幅の広い滝の下にコテージがあり、女たちが洗濯しているリゾートへ興味がわき、一体どこだろうと思ったら、エンド・クレジットによればリサール州のロドリゲスのようだ。
　まあ考えてみれば男性が半分の年齢の女性とつき合ってもそれほど問題にならないのに、女性が半分の年齢の男性とつき合えばふしだらだ、たらしこんだといったスキャンダルのネタにしかとられない状況は、あきらかに男女差別と感じるところ。個人的には自分の半分の年齢よりも五つくらい引いたカノジョとつき合っているが、周囲の目はあたたかい。アレックが「体をふいてあげる」とユルの服を脱がせ、ユルが恥ずかしがるシーンからは、水浴びししようとするとそのカノジョがいつも入ってきて「今日はひとりで浴びる」といっても「ダメ」と許さず、真っ裸にされて全身くまなく洗ってくれるのを思いだす。チンポの皮をむき、お尻の穴まできれいに。
　さて意外とマリオの語り口が平凡で中盤に退屈を伴ったのだが、このストーリーにいかなる結末をつけるのかと探っていたら、予想外の方向へと進む。ノラが判決をくだした被告が不満をあらわに「必ず復讐にやってくるから」と叫んでいて、まさか脱獄劇といった低レヴェルな内容じゃないだろうとは予測したものの、ユルのタクシーにペン殺害犯の四人組強盗が乗りこんできたのに、そうなるわけと驚く。身重のノラが葬式場で嘆き、ジャクリンがヒステリックに追いだす。アレックは恨みを超えてノラに親しみを示す。帝王切開で無事にノラが出産し、まわりの反応がひやかしから理解に変わり、息子や母とも打ちとけてユルの落としだねを育てていく決心をする。アレックの訴えに「証拠がなにもない」とノラがあきらめているが、最後まで犯人のつかまらないままがユニークかもしれない。ノラとユルの人生を描くのが核であって、強盗はサブのひとコマ的要素なのだろう。アントニオーニの『情事』で失踪した女性が最後まで発見されないみたいな構成。
　深みはないながら、平均的にできたドラマといえよう。
　もちろんノラは好演で、さすがの貫禄が全体に生きる。ただしユルとのデートでいったビーチでたわむれ、濡れたＴシャツが貼りつくのは、下にブラをつけていても年増にやめてよと感じる。アレックがユルとのセックスでオッパイをもまれるも、乳首が隠れているのはマジで残念。ノラに会うときのヘソだしジーンズもムズムズとそそる。
　なおテレヴィ番組でノラへのインタヴュアーにボーイ・アブンダ、ニュースのキャスターにＪＶ・ヴィリアールが本人役でゲスト出演している。