ＭＹ　ＭＯＮＳＴＥＲ　ＭＯＭ
　
08年：リーガル・エンターテインメント／ＧＭＡフィルムズ
監督：ホセ・ハヴィエール・レイエス
主演：ルッファ・グチェレス
　　　 アナベル・ラマ
　　　 ユージン・ドミンゴ
　　　 ＪＣ・デ・ヴェラ
　　　 マルト・エスクデロ
　　　 バブルス・パライソ
　　　 リチャード・グチェレス
　　　 リーアン・ラモス
　　　 エディー・グチェレス
　アメリカ合衆国育ちの娘がフィリピンに暮らす母に圧倒されるコメディーで、文化の違いを皮肉るでもなく、フィリピンを風刺でもなく、ちょっと半端な印象が残る。
　十六歳のエスメ（リーアン・ラモス）がパーティーで出会ったワルド（リチャード・グチェレス）にひと目ぼれ。子どもを妊娠も、ワルドの浮気で別れ、カインデリャで働きながら女の子を出産。当然、生活は苦しく、アメリカ合衆国へ移住の兄夫婦（ボン・エンブレ、ベン・ジョルダン）の「娘の幸せを考えろ」に負けて、まだ赤ん坊の娘をあずける。二十七年後、養父と養母の夫妻が亡くなり、アメリカ合衆国政府へ提出の書類に実父と実母のサインが必要で、娘のアビー（ルッファ・グチェレス）がフィリピンへやってくる。エスメ（アナベル・ラマ）にはポポイ（ＪＣ・デ・ヴェラ）とピポ（マルト・エスクデロ）の二人の息子がいて、アビーを含め、三人ともが異父兄弟。しかもエスメはワルド（エディー・グチェレス）に会ったことがなく、居所を知らない。との状況で、セブ出身なのでヴィサヤ語を話し、強引な性格の母にアビーが振りまわされる。
　中古のエアコンが壊れていてアビーが暑がり、とてもフィリピンの環境になじめない。ワルドを探して訪ねると、車の中からエスメもこっそりながめる。ワルドがアビーに頭の傷をみせ、エスメに切りつけられたと説明で、アビーがエスメの猛烈さを認識。隣人のルメン（ヴァンジー・ラバラン）宅の木が事故で倒れてエスメの家の庭を壊し、トラブルでエスメがショット・ガンをもちだす。なんて騒ぎにアビーが我慢の限度を越え、ホテルに移る。
　若いころのエスメに甘えるワルドがひざ枕に寝転がり、エスメがうちわであおぐのが、いかにもダメ・フィリピーノっぽくておかしく、エスメの妊娠に叔母（チェリー・マドリガル）がうるさく叱責し、叔父（セス・アルダラ）が小さくなっている。セブから駆けつけた母（マニー・ラプス）もどなりたて、家出のエスメがいよいよ臨月で、他人のはずの大家のおばさん（ドリー・ブンダン）が親切に世話を焼き、どこか女性社会のフィリピンがうかがえる。
　ヴィサヤ語に字幕が入り、多言語国家なのもわかる。
　アビーの到着をエスメと空港で待つオカマの友人（クーリス・アダリア）と女の友人（ユージン・ドミンゴ）の年甲斐もなくハデなかっこうが、なるほど“らしい”タイプなら、マージャン仲間のおばさん（ジョシー・デル・ロサリオ）ともども、エスメにさしたるアドヴァイスを与えるわけでなく、エスメがオカマから安ものの宝石を買っているのがおかしい。近所のルメンたちがアビーをアメリカ合衆国帰りとうわさは、エスメの壊れた庭に白雪姫と小人たちの人形があるのと同様、アメリカ合衆国志向のフィリピンのあらわれ。アビーが自分のことをちゃんと名前で呼ばず、エスメが「ベイビー」というのにキレるあたりは、個人主義のアメリカ合衆国の体質がにじむ。
　またポポイとピポの恋もサブで描かれて、ポポイは近所のモーリン（ミシェル・マドリガル）とつき合うが、エスメとモーリンの母（テシー・ヴィリアラマ）の仲が悪い。ピポはバーに勤める水商売のヴィヴィアン（イワ・モト）を好きでつきまとい、ヴィヴィアンがオーナーともめて店をでたとき、雨が降ってきて濡れたのに部屋へ入れるが、たまたまエスメが帰宅でベッドの下に隠れるも、みつかってヴィヴィアンが追いだされる。
　アビーがアメリカ合衆国で知り合った友人のカレン（バブルス・パライソ）と会い、二人がエスメと弟たちを高級レストランへ招待のエピソードは意外とずっこけないが、エスメがかまえたショット・ガンのドタバタにルメンの夫（サミー・ラグマイ）がアワを吹いて倒れ、病院送りになる。ヴィヴィアンのことをからかわれ、仲間にピポが殴られるや、エスメがピポの仕返しに若い男三人をボコボコにする。なんてエスメの無茶苦茶さを強調のあと、エスメが急患で入院。アメリカ合衆国へ出発を明日に控えたアビーが連絡をうけ、病院を訪ねたうえ、ワルドと和解の機会をつくる。ポポイとモーリン、ピポとヴィヴィアンもハッピー・エンドかと思いきや、三ヵ月後のニューヨーク。エスメがやってきて、アビーが悲鳴をあげるオチ。
　ひねっているようでいて、さほどでもなく、ホセ・ハヴィエール・レイエスらしい、小品ふうのまとまりにおさまったといえる。
　アナベル・ラマは顔にパックを貼り、髪の毛をカールで巻きつける大阪のおばはんみたいに激しいアクで迫るも、カリカチュアがイマイチなのか、さしてあきれる感じまでに到らずの点が弱い。むしろ脇のヴァンジー・ラバランのほうが目立つくらい。ルッファ・グチェレスは二十七歳との設定をどうかと思うが、美人は美人だし、セクシーなシチュエーションがほしかったところ。
　若手の女優陣だとリーアン・ラモスがゲストあつかいで、冒頭のキャラクターを楽しそうに演じ、バブルス・パライソがジムで自転車のエクササイズでジャージーがローライズなため、今にもお尻の割れ目がのぞきそうなのに視線を奪う。アビーとカレンがエスメの入院を聞くのがプールの横にあるホテルのカフェで、うしろに水着の男女がみえて、ルッファとバブルスも水着でなくて残念。ミシェル・マドリガルはシャツに浮かぶバストの谷間にドキドキくらいだが、イワ・モトはミニスカの脚や、黒い光沢生地のボディコン・ワンピースがそそる。とくに後者は切れ目の大胆なシャツの胸元がプラプラと揺れるし、濡れてピポの部屋で着がえで背中のブラ線が色っぽい。Ｔシャツになって、裾から伸びる脚が刺激的なうえ、Ｔシャツのままエスメに追いだされる。ピポが仲間とケンカの際にオロオロのワンピースでもバストがプルンプルンと興奮ながら、いささか容貌が好みをはずれる。若いワルドの浮気相手を演じるのは、かつて全裸の役を披露のカラ・クリステルで、シーツを巻いてベッドの中にいるのみにとどまる。八十年代にヌードが魅力的だったチェリー・マドリガルは、太ったおばさんなのにびっくり。エスメ宅のメイドのプレシーには、ちょっとかわいいチャリス・ソロモンが扮し、やはり誘惑のシーンがないのが惜しい。
　ほかにエスメの従姉妹役でルイ・マナンサラやワルドのメイド役でライ・テフコが出演も、とくに活躍せず、コメディアンのルー・ヴェロソや、オカマの役者のマニー・カスタニェーダにも笑いをとる場を欠いた。