ＭＲ．ＳＵＡＶＥ
ＨＯＹ！　ＨＯＹ！　ＨＯＹ！　ＨＯＹ！　ＨＯＹ！　ＨＯＹ！
（ミスター品格）
　
03年：ＡＢＳ−ＣＢＮフィルム・プロダクションズ
監督：ジョイス・ベルナル
主演：ヴォン・ナヴァロ
　　　 アンジェリカ・ジョーンズ
　　　 ロング・メジア
　　　 イスコ・“ブロッド・ピート”・サルヴァドル
　　　 ヴァル・ソット
　　　 セス・ケサダ
　　　 ジェニー・ミレル
　　　 ケチャップ・ユーセビオ
　　　 ジュッダ・パオロ
　　　 フリウス・エンポイ・マルケス
　　　 ピア・ガニオ
　　　 チューズデー・ヴァルガス
　ヴォン・ナヴァロを一躍トップ・コメディアンに押しあげた大ヒット作。とにかくラテンっぽいヒゲ男のメイクで、これまた典型的なラテンふうの主題歌を「ホイホイホイ、ホイホイホイ」と歌うのが愉快。そういえば現地の友人たちも、しょっちゅう「ホイホイホイ」と口ずさんでいたから、その人気ぶりがうかがえる。
　ヴォン演じるのはマーケットに食料品の店をだす男で、女性を引きつける天性の魅力を持っている設定。店には女性客が次々とやってきて「お釣りはいらないわ」と買い物していく。口もとやヒゲのワザとらしい動きが、ラテンの色男をカリカチュアする。でも実はキスで唇が触れる瞬間に全身がコチコチに凍りつく病気を持ち、ロング・メジア演じる医者に相談するも、なかなか直らない。心配した友人たちがアンジェリカ・ジョーンズ演じるプロの女にヴォンの誘惑を依頼し、はたして無事にキスできるかというストーリー。仕事だったはずのアンジェリカが本気でほれ、愛をこう展開だから、ありきたりといえば、ありきたり。
　でも細部におかしな要素をかなり含む。ヴォンのモテない友人たちのうち、ブロッド・ピート演じる中国人がいかにもマンガっぽく、中国趣味をおちょくりまくる。アンジェリカが日本で働く夢をみていて、オーディションでずっこける。いつまでもヴォンにちゃんとした恋人ができないので両親がオカマじゃないかと心配し、ちょうど誕生日のパーティーへアンジェリカを連れてきて「ガール・フレンドだ」と紹介したから、両親が集まった出席者たちと一緒に「息子はオカマじゃなかった」と歓喜の行進をする。とくに両親たちの行進は、どことなく初老の男が童貞を失ったと思いこみ、村じゅうが「ついに男になったぞ」とパレードする『ボッカチオ’70』におけるヴィットリオ・デ・シーカのエピソードを連想させ、ホント、ラテンだなあと納得。
　アクの強いギャグが多いのもパワーといえる。チューズデー・ヴァルガス演じるヴォンのデートの相手が盲目で、知らない人の顔を手でベタベタさわったり、ガッチャーンとそこらじゅうにぶつかり、ケガや骨折をしているのがスゴイ。ピア・ガニオ演じる女性とデートする下準備で、ヴォンがピアの家の犬、ヤヤ、ガキ、母を、骨、ヤギ料理、フィギュア・トイ、ワイン料理などで釣って成功し、同じ手を使おうとしてブロッドたちが失敗する中で、一人がアフリカふうの黒人女性に骨をあげていて、人種差別をモロともしないあたりに圧倒される。
　ヴォンやブロッドたちが平手打ちの挨拶をしたり、ヴァル・ソットとセス・ケサダ演じる両親がボクシングみたいにいつも殴り合っていたり、アンジェリカと出会うきっかけに仲間たちが暴漢にアンジェリカが襲われる芝居を設定し、助けたヴォンがアンジェリカにまで強烈パンチをくらわせたり、アンジェリカの手に火がついてメラメラ炎をあげたり、いったん別れたあとのバスに乗るヴォンを追ってアンジェリカが駆けるとき、道路に転んでリアルに血をだしたり、ジョイス・ベルナルが暴力的な表現で笑いをとろうとしている部分は相当にマイナス点。『ＳＵＰＥＲ　Ｂ』における過剰ヴァイオレンスの導入をまったく反省していないわけで、ジョイスの本質かと考えると、いささか寒くなる。アンジェリカの失恋による落ちこんだ心理を車の横転や爆発で暗示するのも、余計な挿入をと著しく理解できない。
　確かに不快なダメさが目立つのは事実だが、ジェニー・ミレル演じる友人からアンジェリカが「日本へ行けなくなった」と泣きながらの連絡を受け、落ちこむのをヴォンがやさしくなぐさめるなど、ジーンとくるあたたかさをジャマにならない程度に盛りこむのがプラス。パーティーでノーテンキにダンスするうちにアンジェリカが元気を取り戻すなど、やっぱりラテンねと妙に説得力を帯びる。セスがアンジェリカに「処女なの？」と聞いてアンジェリカが困っていたり、ヴォンがアンジェリカへ「童貞なんだ」と告白するのがクスクスを呼ぶこともあって、そこそこのできじゃないか。
　アンジェリカがびっくりするほど魅力的なのも、嬉しい評価のポイントになっている。まずヴォンの気を引こうとジョギング中に接近し、水をかけられるシーンのヘソだし赤ミニスカにおける、ブラからのぞく胸の谷間が素晴らしい。ヴォンとのデートや家族パーティーの間はずっと背中のパカッとあいた黒いドレスで、ほとんどお尻の割れ目が顔をだす寸前までローライズなのが視線を奪う。今にも割れ目がチョロッと浮かぶんじゃないかと期待して、ずっと全神経が釘づけになるほど。この衣装で前かがみになるポーズでのバストのチラチラにもドキドキ。中国語のメッセージを書くときのジーンズにクイッと食いこむヒップの形がキュートなこともわかり、歌を披露するサーヴィスもあって、アンジェリカに完全悩殺を告白したい。欲をいえばヴォンとの初夜で、屈伸運動するヴォンに「早くしましょうよ」と迫るラストでの黒い下着が、いささか厚めの素材すぎるかな。
　セクシー・スターで売っているジェニーは胸元の大胆なファッションやキツキツのタンク・トップとホット・パンツで下半身を刺激してくれるも、顔が好みじゃなくて興奮しきれないのが惜しい。
　スポーツ・ウーマンとして人気上昇中のピアは、その健康美が生かされないまま。
　アンジェリカばかりがフェロモンを放つのだが、冒頭でヴォンが歌うバックで踊る黒いブラとジーンズの短パンのダンサーたちや、ヴォンの店へくる中国系を含む四人の客、バーでヴォンがナンパする二人の女性、ヴォンがタクシーへ荷物を運んであげるレディー、ブロッドがアタックする中国の屋台娘など、みんなかわいて、全員の女優名を知りたくなる。とくに妊娠している客と黒パンの客は特級の美女だから、有名人のカメオ出演かもとの推測が起きる。アンジェリカに財布を盗まれたヴォンの伯父を演じるサミー・ラグマイ、ヴォンの祖父母役を演じる小人のコメディアン、ダグルと子役のコメディエンヌ、マハルや、ウェイター役で顔をだすボビー・アンドルーズなど、クレジットに表記があるから明らかなものの、ヴォンの親戚の中にはマリッサ・デルガドの姿がみえて、配役表に欠落しているから、ほかにもカメオがいるんじゃないかとうかがわせる。
　なお、ヴォンの一族はジョイ・ヴィアド、ウィニー・コルデロ、デブラリス、カロイ・アルデといったアクの強いメンバーが演じているのに、あまり活躍の場がなく、ぜい沢な使いかただった。