（茶髪の男）
07年：グルーポン・シネハン／シネハン・ディジタルス・プロダクション
監督：クリサルド・パブロ
主演：イネス・ヴェネラション
レイ・アン・ドゥライ
マーク・ディオニショ
ロイ・カストリーリオン
ＪＶ・ロハス
クリス・パブロ
アルラン・デグリアション
アンドロ・モルガン
マイルス・サントス
ネスティー・ジェイアール・オルティス
ロデル・ダプラグ
クリサルド・パブロのディジタル作品で、彼らしいホモをあつかう内容。とにかく男のハダカのオン・パレードにゲーッなのだが、以前の『ＢＩＬＯＧ』などに比べれば格段に演出がうまくなっている。またティボリ族をモティーフにとるのが興味を引く。
監督自らが演じるヴィデオ・ジャーナリストのクリスが主人公。南コタバト州のティボリとセブ湖周辺に住むティボリ族の取材にやってきて、ダトゥと呼ばれる有力者が第一夫人と第二夫人の妻をふたりめとり、さらに村の処女を提出させる前近代的な風習を記録する。母のマリア（ミルナ・Ｍ・レガル）からダトゥのところへいくように命じられたンガポン（ローズ・アン・マギンディン）はこれを嫌い、クリスへ「マニラに連れていってほしい」と頼み、クリスがフェリー代をあげる。それで妹のンガモン（レーチェル・アン・マルンダル）が代わりに差しだされ、ンガモンが入水自殺する。ほとんど人権無視のごとき制度をながめつつ、クリスが自分の私生活に重ねる内容。
デンヴァー（レイ・アン・ドゥライ）という若い同性の愛人がいながら、ほかにもちょっかいをだし、デンヴァーもジェッセ（ＪＶ・ロハス）と寝たりで、あげくはホモ乱交におよび、殺意を抱いたバースディー・パーティーの出来事を思い浮かべる。この対象への観察を自分にダブらせる発想が日本にも通じ、ちょっと納得がおきる。かつて松本清張の小説を映画化した野村芳太郎の『張込み』では、じっと張りこみで犯人からの連絡を待つ女性を見張る刑事が自分の恋愛に合わせ、人生を考えた。邦題が同じアメリカ合衆国の映画でジョン・バダムの『張り込み』だと、女性を見張る刑事が勝手に恋し、ずけずけと立ち入って結婚にいたるのと大違い。エド・マクベインの『クレアが死んでいる』の映画化でも、大胆に脚色をくわえた市川崑の『幸福』は夫婦愛の話を根底から変え、やはり事件捜査の過程で刑事が自分の家庭をふり返り、妻の家出の原因を察した。いわば外的な要因を媒介に、なぜそうなったのかを反省できるのが日本人であり、アメリカ合衆国人がごう慢なのは、まさに相手を思いやらず、反省しないからにほかならない。本作のようなテーマをみれば、フィリピン人にも反省の概念があるとわかって安堵する。
それにしてもホモのシーンが多いのには抵抗をおぼえる。クリスとデンヴァーや、その周辺のみならず、ティボリ族の暮らす南コタバトへきてからもクリスはンガポンの恋人のようだったティボリ族の若者のモレノ（ロイ・カストリーリオン）とできるし、クリスの助手のアルラン（アルラン・デグリアション）は現地でＮＧＯ活動する女性のマウエン（イネス・ヴェネラション）の助手であるティボリ族のＲＭ（ロデル・ダプラグ）と性愛をかわす。山の中の池へ男たちが全裸で入るのをアルランがのぞけば、ＲＭは一緒に男たちと全裸で池に入り、松明の火をいくつも立てた幻想的な雰囲気でアルランも全裸で池に入る。ディジタルのホモ作品にはめずらしく、デンヴァーやジェッセなどが全裸で抱き合い、座位でホモ・セックスや、夜に全裸でデンヴァーが立位で愛撫したり、乱交パーティーでボカシが加えられるも、クリスと寝ていたモレノがンガモンの水死の知らせに驚いておきるときと、クリスにアルランがキスするパーティーでの男たちのチンポがみえる。結局、クリスとアルランにわだかまりがあったのがわかるラストまで、男ばかりがハダカになり、ホモ・セックスを撮影し、デンヴァーが「はじめて女を抱く」のを撮る際の女を演じるマーラン・オリキノがワザとだろうが、あまりにブスなうえ、それでも脱がず、ホモじゃないものにはオヨヨ。海でクリスが海パンのデンヴァーにヴィデオ・カメラを向け、デンヴァーが『ベニスに死す』のタジュウのようなポーズをとるのは意味深かな。
マウエンがいつも携帯で通話していてふられ、恋に悩む設定をサブで描くも、演じるイネス・ヴェネラションが若いころ以上に美貌がまさり、色気も相当ながら、まったく脱がなくて残念。実はイネスのヌードが最大の期待だっただけに、この面での失望はかなりになる。ンガモン役のレーチェル・アン・マルンダルがかわいいも、入水で衣装がスケないまま。
ミンダナオへの往復がスーパー・フェリーなのにはじまり、ティボリの山中やセブ湖の風景、セリフに字幕の入るティボリ族の生活ぶりは民俗学的、社会学的なおもしろさに満ちる。ダトゥとふたりの妻や、ＮＧＯの事務所で作業する女性たち、クリスの取材に応じる女性は、おそらく本物のダトゥであり、ティボリ族だろう。ビーズの選定に、それをつないだ紐を腕に結ぶ風習が好奇心を引きつけ、アイシャが担当したティボリ族の伝統音楽が関心をそそる。クリサルドの演出の特徴ともいえる低速度撮影とコマ飛ばしの技法もさほど気にならない。
自分の女性問題を重ねて、イネスなどの女優のヌードがふんだんにでてくれば、それなりに高い評価を与えたように思える。
