99年：ＡＴＢ−４フィルムズ・インターナショナル
監督：フランシス・“ジュン”・ポサダ
主演：アヤ・メデル
マリア・イザベル・ロペス
レイ・“ＰＪ”・アベリアーナ
アレン・ディゾン
ピア・パウラ
ジョニー・ヴィカール
ジェシー・デルガド
ニック・アラディン
トニー・ベルナル
アイラ・ルナ
ライラ・ロレナ
開巻、タイトル・バックでバナウエのライス・テラスが映しだされ、イフガオ族のおじいちゃんとおばあちゃんが民族楽器を演奏している。『ロンリー・プラネット』フィリピン編第５刷の表紙でもおなじみの、のどかながらも好奇心を刺激させられる光景である。でも本作の内容は、決して静寂に包まれた人間味あふれるものではない。憎悪に満ちた血みどろの復讐劇である。みていて『ネバダ・スミス』の女性版、または『黒衣の花嫁』の執念のようなものを連想してしまったが、残念ながらこれらの作品のレヴェルにまででき栄えは及んでいない。けれどもアヤ・メデルの魅力もあって、セクシー犯罪ドラマとして見ごたえのあるものには仕上がっている。
物語はイフガオ族の子どもたちが山の中で平和に暮らしているシーンから始まり、その中の一人の女の子イダが、捕まえた鳥を逃してあげるようなやさしい心の持ち主であることが強調される。すぐにこの山にも開発の波が押し寄せてきて、金もうけを企んだ男たちによって村が襲われる。このとき男たちは泣き叫ぶイダに無理やりナイフを握らせると、彼女の母親につき刺して、殺させてしまう。まったく同情の余地のない残忍な男どもという表現がぴったりで、だからこの作品には悪役の中から後悔して改心する者が現れるという甘さや、主人公が人殺しという手段による復讐に虚しさを感じるといったヒューマニズムはまったく入りこんでこないことになる。
イダは裁判で有罪となって保護観察所へ送られ、そこで鬼と化して身体を鍛えながら成長してゆく。ここからお待ちかねアヤの登場である。やがて偶然が彼女を自由にすることになる。
彼女を乗せた護送車が、ライラ・ロレナ演じる女性のヒッチ・ハイカーを同乗させる。ちょっと日本じゃ考えられないシチュエーションだが、ここはフィリピンだから、さもありなん。でも今度はあろうことか、護送警官の一人とセックスを始める。その光景を運転手がバック・ミラーでのぞこうとしたために事故となり、アヤ一人が助かる。いくらフィリピンでも、それはないでしょと思うのだが、まあいいか…
故郷に帰ったアヤが、大きな工場ができて煙突からモクモク煙が立ちのぼる光景をみてポロポロ涙を流すシーンは、けっこう共感を呼ぶ。このアヤ扮する人物にすんなりと感情移入できる構成になっていることが、あとの展開に相当なプラスとなる。フランシス・“ジュン”・ポサダ監督の成功点であるといえよう。
成長したアヤは幼なじみと再会するのだが、自分はイダではなくモラタだと名のる。幼なじみの一人ジェフはアレン・ディゾン演じる警察官になっていて、実は初恋のイダにあこがれを抱いているのだが、モラタが起こしていく殺人を捜査しながら、いつモラタとイダが同一人物であると気がつくかというサスペンスも生じてくる。
アヤ演じるモラタは女性の武器を最大限に活用して、自分に罪をなすりつけた悪党どもを誘惑して殺すことになる。一人、二人、三人目のところで発見され、以下物語は残り全員との集団対決になって終わってしまう。この安易さというか、面倒くさくなったのかと感じさせるあたりが、比べるのは失礼かもしれないが、一人一人を執念で最後まで追いつめてゆく『黒衣の花嫁』とでは、明らかに見劣りするといわざるをえない。個別の三人の殺人にしても、アヤがオッパイをだしての奮闘にもかからず、演出がヘタなせいか、エロティックさと臨場感あふれるスリルがでてこない。まったくもって残念な結果である。悪党以外にも物語に余計となる人物や、ドラマを盛りあげる必要性から幼なじみを殺してしまう展開にも首をかしげざるをえないし、事件の責任はだれが取るのといった感じのハッピー・エンドもしらじらしい。
もっともその他のシーンにおいてアヤの魅力は十分に爆発している。護送車から逃走に成功したあと、白のピッチリとしたパンツ・ルックで闊歩してきて、まずは生唾ゴックンもののプロポーションを披露してくれる。さらにはほぼ全裸に近い姿で岩の上に立つと、槍と楯を手に雄たけびをあげるシーンで、そのみごとなお椀型のオッパイのド迫力も手伝って、存在感で画面を圧倒してくる。いかにも野生児といった雰囲気が、彼女の個性を二倍に引き立たせている。殺人を犯したあとに滝へ行くと、衣服を流して全裸になり、水しぶきに打たれて陰毛までみせながら雄たけびをあげるシーンでも、観客の目を釘づけにしてしまう。
彼女に比べるとセクシー・スターのピア・パウラは、レイプさせそうになるシーンでキュートなオッパイをみせてくれるが、アヤの前でかすんでしまっている。ジェフの恋人役となるアイラ・ルナは、シャワー・シーンやベッド・シーンで惜しげもなく裸を披露してくれるものの、容姿もプロポーションもイマイチで、刺身のつま的存在でしかない。
中でもジェフのイメージとして描かれる、アヤとアレンのセックス・シーンは出色である。山の頂きにある岩の上で全裸の二人が激しく愛し合う。周囲に大自然を見下ろしながらの、アレンに馬乗りになったアヤが快楽を満喫するがごとく腰をくねらせる意味深な動きが濃厚なエロスを醸しだしている。画面の中に手をのばして、そのボディーにさわりたくなるほど。
この作品はアヤの代表作だろう。
