ＭＩＳＳ　ＹＯＵ　ＬＩＫＥ　ＣＲＡＺＹ
　
10年：ＡＢＳ−ＣＢＮフィルム・プロダクションズ／スター・シネマ・プロダクション
監督：カティー・ガルシア・モリナ
主演：ジョン・ロイド・クルース
　　　 ベア・アロンソ
　　　 マリカル・レイエス
　　　 ベンボル・ロコ
　　　 ハンス・イサアク
　　　 ティルソ・クルース・３世
　　　 ノエル・トリニダッド
　ジョン・ロイド・クルースとベア・アロンソの顔あわせによるロマンスで、いわゆるスター企画の凡庸な商業映画。
　前半をマニラ、後半をクアラルンプールに舞台をおく。
　パシグ川の水上バスで偶然に知りあったアラン（ジョン・ロイド）とミア（ベア）が親交を深めるうち、お互いに愛情をうむ。婚約者のダフネ（マリカル・レイエス）のファミリーとアランがつきあい、ダフネの父（ティルソ・クルース・３世）のバースデー・パーティーやクリスマス・パーティーに出席で、裕福な環境がうかがえる。一方のミアは父のエフレン（ベンボル・ロコ）が病気で寝たきりに、母（シルヴィア・サンチェス）と二人の弟と二人の妹をやしなう大家族。またもありがちな身分違いの恋愛劇かと感じたが、決してアランが上流でない点が異なっていた。ダフネが社長の娘のため、能力よりも出世が早いと先輩（ジュスティン・クマガン）の妬みをかっている。両親を失い、近所に住む風船屋のテミ（ジュン・ウルバノ）が父親っぽい存在ながら、修繕中の家はさほど立派といえない。カティー・ガルシア・モリナの演出はアランの静かな環境とベアのうるさい環境の対比をつくるも、これはありきたりな構図をなす。
　ダフネの愛が負担のアランがテミのアドヴァイスを聞いて、ついに別れを切りだすまでが前半。
　マレーシアで海外就労を経験のミアが家族を支える目的で再びクアラルンプールへいき、ダフネの従兄妹のニック（ライアン・アイゲンマン）と一緒にアランがミアを探しに追ってくる。ミアは幼い女の子のアスリナをもつ中流のマレーシア人のミル（ハンス・イサアク）と交際で、プロポーズをうける。アランの愛の告白にミアがとまどい、ミルは自分のほうがミアを幸福にできるという。ミアがミルに別れを切りだすも、ミルの一途なアプローチに婚約を承諾が後半。
　ホテルで働く仲間のリアン（イナ・フェレオ）とジョナ（ケチャップ・ユーセビオ）とミアが同じ部屋に暮らし、ジョナがオカマでコメディー要素をくわえる。マレーシア人との結婚となれば宗教の問題を避けて通れないはずで、リアンとジョナがミアに「もうすぐ食べられなくなるから」とチッチャロンをわたすあたりに豚肉のタブーをにおわせ、ハンスの祖父（タン・スリ・ジンス・シャムスディン）に「彼女がいかにイスラムの教えを理解するかが重要だ」の台詞を含むも、かなり表面的。ミアの妹のアネット（ダイアン・メディナ）がアメリカ合衆国へ働きにでるらしい状況や、テミが海外就労中の妻のクリスティー（マルー・デ・グスマン）とインターネットのＴＶ電話で誕生日をアランと祝うなど、出稼ぎ社会のフィリピンを盛りこむが、こちらも表面的。
　待つことの愛を主題におき、アネットが「私は姉さんにみたいに犠牲はイヤだ」と母の説得を押しきって恋人と渡航前に結婚を主張や、ダフネの弟のＪＭ（フアン・ミゲル・デ・グスマン）が若さの勢いで結婚を望むのに母（マリテス・ホアキン）が反対と、いわゆる待つことのできない軽はずみな結婚を脇に散りばめるも、やはり表面的。
　ミアが知りあいの老人のユリ（ノエル・トリニダッド）とパコ公園でアランといるときにたまたま遭遇し、ユリが五年後の愛の成就を予言っぽくいう。実際に五年後にミアがパコ公園でアランと再会のラストで、それにいたるまでのクアラルンプールとマニラのカット・バックがシラけ、ハッピー・エンドにあきれる語り口の弱さ。待つことの賛美が全然に近く伝わらずの浅いドラマに終わる。
　二人を同時に愛する理不尽さを問うわけでもない。
　カティー・ガルシア・モリナはアランとダフネの室内シーンで部屋の壁を真ん中にすえる構図や、アランとミアがクリスマス用のショッピングでうろつくディヴィソリアの雰囲気、騒がしい中でミアの弟がギターを弾いている庶民の家庭像、従兄妹のダフネと別れてもアランとウマのあうニックのキャラクターづけなどに評価のポイントがあるも、細部のパーツにとどまる。
　そもそもカレッサが道をふさぐ渋滞で停止のアランが運転の車の横にミアの乗るジプニーがとまる程度はよいにしろ、ミアがレストランでダフネの忘れものをわたしたり、クアラルンプールの公園でミアが落書きの石をアランがみつけたりと作劇に偶然が多すぎる。ユリがアランの親友であるスティーヴン（シド・ルセロ）の祖父と判明の会話もワザとらしい。ミアが気持ちを石に落書きの習慣や、適当な名前を呼ぶクセ、小道具に風船を活用などのアイディアをかうながら、ヴァネッサ・Ｒ・ヴァルデスのストーリーによるヴァネッサ・Ｒ・ヴァルデス、テイ・クラモル、フアン・ミゲル・セヴィーリアの脚本が低レヴェル。
　個人的にはベア・アロンソの魅力不足がとくに不満といえる。美人でもタイプをはずれるし、前半のゆるいジーンズにうかがう腰まわりの太さが幻滅っぽい。さすがに後半の下半身にピッタリのジーンズは歩くときにお尻が動き、ちょっと性欲をそそるも、アランとのベッドはお約束で肝心の露出なしにすませる。
　マリカル・レイエスのほうが好みで、腹八分目ほどのうっとり度の美人。ヒップラインの際だつジーンズが視線を奪う。
　美人までいかないけど、イナ・フェレオは少し気になる容貌だし、ダイアン・メディナにアップを欠いて残念。ミアの下の妹にあたるカレン役のエリザベト・ジェーン・オイネサはまだ子供かな。ニックの妹役のアイリン・コントレラスは顔がよくわからないまま。アスリナの五年前と五年後を演じるサベリア・ブテ・ムスタファ・カマルとサルサビル・ブテ・ムスタファ・カミルは姉妹だろうが、姓の表記の違いはフィリピン映画のタイトルに目だつケアレス・ミスと思われる。
　いずれにしてもベアの主演作に期待を抱いたぶん、あんた、ヒマねって感じ。
　サポートの演技陣では寝ているだけのベンボル・ロコのうまさが光る。表情をまったく変えず、ただじっと仰向けのみなのに内面の心理が浮かび、これがヴェテランの年輪と指摘できる。