（キミの奥さん、ボクの奥さん）
88年：ＶＩＶＡフィルムズ
監督：カルロス・シギオン・レイナ
主演：ディーナ・ボネヴィー
エドゥ・マンザノ
ジャッキー・ルー・ブランコ
リッキー・ダヴァオ
ジャクリン・ホセ
アリ・ソット
レス・コルテス
心ならずもスワッピングになる二組のカップルを描くドラマ。カルロス・シギオン・レイナがコメディー・タッチに大人の恋愛模様を繰り広げる。
エドゥ・マンザノ演じるのがＴＶのプロデューサーで、ディーナ・ボネヴィー演じる妻が脚本家。リッキー・ダヴァオ演じるのがエドゥの助手で、ジャッキー・ルー・ブランコ演じる妻が歯医者。子どもをほしがっているエドゥは、自らが名づけ親になっているリッキーとジャッキーの子をうらやましく思うも、仕事優先のディーナはコンドームの着用をしいる。たまたまエドゥは不満から、ジャクリン・ホセ演じる会社に雇った女性と浮気する。リッキーはディーナにときめきをおぼえ、セックス欲にムズムズ。リッキーのアプローチをうざったく感じていたディーナだが、エドゥの浮気を知ってあてつけてで寝る。ディーナとリッキーの情事をかぎつけたジャッキーがエドゥに相談し、こちらもなりゆきで肉体関係を結ぶ。
アメリカ映画にちょくちょくあるどうってことない素材ながら、ビベット・オルテサのシナリオをえて、カルロスがたくみに語る。ぬかるみに転んだディーナに浴室を貸して偶然、リッキーが脚をふくディーナのスリップ姿をのぞくのがきっかけ。シャツのボタンがはずれているディーナの胸元や、タイト・スカートから伸びる脚に魅了されていく。リッキーがデパートでセクシーなスリップを買ってジャッキーに着せ、患者としてきたディーナの歯を治療中、シャツのボタンがはずれて同じスリップなのに気がつく。エドゥの浮気現場をみたディーナに、アリ・ソット演じる友人が「スキャンダルになる」と離婚を抑えさせる。リッキーがディーナを狙っているとアリが勘づき、ドラマの打ち合わせでディーナとリッキーが食事し、リッキーが料理をズボンにこぼしたのでディーナがあわててふいてあげ、股間をさわってしまう。リッキーがトイレへ駆けこんで歯磨きすると、ディーナの横にすわって肩に腕をまわそうとのもじもじ動き、これをたくみにかわしていたディーナだが、ちょうどエドゥから電話がかかってきたのが引き金になって、受話器の近くでリッキーにキス。会社でジャッキーと話すリッキーにエドゥが「私用電話するな」と怒り、ジャッキーから不倫疑惑を聞いて妻はリッキーの「タイプじゃない」というも、洗濯ものの中にブリーフをみつけ、汚そうにハンガーでつまみあげてディーナに「誰のだ」とたずねる。あっさりディーナがリッキーのだと答え、エドゥが平静をよそおい、ディーナが嫉妬しないのを悔しがる。ディーナがリッキーをしめだしてジャッキーにブリーフをレジ袋に入れてわたすと、ジャッキーがブリーフを破ってリッキーに投げつける。完全にスワッピングがバレた二組は、エドゥの提案でさびれたリゾートに滞在することにし、崖の道を通って民宿に泊まる。夜にエドゥがディーナを犯すようにセックスを迫り、拒んでいたディーナの叫び声がうめき声に変わって、となりで抱き合うシルエットがみえるのにリッキーが「俺たちも」とせかしたら、ジャッキーが外へ逃げだして崖からすべり落ちる。病院へ運ぶ車の中、うなされたジャッキーがエドゥに「あなたの子ができてたかも」と口にしたので、ディーナとリッキーが驚く。脚を折ったジャッキーの病室でディーナが「あなたの妻でしょ」という。ディーナが妊娠し、アリの「誰の子」の問いに対して「夫のに決まってるわ」と答える。ディーナはエドゥへの愛にはっきり気がついている。エドゥも「誰の子だ」と聞くが、「あなたの子よ」とディーナが断言する。リッキーがパンツをはきかえようとタンスの引きだしを開けると、いつかの破れたブリーフが洗ってある。リッキーが会社を辞め、握手を求めたエドゥの手をとらずに去っていく。部下のアリへエドゥが、リッキーの退職金をジャッキーにわたすように頼む。
なんてシチュエーションの積み重ねと小道具の活用によって、ウィットに富んだ構成を目指している。しょせんはフィリピン社会の現実では少数派にあたる上流に近い層のイチャイチャ劇で、だからなんなの的な傾向は秘めながらも、ちゃんとしょうもない連中との暗示を含む。ディーナがベッドでタバコを吸い、それじゃ出産を控えたほうがいいよと教えたくなる。ジャッキーの診察室で禁煙の貼り紙がある前でアリがタバコに火をつけ、ジャッキーがあきれ顔をつくる。さすがに二回目は「禁煙よ」と注意するが、気にせずアリが吸い続ける。エドゥがパーティーを開くと、外見ばかり気どる連中が集まって、お世辞が飛びかう。これだからディーナが「みんな自分のことしか考えてない」と嘆きにいたる台詞が効くともいえる。
またエドゥがジムでエクササイズに励んだり、ディーナとアリがポロ・クラブへいくのはカネもち趣味の現われ。お互いに家政婦を雇うも、ディーナがまったく家事をせず、ジャッキーが料理や洗濯でテンテコ舞いとの家庭の違いは、まあまあ雰囲気がでている。脇の人物がけっこうおかしく、レス・コルテス演じるドラマの監督がオカマで、ディーナとスクリプトの内容でもめてオネエ言葉でケンカし、台本を投げ捨てる。これにリッキーが怒って殴り合いを始め、リッキーのほうが倒される。ジョイ・オルテガ演じる歯医者の患者が「痛い、痛い」と大騒ぎする。とくにジャクリンは出色のキャラクターといえ、編集室でドラマのＶＴＲをかけながら自分も同じ芝居をまねる。ちなみにＶＴＲの中の主役女優役でテス・ドゥンピットが出演している。このひたむきさにエドゥが共感して愛撫になり、女優志願ならと役を与える。ジャクリンに「子どもがほしい」といったエドゥだが、ディーナとよりが戻ったらしかとは納得の展開。
結局、子どもができて円満のディーナとエドゥがはからずも公園でジャッキーとリッキーと再会になるラストがあきりたりなエピローグと感じたが、リッキーにしこりが残っていて、不機嫌顔に歩いていくのがユニークなしめに思える。ライアン・カヤブヤブの音楽がフィリピン映画にはめずらしくヨーロッパふうの調べに響くこともプラスし、そこそこのできかもしれない。
ディーナとジャッキーは何度もスリップの下着姿を披露のうえ、ディーナはバス・タオルを巻いたボディーをうしろからめくってみせたり、オッパイがでそうにセックスしたり、シャワーを浴びたりでドキドキをくれる。ジャッキーもシーツをボディーに巻くセックスがあって、ともに肝心のパーツはみえないも、美人だけに興奮を呼ぶ。ジャクリンは容貌で落ちるが、編集室でエドゥと全裸で座っているポーズがドキッとさせる。
大胆なモロだしがなくても女優陣の輝いている点が評価をあげる。
ところでエドゥとジャッキーが寝る窓がパノラマになったホテルは、すごく泊まってみたい感じだが、どこなのだろう。
なおエドゥが『卒業』をみているのは、中年女性が若い男を誘惑するストーリーじゃなし、もっと本筋にダブるほかの作品を選んでほしかった。
※ この作品は『君の妻・僕の妻』の題名で“フィリピン映画祭1991”にて上映された。
