ＭＩＮＳＡＮ，　ＭＩＮＡＨＡＬ　ＫＩＴＡ
（一度、愛し合った）
　
00年：スター・シネマ
監督：オリヴィア・Ｍ・ラマサン
主演：シャーロン・コネータ
　　　 リチャード・ゴメス
　　　 エドゥ・マンザノ
　　　 カルミナ・ヴィリアロエル
　　　 エンジェル・アキノ
　　　 シアラ・ソット
　　　 ローズマリー・ヒル
　　　 サンドラ・ゴメス
　　　 クリスティン・ヘルモサ
　　　 マーヴィン・アグスティン
　オリヴィア・Ｍ・ラマサンが異性同士の機微を丹念に描く不倫劇。
　マーヴィン・アグスティンとクリスティン・ヘルモサ演じる若い男女が空港で会い、自分たちの親の回想を語る。
　アキノ大統領が就任演説した八十六年、シャーロン・コネータ演じる内気な女性が、カルミナ・ヴィリアロエル演じる妹が勝手に申しこんだブラインド・デートにいきたくないとごねている。待ち合わせ場所でたまたま同じ名前のリチャード・ゴメス演じる男性がいたため、勘違いして恥をかく。十年以上がたち、息子のサッカーの試合で偶然、シャーロンがリチャードと再会する。うっかり仕事の打ち合わせでリチャードを待っているグループをシャーロンが間違え、また恥をかくが、名刺をわたしたリチャードが連絡してくる。カルミナと人材派遣のセミナーを主催するシャーロンは、建設会社の幹部のリチャードが会場にきていて、懇親会でダンスする。リチャードがついに気持ちを告白し、シャーロンが「私には夫がいる」と逃げるも、ほどなくして肉体関係を結ぶ。
　エドゥ・マンザノ演じるパイロットの夫が小うるさく、シャーロンが嫌味をおぼえているうえ、サンドラ・ゴメス演じるスチュワーデスとできているらしい事実を知る。エンジェル・アキノ演じる妻がヒステリー体質で、妻の財産によって豪邸に住んでいるリチャードが精神的に満たされていない、といった双方の家庭の事情がでてくる。アマ・キアンバオ演じる伯母の夫が亡くなり、三十八年間を一緒に暮らして呆然状態に陥っているのをみて、シャーロンが夫婦とは何かをふと考える。などの不倫へ走る背景が盛りこまれる。
　シャーロンとリチャードの密通をカルミナだけが応援していたのだが、シアラ・ソット演じる下の妹に逢い引き現場をみつかり、ローズマリー・ヒル演じるシャーロンの母に伝わって非難をうける。リチャードはエンジェルに自ら告白し、エンジェルが「でていけ」と追いだすが、本当にでていこうとすると「いかないで」とすがりつく。リチャードがシャーロンに一緒になれないと告げる。
　とにかくセックスするまではリチャードのほうが積極的で、深い仲になってみれば、シャーロンの愛をリチャードがやや重荷に感じ始めるのが、いかにも男女のかけひき。リッキー・リーとオリヴィアの共同脚本が、よく双方の性からの心理をまとめている。ボンゴイ・マナハン演じる父に相談してリチャードがすべてを失うのを覚悟でアメリカいきを決める。エンジェルがエドゥに会って事実を話し、エドゥがシャーロンを問いつめる。浮気を認めたシャーロンにエドゥがピタピタと陰湿なビンタを繰り返すのは、みているこちらにまで、なんてしょーもないヤツとの絶望がわきあがってくる。シャーロンにとっては母として、リチャードにとっては父としての子どもに対する親の愛情と、こんな相手とは人生を共有できないといった妻として、夫としてのあきらめのはざ間で二人が迷い、悩み、それでも愛をとるかの苦しみがなかなか身に迫る内容。しかも冒頭の空港のシチュエーションに戻り、マーヴィンはチェリー・グレース・Ｄ・サイ演じる妻をもち、クリスティンとロマンスが芽ばえたわけではない皮肉もきき、正直よくできた印象になっている。
　社会問題を背景におくことの多いオリヴィアだが、そうした意欲を示さず、純粋に人生のほろ苦さにしぼった視点がよかったのかもしれない。大人の恋愛映画といえよう。
　エンジェルがタバコをプカプカと吸い、リチャードが煙を手で払うシーンからは、タバコというのが人間の軽薄さを表わす格好の小道具だとよくわかる。ただし前半はストレート・ヘアー、後半はカーリー・ヘアーに変わるエンジェルはすごくタイプで、いかにバカ女に扮したところで、独特の魅力が輝いている。個人的には主役のシャーロンよりもときめく。カルミナは顔面を白くぬりたくり、口紅だけが真っ赤な化粧がイマイチ。ほかに女優ではクリスティンがゲストにすぎず、サンドラもほんの少しの出番。リチャードの同僚の妻としてアンドレア・デル・ロサリオ、サンドラのスチュワーデス仲間の一人としてハイラ・ゴメス、セミナー参加者の一人としてミア・グチェレスが出演している。