ＭＡＳＩＫＩＰ　ＳＡ　ＤＩＢＤＩＢ
“ＴＨＥ　ＢＯＯＢＩＴＡ　ＲＯＳＥ　ＳＴＯＲＹ”
（胸へのしめつけ　ブービタ・ローズ物語）
　
04年：ＶＩＶＡフィルムズ
監督：ジョイス・ベルナル
主演：ルーファ・メエ・キント
　　　 ジーナ・パレニョ
　　　 アントニオ・アキタニア
　　　 サンシャイン・ディゾン
　　　 ジョン・ラプス
　　　 ルディー・ハットフィールド
　ジョイス・ベルナルとルーファ・メエ・キントのコンビだから『ＢＯＯＢＡ』の延長にあるずっこけコメディーかと予想したのだが、奇妙な悲劇と喜劇の融合を試みた、実験的意欲作だった。悲惨なシチュエーションから笑いをとろうという狙いで、アキ・カウリスマキの『マッチ工場の少女』を連想したものの、あれよりもずっと下世話なエンターテインメント・レヴェルでやっているのがフィリピンっぽい。
　ただし、映画のできはそれほど高くない。
　ジーナ・パレニョ演じる母親が子どもたちを連れ、ベルナルド・ボニン演じる夫のもとから家出するのが冒頭で、まだ名前も知らない浮気相手がつくった女の子も一緒。雨が降ってきてみじめな状況を、突然に歌手のビトゥイン・エスカランテが現われて歌う。この有名歌手の特別出演が全編に散りばめられ、ミュージカルふうな構成をとるのが特徴をなす。ルーファ演じる主人公が住みこみ家政婦の先で主人のレイプを受け、失意で夜の街をさまようとき、サルバクタが公園でラップを演奏していたり、アントニオ・アキタニア演じる恋人とケンカしたルーファの前にオギー・アルカシドが歩いてきたり、ルディー・ハットフィールド演じる上司とルーファがうまくいきそうだったのに、ルディーが妻子持ちと判明し、失意の心境をラニ・ミサルチャが熱唱したり、ベルナルドが亡くなった葬式のあとにサラー・ヘロニモがフラッとでてきて歌ったり、といったぐあい。ルーファがオギーに名前を呼んで話しかけるし、なぜか家の中へきて歌うレジーン・ヴェラスケスにはスワルディン演じる祖父がタバコをもらっていて、歌手たちが黒子ではなく、登場人物にからんでいるのが愉快。
　歌手ばかりでなく、ジョン・ラプス演じるルーファの弟がブラクヤクの歌をバックに恋人と愛撫を繰り広げるシーンでは、恋人役にアンドレア・デル・ロサリオ、ジョンが妊娠させたと学校でもめる評議会において、被害者と訴える二名の女学生役にクリスティン・ジャカとグウェン・ガルシ、ルディー宅の前にいる男にボビー・アンドルーズなどが顔をみせている。
　物語はだらしないジーナのもと、家族からカネをせびられっぱなしのルーファが一家を支え、仕事やプライヴェートに不運がつきまとう姿が描かれる。ジーナは年がいもなくキエール・レガスピ演じる若いつばめをつくるし、ベルナルドはまた赤ん坊を置いていくし、サンシャイン・ディゾン演じる冒頭で子どもだった腹違いの妹はトラブルを起こすしで、ついにルーファが「もうイヤ、こんな生活」と絶叫するちょうど真ん中あたりのエピソードが、とくに斬新というか、注目の部分。ルーファの家のセットが演劇のステージに変わり、カリールとカイラが入ってきて歌い、いつの間にかアンナ・フェギとニーナもいて、四重奏を展開。エリー・ブエンディアが加わってロックを始めると、ジーナが『駅前旅館』のフランキー堺のごとく、ほうきのギターでズッコける。これらを観客がながめている図式にし、ピーター・ブルックが『マラー／サド』で試みた手法ながら、ドタバタの大騒ぎでやっている大衆性がなかなか。
　それにしても海の中からマーク・バウティスタがザバッとあがってきて歌うところでは、フィトス・キリアコウ演じる幼い下の弟が溺れるなど、試練をふりかけまくることよ。ジーナ、ジョン、サンシャイン、スワルディンは麻薬中毒で強制入院になり、どうしようもない暗さ。でもルーファが絶望のどん底なのに、サルバクタのリズムに合わせて踊りのポーズをとるなど、まさに悲劇の中の喜劇といった笑いの盛りこみがうかがえ、ジョイスのチャレンジ精神が高く評価できる。
　アメリカ人のルディーがルーファに「タガログじゃなく、英語で話せ」と命じたり、仕事探しで会ったチャーリー・ダヴァオ演じる上院議員をルーファが「ピン・ラクソン」と呼んだりの興味深いポイントも含まれ、とくにカナダで看護士になるべく、アントニオと一緒にルーファが講習を受けるところが好奇心に満ちる。人形を使っての介護訓練で、ちゃんと人形にオマンコがついていて、こんなふうにやってるのー、と驚きの連続。
　ホント、多角的な面でユニークな作品だったのだが、もう一つ乗れないのは、基本的な段階でアイディア負けしているからに違いない。つまりナンセンスとユーモアのごちゃまぜがスタイルを構成するにいたらず、人間観察的に本質からにじみでるおかしさを追求し、それを飛んでる表現で誇張すれば相乗効果を生むにもかかわらず、ルーファが意味なく鼻血を流すといったたぐいの不自然なギャグを無理やりねじこんだため、本質を殺してしまったのが主因。どうしてもっと逆境における皮肉に目を向け、深い味わいでの笑いを目指さなかったのだろうか。カナダへ出発したアントニオを追ってルーファが空港の滑走路を駆けぬけ、飛行機に乗りこむも、アントニオにフラれ、いきなりマーティン・リヴェラ演じるパイロットが歌い、ルーファと結ばれる強引なハッピー・エンドの無茶苦茶さなどは買えるのものの、表層的な段階にとどまったのが残念でならない。
　はたしてジョイスにはこれが限界なのだろうか。
　といぶかるも、とにかく前向きなやる気は賞賛したい。
　もちろん、ルーファがセクシーなのは、個人的にすごく嬉しいポイント。ＯＬふうスーツで会社に入り、実は掃除係兼守衛で、シャツのボタンをはずし、オッパイのこぼれそうな制服姿にドキドキ。家政婦になってもメイドのかっこうからオッパイがのぞく寸前だし、チンゴイ・アロンソ演じる雇い主、ラリオン・アロンソ演じるその息子が帰宅してラクエル・モンテッサ演じる妻＝母を横目にスケベな視線をルーファへ向けると、彼らのイメージの中でルーファは超ハイレグの紐ビキニ水着だから、思わず生つばゴクリ。チンゴイが寝ているルーファを襲うときの下着も挑発的。プールとビーチでは、今にも乳首がポロリとはみでるかのあやういワンピースにカッカ興奮を呼ぶ。ちなみにジーンが水着になっているのは余計。滑走路を走るラストでは、途中にどんどん服を脱ぎ捨て、ジョギング・スタイルに変身し、ヒップに食いこんだ短パンがゾクゾクを招く。
　もう、ルーファ、大好き。
　あとアンドレアが、シャツの上からジョンにオッパイをつままれ、じゃっかんだが、色気を放っている。ルディーの妻を演じるジャニカ・パレニョが、ちょっと美人だった。