（オルランド・ナドレス原作 人ごみ、熱さ… 天国の街角）
02年：リーガル・エンターテインメント
監督：ホセ・ハヴィエール・レイエス
主演：ジョイス・ヒメネス
ジェー・マナロ
チェリー・パイ・ピカチェ
アンジェラ・ヴェレス
マデリン・ニコラス
ルシアノ・Ｂ・カルロス
ローランド・イノセンシオ
靴がオシャレのポイントなのはわかるが、フィリピン人の靴好きにはまいる。多少服がボロくても、靴だけはいいものをとの意識が、ちょっと理解に苦しむくらいに強い。日本でも一千円以下のシューズをはいている自分との趣味の違いが大きいといえるものの、思えばこれまで何人に、いったい何足、靴を買ってあげたことか。
なんてことはどうでもよく、靴屋の店員たちの物語である。ＬＲＴの高架下にあるキアポの商店風景をとらえる、まずでだしの点描が秀逸。歩く人、座る人、路上生活者、商品のビビンカに包丁を入れているオバサンなど、広角レンズでのぞきこむように映しだしていく。突然のスコールにあわてる様子なども… ホセ・ハヴィエール・レイエス監督は、このあとずいしょに何度も雑踏のショットをはさみこんでくるから、庶民の日常に潜んでいる、特別じゃない状況の中にドラマを拾おうとしているんだな、との狙いがうかがえる。
このゴミゴミしながらも、下層のエネルギーに満ちた街にある靴屋が舞台で、ジョイス・ヒメネス演じる主人公は、五年間、模範店員だったとしてローランド・Ｔ・イノセンシオ演じるオーナーから表彰された人物。セールス・レディーではなく二階にある倉庫係で、下から色とサイズと型番の連絡がくると、該当する商品を探して、一階へと落とす仕事ぶりの紹介が興味深い。ちょっと猫背にした姿勢の内気な女性に設定されていて、アンジェラ・ヴェレス演じる遊び好きの店員から誘われるも、あっさり断って教会へ行くような性格。
ほかに店には芸能オタクで、スターのゴシップばかり読みあさっているマデリン・ニコラス演じる中年女性、客から受け取る代金を間違えてクビになるルーシー・ナヴァレッテ演じる派手めの女性、とくに目立たないアヴィゲール・デ・アシス演じる若い女などの店員がいて、ルシアノ・Ｂ・カルロス演じる老人の用務員は仕事中に倒れ、しばらく入院するも、亡くなってしまう。
中でもチェリー・パイ・ピカチェ演じる店長がすごく特徴的で、鬼のように厳しく、店員たちに絶えず怒鳴り散らす。二十二年間、仕事に人生を捧げたような女性で、ジョイスに目をかけてもいる。
ミニ人生模様というほどではないものの、この閉鎖社会の中にカガヤン・デ・オロからやってきたという、ジェー・マナロ演じる青年が加わってドラマが動きだす。アンジェラがジェーに誘いを入れるが、ジェーはどちらかというとシャイなジョイスに興味を示す。パンガシナンに残してきた家族の話などをしているうちに、だんだんとジョイスが打ちとけてきて、肉体関係へと発展。やがて台湾で働く夢をみていたジェーは、チェリーと大ゲンカででていき、ジョイスに「自分の靴一つ買えないぞ」と言い残す。ジョイスにはあこがれの赤いパンプスがあって、いつかは欲しいとちょくちょくながめていたのだが、そのパンプスが売れてしまって泣くシーンが象徴的。思いきって自分も辞める決心をし、チェリーがとめるのを振りきって、ジェーのあとを追う。
アンジェラが不倫でもめたりといったサブのエピソードもチラッと描かれるものの、ようはこれだけの話。
エンド・タイトルがでてくると、ナニ、コレ!? という、どこかキツネにつままれたような、気の抜けた炭酸飲料ごとき空虚な印象がこみあげてくる。
まあ、生きる糧を得るためだけの人生から一歩踏みだそうとする自立の物語なのだろうが、表面的な映像づくりにばかり凝っていて、薄っぺらー、と評さざるをえない。ホセにしては、決してホメられたできに値しないといえる。
あと、期待していたジョイスのセクシーさも、意外なくらい不発。ローランドの誕生日にカヴィテの海岸でパーティーを開くのだが、このときブロックの囲いに隠れて、初めてジェーに愛撫される。俯瞰でほかのものたちが気づかずにいる外の様子を一つの画面に収めた構図が斬新なものの、ブラからオッパイを引きずりだしてジェーが乳首を吸うときに、ジェーの口がジャマしてジョイスの乳首がみえないじゃないか。ジョイスの家へきてセックスするシーンでも、陰影の強い撮影がジェーのお尻を浮かびあがらせるのに、ジョイスのボディーははっきり露出しない。
あー、もー、そりゃないでしょ。
もう一回あるベッド・シーンもオッパイを隠したままなだけでなく、個人的にはジョイスよりファンであるアンジェラ・ヴェレスが出演しているのに、脱ぐシチュエーションが皆無という始末。
じゃあ、なんでアンジェラがキャストされたわけー？
ズバリいって、相当にハズレ作品だ。
