“ＭＡＮＯＮＧ　ＧＡＮＧ”
（ギャングのおじさん）
　
91年：ムーヴィー・スターズ・プロダクション
監督：マーロン・Ｍ・バウティスタ
主演：ラモン・“ボン”・レヴィーリア・ジュニア
　　　 ディーナ・ボネヴィー
　　　 デニス・ロルダン
　　　 パキト・ディアス
　　　 マックス・アルヴァラド
　　　 ベルティン・ラブラ
　　　 ベルト・オリヴァル
　　　 ジェス・オルメド
　犯罪者を主人公にするなら、共感を呼ぶシチュエーションがほしい。
　ラモン・“ボン”・レヴィーリア・ジュニア演じるセブへやってきた男が、ジェス・オルメド演じる小人と相棒同士で、さっそく強盗を開始。地元にはディーナ・ボネヴィー、パキト・ディアス、マックス・アルヴァラド、ベルティン・ラブラ、ベルト・オリヴァル演じるスラムに住む泥棒一家がいて、ボンたちとかち合い、いさかいを繰り返す。でも次第に打ちとけ、手を組むようになる。一方、デニス・ロルダン、ディック・イズラエル、キング・グチェレス、マンジョー・デル・ムンド、エドウィン・レイエス、トム・オリヴァル、ジェシー・デルガドなどが演じるもう一つの犯罪一家が存在し、こちらはジョー・ロン、レナート・デル・プラド、エルニー・フォルテなどが演じる部下をかかえる大きなシンジケート。はるかに残酷で大胆な犯行を実行する。デニスたちが現金輸送車から大金を奪う現場をボンが目撃。ディーナ一家と横どりにおよぶストーリー。
　ボンやディーナたちが質屋、両替商、スーパー・マーケットでホールド・アップや、マーケットで引ったくりによって庶民を苦しめているのに比べ、デニス一味が銀行強盗で資本家がターゲットだから、まずボン・サイドほうが悪いと思わせるのがダメな部分。ボンたちが襲った銀行の金庫が空だったコメディー・エピソードも、かえって銀行員への同情を誘う。納得はホテルのカジノくらい。後半にボンとデニスが激しいカー・チェイスを繰り広げ、二人して沿道の一般人を巻きこみ、平気でひき逃げだけに、もはや共感はおろか、死んだほうがいい人物とも指摘でき、ムカムカ腹がたつ。
　アトン・レヴィーリアスなどが演じるストリートの孤児たちをボンが助け、ルーシー・キント演じる大家の部屋を借りて住ませたり、アトンに非難されたボンとディーナが教会の孤児院へ寄付にまわるなどでてくるながら、だからどうしたのという感じ。
　また、あまりにもボンのバカさ加減に、とにかくあきれるばかり。たまたま銀行でデニスの一味にでくわし、ディックから威嚇射撃を受けると、そんなのトボけてすませばいいのに、警察が駆けつけているのも無視で撃ち返すノータリンぶりは、ほとんど知能指数三十以下。案の定、警察に追われてのドタバタへ発展で、アホとはこういう人物を表わす言葉じゃないか。意味深に現場へ残した銃のケースがあとにまったくカラまない構成は、そもそも作者たちのＩＱが低いんだとうかがわせる。
　ちなみに編集のエドガルド・ボーイ・ヴィナラオなど、ちゃんと明記されているにもかかわらず、脚本担当がオープニング・クレジットに落ちていて、一体このおマヌケな話を書いたのは誰なんだ、と問いたくなったが、エンド・クレジットのスタッフ表記の中に、小さくフミルデ・ミーク・ロハスとあった。
　デニス一味によってボンとディーナをのぞくパキトたちが皆殺しになり、子どもたちまで誘拐されて、復讐と奪還に殴りこむのがクライマックス。たった二人で作戦も練らず、無謀にドンパチはサル山のケンカにも劣る。多勢に無勢の一斉攻撃で身動きがとれない状態を招くのは当たり前。しかもディーナには、そんな持ちかただと当たらんぞ、と指摘したくなるような射撃姿勢や、銃口の向きがヘンなショットを含み、なんと配慮を欠く演出と嘆きすら起きる。最後はボンの捨て身による爆破で決着だが、ディーナがボンの思い出にひたるラストで、やっぱり生きてましたとなったら笑ってやろうと思っていると、やっぱり生きてましたに唖然。
　笑いすら浮かばず、悲しくなる。
　もっとも駄作の見本であっても、１００％クズなわけではない。直接、海へウンコを落とすトイレのあるスラムの光景や、ヴァンジー・ラバラン演じるおばさんのバックをディーナが引ったくり、大騒動に走りまくる市場の喧騒など、けっこう興味がわく。ふきかえのスタント・マンによるディーナのウルトラＣや、マンタン島との間にかかる橋からのダイヴはけっこうがんばっている。屋根をつたうボンの逃走は、ジェスをかついでいるのが妙におかしい。孤児院で実際の精神障害者をとらえたショットの挿入は、一瞬だが、確かにこの子たちがもつ純真無垢な美しさを伝えてくる。
　それにディーナの魅力が、すべてに増して嬉しさをくれる。じゃじゃ馬だけにヒゲをつけた男装で登場し、ボンを毛嫌いするのが、いかにも定番のキャラ。強奪成功でビーチ・リゾートへ行き、男どもが水着の女たちと戯れ、ボンが「みんな水着なのに、どうしてズボンをはいてるんだ」と皮肉るとき、俺だってディーナの水着をみたいよー、とうなずく。それでもボンに浅瀬で押し倒されてズボンが濡れ、ぴたぴたに貼りつくのが色っぽく、ベッド・シーンではガウンを脱いでスリップ下着がときめきをくれる。ジーンズがカッコいいなら、しとやかに変わったスカートはエレガントで、ディーナの輝きはさしずめ生きるヴィーナス。
　ほかにビーチでジェスにお尻をさわられながら歩く水着女性が視線をとらえる。ディスコでボンとイチャつくマリリン・モンテヴェルデ演じるホステスが、そこそこにキュート。「わー、大きい」「おいしい」なんて会話でディーナにセックスと勘違いさせ、嫉妬を招くマッサージにおいて、もっと露出がほしかったところ。いたずらでボンがディーナにくっつけるホステス役のクリステル・ロメロは、ほどほど程度かな。デニスが絵を描く設定で、ジェニファー・フブラ演じるモデルが布をたらせただけの半裸なのにウハウハ。全身タイツのダンサーたちがゾクゾクのショー・パブへデニスが連れてくるシーラ・リンタン演じる愛人も、ちょっとそそる。
　女優陣のフェロモンが映画のすべてだったようだ。
　なお、ボンを屋根で追う警官役にバルド・マーロが、交通整理の警官役にダンディン・ラニーリオが特別出演。子どもたちがブランドとの役名のボンを「マーロン・ブランド」と呼ぶのは、監督のマーロン・Ｍ・バウティスタが自分の名前に引っかけたのだろうか。