ＭＡＮＩＬＡ　ＢＯＹ
　
93年：パイオニア・フィルムズ
監督：アルトゥーロ・サン・アグスティン
主演：ロビン・パディーリア
　　　 オーロラ・セヴィーリア
　　　 アンディー・ポー
　　　 マックス・アルヴァラド
　　　 ロミー・ディアス
　　　 ジョージ・エストレガン・ジュニア
　　　 ノルマン・ルセナ
　ちょうどマビニとデル・ピラールの大歓楽街が市長のアルフレッド・リムの命令によって閉鎖となった１９９３年、オーストラリア・クラブ（どうしてこの店だけ営業できたのかは今も不明）以外のすべてのバーが立ち入り禁止の板を打ちつけられた通りで『ＢＯＹ』という題名の映画の看板をみかけた。シンプルに『ＢＯＹ』なんて題名なわけじゃなし、前の単語が消されていて何とかＢＯＹなのだが、この作品の宣伝カーがとまっていたとき、薄っすらと消された単語がスケて読めてＭＡＮＩＬＡとわかった。おそらく市長のクレームでＭＡＮＩＬＡの地名が使えなくなったんだろうなあ。きっとうるさい市長なんだろうなあ、と推測したもの。
　なんて話はさておき、当時はまだそれほどフィリピン映画に興味を抱いていなかったので、しょうもなさそうな内容だとみなかった。まあ、正解だったというか、もしみていたらフィリピン映画にこれほど愛着を感じるのがもっと遅れたかもしれない。それほどレヴェルの低いできになっている。
　ロビン・パディーリアが主人公を演じ、彼らしい不良もの。オーロラ・セヴィーリア演じる女教師にまとわりつき、帽子をとっておじぎするオーロラへは紳士だが、根っからの粗野で下品な雰囲気を漂わせる。うまく英語を話せず、無教育な庶民の姿といえる。ヴァル・イグレシア演じる友人、ベルティン・ラブラ演じるヴァルの叔父とオーロラ宅の窓の下で歌う求愛方法はフィリピンの庶民の定番。オーロラがロビンの素朴さは認めるも、無職でブラつくのを非難する。生きかたの指摘でその気になってバランガイ・ホールで街に病院や学校の必要を訴え、自分がつくると拍手を浴びるのは、住民たちも単細胞。ジュディー・アン・サントス演じる盲目の娘がいて、フローラ・クリストバル演じる祖母に治療を約束は、あとへ続くセンティメンタルな要素と感じる。ジュダイがロビンの顔をさわるショットはいいムードをかもす。マニラ・ボーイと名のって活躍をはじめるも、結局は警察のやっかいに。トニー・フェレル演じるシンジケートのボスがロビンの腕っ節に目をつけ、警察に内通しているのでロミー・ディアス演じる部下が賄賂を払い、ロビンをうけだす。 トニーのもとでめきめき頭角を現わし、コンラッド・ポーがボスを演じる対立シンジケートへは、コンラッドにヴァネッサ・エスカーニョ演じる愛人がいるのに目をつけ、ヴァネッサに近寄って情報提供を承諾させると、シャブを横どる。コンラッドがヴァネッサを日本刀で斬殺におよべば、ロビンがコンラッド一味を全滅に追いこむ。マックス・アルヴァラドとボンバー・モランがトップを演じる組織がラヴリー・リヴェロ演じる女殺し屋を雇い、トニーの爆殺を試みたのを阻止のあと、マックスとボンバーをつかまえ、電動のこぎりでボンバーにマックスの胴を切らせる。暗黒街ではすっかりマニラ・ボーイの名前がとどろき、アンディー・ポー演じる警察高官がシンジケート対策の特別捜査班を設置。バランガイへ帰って部下から台詞を聞きながらのトンチンカンなあいさつでロビンが笑いを誘いながらも、病院や学校の建設資金を寄付で、大喝采の中、受けとり代表のオーロラが「どこからもってきたの」と聞いているのをたくみにごまかす。ロビンとオーロラの愛が深まらないあたりは、ちょっと意外な流れ。ジュダイには約束どおり手術のカネをわたす。ノルマン・ルセナ演じるトニーの息子がアメリカ合衆国から帰国で状況が変わる。ノルマンの世話係になったロビンはレストランの料理まで毒見のまじめさだが、たまたま妹へノルマがほれたためにキレる。一番大事と妹を偏愛するロビンは、妹のほうもまんざらではなかったのに、ノルマンがセックスをせまっている現場をみて、とっさに射殺。報復にでたトニーがロビンと勘違いでヴァルを始末で全面対決をくり広げ、トニーをみかぎったロミーがジョージ・エストレガン・ジュニア演じる自らの部下を殺してロビンを助ける。パキト・ディアス演じる腹心とトニーがクルーザーで釣りにでたとき、ロミーの手引きでロビンが乗っていて、トニーとパキトを爆弾でふっ飛ばす。これでロビンの天下と思いきや、アンディーが迫ってくる。
　全体的にロビンのコミカルな演技が目だってアクションはイマイチだったものの、アンディーの追跡でモーター・ボートと車の沿岸チェイスの展開に、ややみせる。でも車に乗りかえてのクライマックスが冴えず、アルトゥーロ・サン・アグスティンの演出が凡庸にとどまる。ロビンの葬式後、実は生きていたとのオチなど、バカらしさに失笑が起きる。アンディーのはからいで目がみえるようになったジュダイと会うしんみりさはシラけるばかり。トニーが偽善の仮面をかぶっていて、ロビンもバランガイ住民には親切が善悪の無理解なのに、ここへ風刺を向けない姿勢が味わいをさげる。
　ようは低レヴェル。
　あえて市長がＭＡＮＩＬＡの文字を不許可にするほどの内容とは思えないが、ＭＡＮＩＬＡ　ＢＯＹなんてニックネームの犯罪者をヒーローふうに描いたのに不快感を伴ったのだろうか。またはノルマンをビキニ・ダンサーが踊るバーへ連れていくシーンに対し、もうマニラのバーはつぶしたぞとの意思表明ともとれるも、マビニ通りの光景がでてくるわけでなく、釈然としない。アンディーの指示でザンドロ・ザモラなどが演じる警官が売春捜査のラヴ・ホテルで女性たちが服を着たままベッドにいたり、バーのダンサーもオッパイをうつさず、露出控え目にもかかわらず。
　それはさておき、ヒロインの不在が印象ダウンにつながっていて、オーロラなのかジュダイなのか、ロビンの対象があいまいなうえ、セクシーなヴァネッサが脱がないのに不満が残る。ロビンの葬式で花をささげて棺に泣きつく女性はジェニー・ロアだと思うが、途中での活躍の場がわからないあつかいにアレレ。ロビンの妹を演じるのはヒルダ・アラゴンかどうかはっきりせず、太めでブスっぽいかな。美人ではラヴリーにとどめをさし、うっとりするほどの容貌ながら、出番がほんの少しで惜しい。オーロラの妹を演じるのはジェーン・サレータのように感じるが、クレジットに不記載で不明。
　とにかく女優の楽しみを抑えた点が個人的には文句タラタラの部分。
　なお現存プリントは頭のクレジット表記のところに欠落があり、オーロラとアンディーの間にトニー・フェレル、ラヴリー・リヴェロ、パキト・ディアスの名前がぬけているようだ。またロビンにやられるミニ集団のリーダーを演じるキング・グチェレスとコンラッドの部下を演じるレナート・デル・プラドの名前もみられず、こちらはうっかり忘れたスタッフのミスだろう。