（鬼のような女）
97年：ジョエル・フィルムズ・インターナショナル
監督：ニール・“ブボイ”・タン
主演：アラ・ミナ
グロリア・ロメロ
トントン・グチェレス
ルイス・ゴンザレス
シンタロ・ヴァルデス
ズバス・ヘレロ
メリッサ・メンデス
ジョアン・パスクアル
アレクサンデル・ディアマンテ
リク・アレリアノ
不良少女ものは青春映画の一つのパターンとして存在するが、多くの場合、周囲の環境や人間関係によって性格がゆがめられていく構成になっている。浦山桐郎の『不良少女』をはじめ、かつての日活の青春路線などのほとんどがそうだった。フランス映画でも『大人は判ってくれない』を少女版でリメークの『小さな泥棒』など、同様ではないかと思われる。それがフィリピン映画のこの作品など、いきなり主人公が性悪として登場し、グレていく過程を描かないあたりにアレッと思わせる。まあ内容としては深みがなく、社会性に欠けるかもしれないが、理解されないことへの悲しみをうだうだみせつけられるのは好きじゃないので、このほうが娯楽性があっていいのではないか、とも感じる。
それに性悪女を演じるのがアラ・ミナだから、期待せずにはいられない。
まずはハイ・スクールのシーンから始まり、制服姿のアラが悩ましい。アルヴィン・ロケ演じる同級生を授業中に誘惑のとき、さっそくスカートから白いパンティーをちらつかせる。でも男子更衣室に入って肉体関係を迫るや、パンティー一枚になるものの、カメラは背後から撮っていてオッパイを隠したまま。お楽しみをあとへ引っ張ってくれるなあ。
ジャネット・タン演じるアルヴィンの恋人の同級生もヌードをみせるかとワクワクしたが、彼女はアラの引き立て役にすぎず、ほとんど見せ場なし。
ところでジャネットの母親役のオデット・カーンと、尼僧の教師役のスーザン・コルプスの区別がいつもつかないのだが、二人一緒に登場するシーンをみて、ハハンとうなずいた、とこれは余談。
ルイス・ゴンザレス演じる父とデクスター・ドリア演じる母に勘当されてマニラへでるや、典型的な中流家庭にあたる名づけ親のズバス・ヘレロとグロリア・ロメロ演じる夫妻の家を訪ね、やっかいになる。いわゆるフィリピンの後見人制度のありかたが外国人には興味深い。アラがサラ・ポルヴェリニ演じる夫妻の一番下の娘に悪影響を与えていく描写が面白く、腐ったりんごはまわりのりんごまで腐らせる循環を巧みに表している。
とにかくアラの性悪演技がなかなかのもので、食事の仕方や寝相の下品さなど、演出の助けもあるだろうが、みごとにバカっぽいムードをつくりだす。意地悪な表情のつけかたも堂に入ったうまさで、単純なセクシー・アイドルでないことをうかがわせる。ただし愛想笑いをするところで、ついいつもの素敵なアラ・スマイルがでてしまい、やはり美人だけに笑顔まで演じきるのは大変なのかもしれない。また不良のシンボルのようにタバコを小道具として使い、個人的には嫌煙家なので妙に納得。アラが日本のＯＬや水商売の女性のごとくに品のない吸いかたをみせて、なるほどタバコほど人間の安っぽさを表現できる小道具は他にないのではないか。
トントン・グチェレス演じる夫妻の上の息子がカトリナ・パウラ演じる恋人を紹介のところでは、カトリナも性格が悪そうな雰囲気を醸しだし、二人のセックスをアラがのぞき見のシーンでカトリナは乳房もあらわにベッドでもだえまくる。アラ以外で大胆な露出を提供してくれるのはカトリナだけだが、まだアラのオッパイがみえないうちにやや黒ずんだ乳首をアップにし、さすがカトリナだと感心。
もちろん当然ながら、アラも負けていない。直後にプールを管理する男が全裸になって泳ぐシーンが続くと、赤いキャミソール姿で現われ、いよいよ脱ぐぞ、脱ぐぞとワクワクさせると、キュートなお尻も丸みえに素っ裸でプールへと飛びこむ。二人が水の中でたわむれる描写では、透明な水からスケてみえるアラのお尻がモミモミしたいくらい魅惑的なばかりでなく、水中カメラで撮ったカットでは、一瞬だが陰毛も映っている。さすがにアラは格別だ、と痛感なものの、乳首はここでもみえないままで、さらにお楽しみを先送りしてくれるなあ。
ランチキ・パーティーで大麻を吸ってラリったトントンをアラが誘惑のシーンがきて、ついに待ってました。まさにこの作品のクライマックス。マスクで顔を隠しながら踊る黒いビキニ姿のアラがトントンに迫ってくる。どことなく女王様っぽいムードにゾクゾク。マスクをとってブラに手をやると、パラッと脱いで乳房をオープンにするんだなと盛りあげておいて、うしろを向くと予想どおりブラをはずし、上半身裸に。早くこっちを向いてと願うと、正面から撮られたアラは腕でうまく乳首を隠しまくる。まったくもってイライラさせるなあ、とニクい演出。場面がそのまま二人のセックスへと変わるや、アラはトントンの上にくっつき体勢で寝ていて、ひょっとしてこのままオッパイをみせないままに終わるのではないか、との疑問すら抱かせる。いやはや、徹底してもったいぶるものの、次のカットでは騎乗位でもだえるアラを背後から撮っていて、シーツの間からみごとなくびれとともに半ケツがのぞいている。やはりお尻の割れかたの美しさは絶品だなあとうっとりの直後、さらにその次のカットではいきなり下にいるトントンの視線でアラのオッパイが目の前に広がってくる。うわーーーー、完全にやられたあ。こんなに意表をついてモロみえが用意されているとは…！
思わず鼻血がでそう。
あとのシークェンスでアラはシンタロ・ヴァルデス演じる初めて本当に好きになる男と出会い、彼とのセックス・シーンでも立位で乳首を全開にオッパイをゆらゆらさせるので、１００％満足。ただし、この頃のアラの乳房はやや小さいように感じ、きっと豊胸手術をしたんだろうなあ、との疑惑が生じてくる。
翌朝になって二人が添い寝のカットで、アラはまたも半ケツをみせっぱなし状態。お尻の魅力は間違いなく世界一といってよい。セクシーなパンツ・ルックでかけつけるカトリナもかたなし。
ジョアン・パスクアル演じる夫妻の上の娘も、ブライアン・エリサガ演じる恋人をアラに誘惑され、周囲の者を不幸に追いこむことで喜びを感じるアラの悪魔っぽい妖艶さがなかなかのもの。欲をいえばジョアンの裸をみたかったが、彼女もまたアラの引き立て役にすぎないようだ。
夫妻の家を追いだされたアラはメリッサ・メンデス演じる友人宅へ転がりこみ、二人はストリート・ガールになる。メリッサは美人でないが、ピチピチのパンツ・ルックが色っぽいだけにヌードの期待が高まるも、やはり大胆な露出を披露してくれない。二人が街に立つとオカマが客引きし、そのとき「いくだら」と聞かれて「７００」と答えているのがすごく興味深い。また娼婦姿のアラが悩殺爆弾で、だいたい『プリティー・ウーマン』のジュリア・ロバーツはあまりにブスすぎるとして、ストリート・ガールというのは美人の演じる役どころではないと思っているだけに、もしこれが現実だったなら、いくらでも払うなあと実感。
念願かなってメリッサがオーディションに受かり、じゃぱゆきになる展開で、本当に日本には彼女の設定のような娼婦あがりが水商売できているのだろうかとの疑問がわいてくる。個人的に日本のフィリピン・パブのことをよく知らないので、事情通の人がいたら教えてほしい。
唯一の友人がいなくなり、一人でストリートに立つアラが病気をわずらうあたりから、ストーリーに強引さが目立ってくる。最愛のシンタロは警察にしょっ引かれ、後見人夫妻の家を訪れてみると、みんな元の鞘に収まっていて幸福そうで相手にされず、故郷へ帰ってみれば両親は事故死している。よくもまあ、ここまで不幸が降りかかるものだ、と驚くほど。現実には、確かに不幸は連続してやってくるかもしれないけど…
アラのやつれぶりを強調したメイクもあって、『嵐の孤児』のリリアン・ギッシュか、それとも『マッチ売りの少女』かと思わせるような焦燥しきったミジメ感の表現がワザとらしすぎる。いかにもドラマティックに盛りあげようとの音楽が重なるため、かえって笑ってしまうくらい。後半の稚拙さはニール・“ブボイ”・タン監督の責任だろう。
結局、宗教に救われるという解決方法はカトリック国らしい印象だが、映画は回想形式で最初にミサの集会シーンがでてきて、献金風景などいかにもアヤシイ描写で、インチキ宗教を風刺する内容なのかとうかがわせていたのに、どうやらそれは勝手な思いこみだったようで、本当に改心するのだから、あきれてものがいえない。ラストの集会シーンには後見人の夫妻が感動でアラのスピーチを聞いている姿があるし、シンタロは戻ってきて夫になっているし、日本へ行っていたはずのメリッサも登場し、ご都合主義、デタラメ、安易、マジメにみるような代物ではないな、とうんざり。
相当なる駄作。
ニールは自分で脚本を書いているながら、この他の監督作品をみても同様で、いつもツメが甘く、もう少しラストに説得力を持たせて欲しいところ。
でもアラの意地悪な表情が、それはそれなりに魅力的でキスしたくなるほど素敵だし、裸も十分に堪能させてくれたから多くは望まない。アラさえいれば、正直いってストーリーなど、どうでもいい。
