（魔術にご用心）
08年：リーガル・エンターテインメント／リーガル・マルティメディア
監督：ジュン・ラナ
主演：ジュディー・アン・サントス
デニス・トリーリオ
ＴＪ・トリニダッド
ダメ・ホラー、というのは、こんな作品をさすのではないか。
交通事故とヴードゥー儀式のイメージがフラッシュ・バックの冒頭が良好で、期待したのだが…
病院の白い通路に血のもようが浮かぶシーンへと続き、ゆれるタンスに血がつき、突然に腕がでるなどのショック演出が定番にすぎず、主人公が霊をみるのに意外性が少なく、人形がいっぱいある部屋でキリスト像やマリア像が血を流していて、相変わらずの宗教的なフィリピン映画かと思わせる。
ミラ（ジュディー・アン・サントス）とポール（デニス・トリーリオ）の夫婦は、けっこうな上流で、ポールの妹のマギー（クリス・ベルナル）と子守りのビシン（セス・ケサダ）と豪邸に暮らし、幼い娘のソフィー（シャーリン・サン・ペドロ）がヴィデオ・カメラで遊ぶも、盲目とのシチュエーションでハテナと疑問を与え、ポールのビジネス・パートナーのデーヴ（ＴＪ・トリニダッド）がミラの元カレだったため、まだ愛の残るデーヴが嫉妬で近づくとの人間関係において、ミラに双子の妹のマリア（ジュダイの二役）がいた。母（クレジットが欠落ながら、イルマ・アドラワンだと思う）が呪いを娘たちに教え、幼いマリアが積極的なものの、幼いミラのほうはあきれていた回想で、だいたいが読めてくる。母の墓前で「霊の友人たちがいる」というマリアを精神病院へ入れ、そこでマリアが死亡。ソフィーが手術で視力をえて、ポールともめていたデーヴがピストル自殺との展開で起伏をつけようとするが、とにかくストーリーの弱さと表現の単調さで、90分ほどの尺にもかかわらず、途中であきてしまう。
さほど宗教性は前面にでなかったかもしれないものの、ミラが誰もいない相手とひとりで話すのをポールがみる伏線はよいにして、ミラが霊に首をしめられ、バス・タブから霊が現われ、ポールのパソコンに映るカメラの映像に霊がよぎり、ベッドで寝ているポールに霊が抱きつくのをミラが気づくなど、かなりを夢オチのごとく進めるのがイマイチなうえ、ソフィーの撮影したヴィデオ・カメラの中に霊がチラつき、目がみえるようになったソフィーが包帯をとれば霊を不審がり、デーヴが自分に発砲で血吹雪が飛ぶうしろを霊が歩き、ソフィーと月蝕を観察のポールがのぞく天体望遠鏡に霊が忍び寄るなど、アホのひとつ覚えのじゃないが、ヴォン・デ・グスマンのスコアーの助けを借りつつ、霊の存在だけで恐怖を引っぱろうとの構成があまい。ジュン・ラナの力量不足を痛感する。
祈祷師（クリス・ダルス）を呼ぶながら、これほどまでに霊が出現にもかかわらず、主人公たちが意外と冷静なのが説得力を著しくそぎまくる。
ミラがかわいい人形をわたそうとしたのに、盲目のソフィーが握ってはなさず、祈祷師が異常な反応を示す黒い人形や、マリアの遺品のスーツケースに入っている呪いの人形、虫のたかったケースからでてくる呪文が浮かびあがる古い本など、小道具を活用するも、いたって平凡なレヴェル。マリアを火葬のあたりは、土葬が一般的なフィリピンで、焼き場の光景に興味が起きる。
それにしてもミラが遺言のようなものを録画したＤＶテープがポールの前に落ちたり、マリアが写真をつかって魔術を使い、マギーの顔を切って流血や、ポールの顔にロウソクをたらして火傷がアイディア不足なら、ＤＶテープで真相を知ったポールとソフィーのすぐ横に鍵となる遺灰と黒い人形が置いてあるうえ、遺灰でつくった円にマリアをいかに立たせるかで、ソフィーが偶然にうしろから押すとの運びがご都合主義。マリアと入れかわったミラが精神病院で患者たち（カルメン・デル・ロサリオやシャーリン・ヴィリアマルなどが演じている）に撲殺されるとき、どうして看護士がこないかや、こんな重病患者たちを大部屋で一緒に寝かせているのにリアリティーを欠き、まったくもってセコい。
「家族も同然」といっていたビジンがクローゼットの下敷きになり、そのあとどうなったかがでてこず、ミラの墓地を参拝のエピローグでポールとマギーの顔に傷あとがないといった手抜きも気になり、いやになるほどのダメぶり。
マギーのからませかたがヘタなら、マギーのボーイフレンドのニール（マルト・エスクデロ）など、いなくてもよかったわけで、ジュン・ラナとエルマー・ガッチャリアンとレナート・クロジョの脚本段階で妥協が早い。
演技陣にも単調さが目だち、とくに役のせいもあり、ＴＪがストレートすぎ。デニスも本来はもっとうまいはず。二役のジュダイは頑張ったが、子役のシャーリンが無難な印象で、セスの脇らしい存在感がまずまず。かわいいクリスに見せ場がなく、いるだけの状態なのが非常に残念だった。
