ＭＡＤＲＡＳＴＡ
（義理の母）
　
96年：スター・シネマ・プロダクションズ
監督：オリヴィア・Ｍ・ラマサン
主演：シャーロン・コネータ
　　　 クリストファー・デ・レオン
　　　 シャシャ・パディーリア
　　　 クローディン・バレート
　　　 パトリック・ガルシア
　　　 カミール・プラッツ
　　　 ニダ・ブランカ
　　　 リコ・ヤン
　　　 ティタ・ムーニョス
　　　 ココ・トリニダッド
　義理の母親と子どもたちの葛藤を描く作品。ありがちなイジメの視点ではなく、何とか打ちとけようと努力するにもかかわらず、どうしてもなじめないといった心理を主題にしていて、良心的なホーム・ドラマといえるだろう。
　シャーロン・コネータとクリストファー・デ・レオンの顔合わせで、スター企画なのは明らか。クリストファー演じる典型的な中流階級のバツイチと、シャーロン演じる中流手前のビジネス・ウーマンが再婚し、クリストファーの三人の子どもたちとシャーロンがもめる。カミール・プラッツ演じる一番下のまだ幼い娘が実の母の記憶がないため、すんなりとシャーロンを受け入れるも、クローディン・バレート演じる年ごろの長女と、パトリック・ガルシア演じる反抗期の息子がやっかい。クローディンのお高いワガママぶりに対してシャーロンが次第に違和感を覚え、シャシャ・パディーリア演じる実の母を忘れられないパトリックが、シャーロンとの交流を避けまくる。
　ここには育った環境の違いが影響していて、映画はシャーロンの家族描写を盛りこみ、ドラマに説得性を持たせる。ニダ・ブランカ演じる母を中心に、ココ・トリニダッド演じる高齢の祖父、クリス・ヴリアヌエヴァ演じる弟や、その子どもたち、ユーラ・ヴァルデス演じる妹、テレサ・ロイサガ演じる義理の妹などがいて、うるさい食事風景がいかにもフィリピンっぽい。クリスがアメリカへ働きに行きたいから、クリストファーの人脈を頼ろうとするあたりもけっこう現実的。
　クリストファーとケンカがちになった妊娠中のシャーロンが「私だってベストを尽くしている」と怒鳴るまでの前半が快調にみせる。
　出産をすませ、ショート・カットに髪型がチェンジし、タバコを吸うなどシャーロンの変貌で時間の流れを示してからの後半はちょっときつくなる印象。相変わらずクローディンとパトリックの溝は埋まらず、ついにクリストファーと大論争におよんだシャーロンが「私はあなたにとってただの妻にすぎず、お互いに尊敬がない」とでていく。ココが亡くなり、葬式にクリストファーたちが出席して復縁。でも滞在先のアメリカからシャシャが帰国後の展開が、かなり退屈を招く。
　パトリックがシャシャにべったり近づき、カミールの教会の儀式でもシャシャが母として立ちあい、シャーロンは脇役との進めかたの中で、とにかくあくびばかり。
　知的刺激にまではいたらない表層的な内容を繰り広げるのが原因で、悩みの描写に奥行きを欠き、オリヴィア・Ｍ・ラマサンの丁寧な演出が裏目にでている。観客との呼吸がだんだんとズレてくるテンポの悪さが致命的。
　パトリックが交通事故でケガし、クリストファーと病院で父子の愛情を確かめ合う部分などくどいし、まだあるのー、とうんざり。クローディンが妊娠を打ち明け、シャーロンのとりはからいでリコ・ヤン演じる相手の男とデキちゃった結婚する式がクライマックスをシメるも、ああ、やっと終わるぞー、と解放されるのが実感。
　構成力のアマさを指摘せざるをえない。
　まあ、女優陣はそこそこそろっていて、シャーロンの無難な演技は今さらながら、クローディンとお互いに気をつかうチグハグさの表現がなかなか。クローディンには多少なりともセクシーさがほしかったところ。テレサはヘソだしのピタパンで、ユーラはジーンズでプロポーションのよさをうかがわせ、大人の色気が香る。クローディンが就職するも、その性格を嫌うシャーロンの同僚を演じるシェール・バールワニは『ＢＩＫＩＮＩ　ＷＡＴＣＨ』などでナイス・ボディーを知っているだけに、もっと活躍をみたかった感じ。うるさ型のクリストファー宅の家政婦を演じるヴァンジー・ラバラン、怒られっぱなしの家政婦のチェン・アヴェリアーナ、無口でたんたんと動くニダ宅の家政婦のリリア・クンタパイは、なるほどいそうなタイプを的確につくる。ニダはあえて感情露出を抑えたヴェテランぶりがさすがで、両家のメンバーが食事するクリストファーの家のパーティーへ「あなたの二人目の奥さんを確かめておこうと思ってね」とやってくるティタ・ムーニョス演じるシャシャの母が存在感を放つ。シャシャは美人だが、歌手としての実力が相当なだけに、歌わない役では魅力半減。
　まあ、役者でとくに圧倒してくるのは、ボケて娘のシャーロンすらわからなくなるおじいちゃんのリアルさを地と区別がつかないまでにだしたココかもしれない。
　なお、パーティーのシーンとココが臨終寸前のシーンでベートーヴェンの第九交響曲や月光ソナタを使用するも、有名曲すぎていささか陳腐。シャーロンの子どもの誕生会にミッキー・マウスの着ぐるみを呼んであるのが、フィリピンの小ガネ持ちふうかな。シャーロンとシャシャが食事しながらお互いを語るとき、シャシャがタバコの煙を無意識にかけると「あら、ごめん」と謝っているのが、アメリカ帰りを意識した人物像だった。