ＭＡＣＨＯ　ＤＡＮＣＥＲ
　
88年：ＶＩＶＡフィルムズ／スペシャル・ピープル・プロダクションズ
監督：リノ・ブロッカ
主演：アラン・パウレ
　　　 ジャクリン・ホセ
　　　 ダニエル・フェルナンド
　　　 プリンセス・プンザラン
　　　 ウィリアム・ロレンソ
　ホモ・セクシュアルを描くにはフィリピンが最適の国の一つかもしれない。貧困から同性愛売春があとをたたず、マッチョ・ダンサーという職業まで成立している事情が横たわっているから。また、それだけに社会問題を提起しやすいといえる。
　リノ・ブロッカがリカルド・リーとアマド・ラクエスタの脚本を得てゲイ風俗の実態に迫った作品。
　アラン・パウレが主人公を演じ、アンヘレスでアメリカ人相手の同性愛売春をおこなっていたのだが、ルシタ・ソリアノ演じる母や幼い妹と弟を養うため、ボビー・サニョ演じる知人に誘われてマニラへでる。そこでたまたまダニエル・フェルナンド演じるマッチョ・ダンサーと出会い、自らも同じ世界へ足を踏み入れていく。
　ルシタやボビーの口から日本へいく話、アメリカへいく話、サウジ・アラビアへいく話がささやかれ、フィリピンの出かせぎ体質がうかがえる。
　映画は実にリアルに夜の歓楽街をとらえようとする。最初にアランが案内されたジョエル・ラマンガン演じるママ（といっても男）がアランをヴァージンと聞いて「ヴァージン、ヴァージン」と騒ぎ、チンポをチェックする店では、複数の男たちが真っ裸で踊り、客のほとんどがアメリカ人の男。チャーリー・カタリア演じるママ（やっぱり男）の店ではオカマの歌のショーが入り、二人のダンサーが濃厚なステージを繰り広げ、客はフィリピン人の男女になっている。トニー・マベサ演じる老人などに体を売ったあと、アランがダンサーを始める決心をして、ダニエルが腰をくねらせる踊りかたを指導。みんなで練習風景がなんというか、妙におかしい。
　ダニエルのほか、ウィリアム・ロレンソ、ティモシー・ディワ、アンヘロ・ミゲル演じるダンサー仲間はシャブにはまり、ラリったときにアランだけが正気で、自殺になりかねないロシアン・ルーレットをとめようとするあたりが狂気に満ちる。
　ジョニー・ウィルソン演じる警官が賄賂をとって顔をきかせ、アランをいいがかりでボコボコなめに合わせる。アランとダニエルがホモ・ヴィデオの仕事をウィリアムからまわしてもらい、出演料が約束より少ないとウィリアムに説明を求めると「ジョニーへの上納金だ」との答えが返ってくる。
　ドラマはジャクリン・ホセ演じる売春婦とアランが知り合って、ジョニーの暴行で傷ついたアランをジャクリンが手当てしたのがきっかけでセックスに発展。アランとジャクリンが一緒に寝ているのをみてダニエルが軽く嫉妬といった、ゆだんだ三角関係が暗示される。あとでアランが本気でジャクリンに交際を申しこむのだが、自分たちの境遇をよく悟るジャクリンはアランへの愛をふりきって「しょせん私は売春婦、あなたはマッチョ・ダンサーよ」と別れを示唆する。
　核をなすのはダニエルがアランに相談し、プリンセス・プンザラン演じるダニエルの行方不明の妹を探すエピソード。警察に捜索願いをだしても門前払いで、きっと夜の仕事をしているに違いないと二人でゴーゴー・バーや売春宿をまわる。全盛期のマビニのビキニ・ダンサーたちが踊る店内や、ひな壇に女性のみならず、十代半ばの少年たちがならぶ置屋の光景がさり気なく紹介されるだけに、いっそうの衝撃性が伝わってくる。ついに売春ホテルで発見となり、マネージャーが各部屋の女の子をみせてまわるとき、太ったおばさんまでいるのに絶句。泣き崩れるプリンセスが、裏商売に潜む人身売買の罠を教える。アランの協力でダニエルがプリンセスを連れだすものの、駆けつけたジョニーに殺される。ザーッとどしゃぶりの雨の中を三人が逃げる緊張感は、さすがにハラハラを伴う。預金通帳にあったカネをプリンセスにもたせ、フェリーで田舎へ返してやると、アランがジョニーを尾行のうえに射殺する。
　とにかくプリンセスが働くホテルへの侵入が、どこかめかけとして囲われる恋人に会おうともがく『ＭＡＹＮＩＬＡ　ＳＡ　ＭＧＡ　ＫＵＫＯ　ＮＧ　ＬＩＷＡＮＡＧ』を連想させる雰囲気で、リノのタッチが生きる。野球帽をかぶってバットをふりまわし、ダニエルのケンカをとめるレズのおばさんスタッフや道路にゲロをはく娼婦といった人物をところどころに盛りこみ、プリンセスの悲惨な現状をみて自棄酒に狂うダニエルをなぐさめてアランがキスをかわし、いつしか仕事ではなく本当にホモで結ばれているあたりが強烈な印象を残す。正直いうとリノにしてはいささか表面的な事象をとらえすぎて深みを欠く面があるにせよ、なかなかの力作。
　ダニエルとウィリアム、アランとダニエル、アランとウィリアムの三度でてくるステージはブリーフ一枚で石鹸をぬりたくって体をこすり合い、お互いにパンツを脱がせて全裸になると水をかけて石鹸をおとし、寝ころんでからむ演出で、もうゲイに趣味のないものにすれば気持ち悪いこと、このうえない。白人客の前でずらっと真っ裸のまま椅子に座った男たちがチンポをしごいて勃起させるシーンでは全員のチンポがはっきりと映っていて、ホントにいいのって感じ。アランとジャクリンの二度あるセックスは、一回目の乳首がのぞく寸前の露出が興奮をくれる。これらの濃厚な裸体や愛撫のシーンを含め、１３６分を一気に語りきるリノのテクニックには、あらためて感心するばかり。
　役者ではハダカになって頑張る男たちもだが、アランに別れをつきつけたあと、こらえきれない涙を流す表情をしばらくカメラがじっととらえるジャクリンが絶賛にあたいする。アランの出発をみおくりながら、思わず「気をつけて」と声をかけるルシタが、複雑な母の心理をたくみに伝えている。
　まったく、やるせない内容だ。