ＬＯＲＥＴＴＡ
　
94年：オクトアーツ・フィルムズ
監督：メル・チョングロ
主演：ガビー・コンセプション
　　　 ルッファ・グチェレス
　　　 ジャクリン・ホセ
　　　 パトリック・デラ・ロサ
　　　 ローズマリー・ヒル
　　　 デクスター・ドリア
　　　 トビー・アレハル
　　　 マニー・カスタニェーダ
　　　 ケヴィン・デルガド
　　　 ラウル・アレリアーノ
　　　 ジェネット・フェルナンド
　　　 ジェニファー・メンドーサ
　　　 チェリー・パイ・ピカチェ
　チン切りを扱う作品である。
　以前、タイに恋人がいたころ、一緒に寝ているときにときどきチンポを左手でつまみあげ、つけ根のところに右の掌を手刀にして「カット、カット」とふざけながら当てていたのを記憶している。確かにチン切りといえばタイで、浮気したからと亭主のチンポを切りとり、鶏のエサにしてしまったとのニュースをちょくちょく読む。知人の中には一度、浮気がバレて、恋人が鶏を買ってきたので「ヤバイ」と感じ、駅やバス・ターミナルは恋人の親族関係者が見張っている可能性が高いため、アユタヤまでタクシーで行って、そこからチェンマイまでバスで逃げたという経験をもつ者がいる。タイほどではないにせよ、フィリピンにも少なからず起きるようだが、たまたまイロイロへ行ったときに親しくなった女の子から、マニラへ帰って「パルパロしたら、チンチン切るからね」と脅された思い出があるので、他人ごとではないかもしれない。
　映画はいかに主人公が夫のチンポを切るに至るかがドラマの焦点であり、単なる浮気への怒りから発作的に、というレヴェルでないのはいうまでもない。
　ルッファ・グチェレス演じるのはブラジャーの裁縫工場へ勤める女性で、タイトル・バックの作業風景が興味をそそる。美容師の見習いもしていて、ある日、マニー・カスタニェーダ演じるオカマのスカウト・マンから「美人コンテストに出場しないか」と声をかけられる。あっさり応じて、メイクやヘアをいじりながら変身していく過程が面白い。コンテストでは当然ながら水着審査があり、ルッファのボディー・ラインがワンピース水着にうかがえるのが嬉しいが、はたしてミスに誰が指名されるかのシーンは、けっこうハラハラ感を呼ぶ。
　かつてのイメルダの例が示すように、どうもフィリピンのコンテストには裏があるんじゃないか、と感じるも…
　さすが実際にミス・フィリピンの経歴をもつだけにルッファの美しさは際だっているが、なぜか選ばれず、悔し泣きしているとき、ガビー・コンセプション演じる主催者の一人がハンカチを差しだす。翌日、花やプレゼントを持参で、二人はそのままゴール・イン。
　と、これだけならシンデレラ物語である。
　しばらく楽しそうな新婚生活がおかれ、周囲からも羨望のまなざしを受けるながら…
　二人が海でデートするシーンは、ルッファの黒いワンピース水着がすごくセクシー。
　従兄弟連中とバカ騒ぎや、闘鶏に夢中になったり、浮気したりで、ガビーがロクなヤツでないとだんだんと明らかになってくる。しかも怒り狂ったあとにやさしく謝り、暴力を振るうとまた謝り…　の繰り返し。妊娠でお腹が大きくなっているのに、無理やりセックスを迫ったり、変態ぶりも発揮。あまりに激しく殴られて入院になったりも。
　並行してトビー・アレハル演じるガビーの従兄弟の妻であるジャックリン・ホセ演じる女性が夫からの暴力で死んでしまうエピソードや、ジェネット・フェルナンド演じるルッファの友人で“ウーマンズ・クライシス・センター”のスタッフが家庭内暴力の説明をするエピソードなどを挿入。このあたりの展開はちょっともたつき、それほど緊張感を引っぱりきれていないのが残念。
　ついにルッファが赤ちゃんを連れて逃げるもつかまり、夫と従兄弟たちの常軌を逸したパーティーに参加させられるあたりから盛りあがってくる。
　パーティーにはジェニファー・メンドーサ演じる処女が用意され、男たちは誰がヤルかを決め、わざとジェニファーを逃がすと、追いかけてレイプ。これだと極端に人間性を皆無におきすぎていないか、という気がしないでもないが、ガビーを同情のかけらもない人物に設定したいメル・チョングロ監督の演出意図は理解できる。
　そのあとルッファが逮捕されるシーンにつながり、ストーリーも中盤から、妻が夫を殺して裁判になる定番のストーリーだろうなあ、と予想していたものの、いったい何をしてつかまったのかを伏せて裁判へともっていく構成が、そこそこ意外性をついていて評価できる。
　証言の中でガビーがルッファを閉じこめ、パトリック・デラ・ロサ演じる従兄弟に犯させたあと、自分も無残に強姦。それで殺人ではなく、ルッファがガビーのチンポを切った事実がわかる。
　裁判所の外では女性たちの無罪を求めるデモが描かれ、どう考えたってこれは、たとえチン切りじゃなく殺人だったとしても無罪のケースで、もし有罪だとしたら女性には人権がないのか、と叫びたくなるくらいであり、はたして判決は…　とのクライマックスがグイグイと緊迫感をつくる。
　中盤までの退屈さとは打って変わって、後半になかなかみせる作品だといえるだろう。
　まあ浮気の発覚程度でカッとなって切られたらたまらないが、大ケガをさせるほどの暴力を振るったり、レイプしたりするヤツのチンポは全部切ってしまえ、といいたくなる迫力を感じさせた。